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第十二話(Magnesium):回復

翌朝、エリンの容態が回復しているのを確認した柚紀は、ヒューストンの工房に戻ろうとしていた。エリンも一緒に行こうとしたが、まだ咳が残っており、感染拡大の恐れもあったため、しばらく安静にするよう伝えた。また、医師会の医師たちにも次亜塩素酸ナトリウム溶液を配布し、感染対策を徹底するように伝えた。


工房に戻ると、サーモンが一人で暇そうに座っていた。しばらくサーモンを問い詰めたのち、ふと思い出したかのように柚紀は、サーモンと共にこの異世界に農業革命を起こすことを決意した。彼の農業に関する知識と、柚紀の優れた科学知識があれば、農業生産を安定させられると考えたのだ。


柚紀とサーモン、ヒューストン、スカーレットは工房のテーブルに集まり、計画を立て始めた。農業で効率的に作物を栽培するには、機械化と農薬が不可欠だと考えた。


「……サーモンは土地の調査に行き、ヒューストンは農業機械の工作を、俺とスカーレットは工房で大量生産できる農薬を模索する実験を始める。」


柚紀は、役割分担を決め、計画を実行に移した。


現代の農業は、アメリカのように広大な土地を少人数で機械を活用して耕作することで、効率的な生産を行っている。農薬は、ハーバー・ボッシュ法やオストワルト法などの工業的に大量生産が可能な反応を用いて、硝酸アンモニウムなどの肥料を作り、農業の大量生産を可能にしている。

 

(ハーバーボッシュ法は、水素と空気中の窒素を、触媒の四酸化三鉄などの下、高温高圧の環境で化学反応させると、アンモニアができる技術で、オストワルト法では、このアンモニアを、プラチナ触媒のもとで加熱し反応させることで、硝酸を作り出すことができる。この硝酸を様々な化合物と反応させることで、現代の地球では大量の農薬を作り出し、人類の食生活を支えているのだ。いわば、化学の集大成とも言える技術であるが、大きな闇の側面もある。)


※触媒は化学反応を促進する物質のことで、化学反応に必要なエネルギーなどを抑えることなどができる。


柚紀は、ハーバー・ボッシュ法は現在の段階では不可能だと考えていた。ハーバーボッシュ法は高温高圧の環境が必要で、その環境を用意するには、工業の発展が必須だからだ。


なんとかアンモニアを大量生産せねばと考えていると、妙に尿意を感じた。そして、柚紀は思い立ってしまった。尿にアルカリ性の物質を加えると、アンモニアが発生することを。倫理的ではないが、過去の日本でも糞尿を肥料にしていたことがあると思い出した。


「……尿からアンモニアを生産する。錬金術でもたびたび尿は使われてきたので問題ないだろう?。」


柚紀は、スカーレットに尿からアンモニアを生産する方法を説明した。スカーレットは顔を歪めたが、柚紀の計画に協力することにした。


「……アンモニアがあれば、オストワルト法で硝酸を作り、農薬を作れる。オストワルト法は、プラチナがあれば簡単に硝酸を大量生産できるようになる。」


柚紀は、オストワルト法を採用したが、プラチナを探すのは苦労するとも考えた。しかし、地球でも川などで時々プラチナが見つかることがあるので、それを期待した。


ヒューストンたちはそれぞれ研究や工作、調査を行っていたが、柚紀は昼時になると毎日エリンの看病に行っていた。そんな日が数日続き、いつものようにエリンの看病に向かうと、エリンの両親が病状を聞きつけ、アルカディアの首都から駆けつけてきていた。


「……柚紀様、娘を救っていただき、誠にありがとうございます。」


エリンの両親は、柚紀に深く感謝した。柚紀は、エリンの回復を喜び、両親に笑顔で答えた。


「……エリンさんは、もう大丈夫です。安心して首都にお帰りください。」


エリンの両親は、柚紀の言葉に安心し、首都へと帰って行った。柚紀は、エリンの回復と両親の感謝に、この異世界で安心を取り戻した。そして、柚紀はまた農薬の研究に戻る。彼は農業と医療で、この異世界の住人の生活を安定させ、今後の工業の発展に繋げるつもりである。

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