第十一話(Sodium):感染拡大
感染症は、エルムヴィレッジを襲い、多くの人々が苦しんでいた。柚紀たちは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の大量生産に全力を注いでいた。一夜中、彼らは海水を電気分解し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を作り続けた。
翌朝、柚紀はレイリーの診療所を訪れた。すると、レイリーからエリンが診療所で治療を受けていると聞いた。柚紀は、布でできた雑なマスクを付けて、急いで診療所のエリンがいるというベットに向かった。
診療所では、エリンがベッドに横たわり、苦しんでいた。そこには、彼女を看病していたスカーレットもいた。彼女は、宿で苦しんでいる彼女を見つけ、ここまで運び、看病を行っていたのであった。彼女は高熱にうなされ、意識もうろうだった。柚紀は、レイリーから細菌は検出できなかったと聞き、インフルエンザであると断定した。
「……エリンは、インフルエンザにかかっています。高熱と肺炎の症状が見られます。このままでは、重症化してしまう可能性があります。」
柚紀は、エリンの容態を深刻に受け止めた。彼は、冬になる前にアセトアミノフェンなどの解熱剤を合成できていればと後悔した。しかし、今はそんなことはできない。
「……今は、対処療法しかできません。水分と栄養を補給させましょう。」
柚紀は、水に栄養分を溶かした栄養液を準備した。しかし、この世界には注射器がない。柚紀は、即効性はなくなるものの、静脈注射ではなく、経口投与で栄養液を摂取してもらうことにした。栄養液の材料になる
食塩や砂糖、柑橘類の果物は無かったので、スカーレットとヒューストンに声をかけ、これらの材料を集めに行ってもらうことにした。
「スカーレット、ヒューストン、悪いが食塩、砂糖、柑橘類の果物を集めて来てくれないか.......?時間がないんだ。大急ぎで頼む。」
スカーレットもヒューストンも、柚紀のただならぬ気配を感じ取り、焦った様子でレイリーの診療所を飛び出していった。その後、エリンは、柚紀に自分のことは心配しないでくれと伝えた。柚紀はエリンに、とにかく落ち着いて楽にしているように諭した。
「柚紀さん、私は大丈夫ですから......他の病人の所へ......」
「いや、エリン、とにかく落ち着いて楽にしているんだ。」
ずっとエリンや他の病人の咳の音が響く中、じっとエリンの様子を見守っていたが、ついにスカーレット、ヒューストンが続々と帰ってきて、栄養液の材料を柚紀に渡した。
「柚紀さん、柚子を持ってきましたよ。」
スカーレットの言葉に酷く驚いた。この地域ではなんと、冬の柑橘類として、柚子が市場に溢れているのだった。自分の名前と同じ、柚子でエリンを助けられるとしって何だか複雑な気持ちだったが柚紀は安心したようっだった。
(柚子には、ぶどう糖やクエン酸、ビタミンCといった多くの栄養分が含まれているのだ。また、柚子は他の柑橘類同様、喉の痛みを和らげる作用もある。)
「……これで、輸液を投与できます。」
柚紀は彼らから受け取った材料を、いかにも中世らしい木製のコップに、入れていき、栄養液を完成させた。その栄養液を慎重に口から投与した。エリンは、栄養液を飲むことで、少し楽になったようだった。
「……柚紀様、ありがとうございます。おかげで、少し楽になりました。」
エリンは、柚紀に感謝の言葉を述べた。柚紀は、エリンに微笑み、励ました。
「……大丈夫だ。必ず治るから。」
そのとき、診療所のドアが開き、医師会の代表たちが入ってきた。彼らは、柚紀が彼らに現代の医療知識を教えた時から、注射器の開発を行なっていた。そして、ついに金属製の優れた注射器を完成させていたのだった。
「……柚紀様、この注射器は、私たちが開発したものです。ぜひ、使ってみてください。」
医師会の代表は、柚紀に注射器を手渡した。柚紀は、その細長く輝く銀色の注射器を手に取り、感激の涙を流した。更に彼らは、点滴の輸液も持って来てくれていたのだった。
「……ありがとうございます!これで、エリンをもっと早く治療できます。」
しばらくして、柚紀は注射器を使って、エリンに輸液を投与した。エリンは、初めての注射で、痛みを感じているようだったが、柚紀は優しく針を入れた。エリンはさらに楽になったようだ。
「……柚紀様、ありがとうございます。おかげで、本当に楽になりました。」
エリンは、柚紀に感謝の言葉を述べた。柚紀は、エリンに微笑み、励ました。
「……大丈夫だ。必ず治るから。」
柚紀は、エリンのそばで、夜を明かした。彼は、エリンが回復するまで、一刻たりとも離れることはできなかった。