何度転生しても、私はあの女と殺し愛する運命らしい
目が覚めると、私は知らない天井を見上げていた。
いや、厳密には知っている。何度も、何度も繰り返してきた。
——また、転生してしまったのだ。
「……今度は、どんな人生なんだ?」
私は手を見下ろす。
どうやら今回は、それなりに恵まれた貴族の娘らしい。
この人生なら、穏やかに生きていける……かもしれない。
——そう思ったのに、また彼女がいた。
華やかな宮廷、祝宴の夜。
金色の髪が月の光に照らされて、まるで神々しい女神のようだった。
彼女はそこにいた。
「お久しぶりね、ルシア。」
背筋が凍る。
その声、瞳、仕草、すべてが忘れられない。
「……また、お前か。」
「ふふ、やっぱり覚えていたのね。」
——また、リリアナと出会ってしまった。
彼女もまた転生者だった。
そして、また私は彼女と戦わなければならない。
私たちは、「運命の敵」。
生まれながらにして、お互いを殺し合う宿命にある。
でも、どうしてこんなに胸が苦しいのか。
どうして、何度も彼女を求めてしまうのか——。
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「ねえ、ルシア。今世では、殺し合うのをやめない?」
リリアナは微笑む。
けれど、その瞳には、狂気と愛が入り混じっていた。
「……冗談だろ?」
「いいえ、本気よ。」
彼女は私の手をそっと取る。
指先が触れただけで、背筋がゾクリと震えた。
「あなたを殺したくない。
あなたに殺されたくない。
……それなのに、私はあなたなしじゃいられないの。」
「……だったら、関わらなければいい。」
「無理よ。」
彼女は優しく囁く。
「私は、あなたがいないと生きていけないの。」
——ああ、やっぱりダメだ。
こいつは、前世から変わらずヤンデレだった。
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それでも私は、今世こそ平和に生きたかった。
だから、リリアナと正面から向き合い、冷静に話してみることにした。
「……殺し合いをやめるために、まずは適切な距離を取ろう。」
「適切な距離?」
「そう。私は私の人生を歩み、お前はお前の人生を歩めばいい。」
「……なるほどね。」
リリアナは考えるふりをして、微笑んだ。
「じゃあ、あなたの人生を歩くために、私もついていくわ。」
「いや、だから……」
「どこに行くの? 何をするの? 誰と過ごすの?」
——ストーカーになっていた。
まるで恋人のように、四六時中私のそばにいるリリアナ。
いや、恋人ならまだしも、これはもはや監視。
そして、ある日——
私は自室の扉を開け、驚愕した。
「お前……私のベッドで何してる?」
「寝てるの。」
「いや、私のベッドだよな?」
「あなたの匂いがするから落ち着くの。」
——ダメだ、こいつとは平和に暮らせない。
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「ルシア、やっぱり私たちにはこれしかないのね。」
荒れ果てた大地に、炎と灰が舞う。
遠くで響く戦鼓の音、戦士たちの叫び、折れる剣の音。
ここは、『運命の戦場』。
かつて、この世界には預言があった。
『双星は出会い、愛し合い、そして憎しみ合い、世界の覇権を懸けて争う。』
それは、私とリリアナのことだった。
私たちは、この時代の最強の魔法剣士と最強の聖女として生まれた。
敵対する国家に属し、国の未来を背負う存在として。
「これで決めるわ、ルシア。」
リリアナが手を掲げると、彼女を崇拝する数千の聖騎士が剣を掲げる。
彼女は、聖なる光に包まれた救世の象徴。
私は、暗闇の中で生きる王国の最強の剣士。
「そうだな、これで決めよう。」
私は静かに剣を構えた。
もはや、逃げることは許されない。
国も、王も、世界も、私たちが決めるこの戦いの行方にかかっている。
私とリリアナ、どちらが勝つかによって——
世界の覇権が決まる。
「あなたを愛しているからこそ、私はあなたを倒さなきゃいけないの。」
「私も、もう何度目かもわからないが、お前を殺さなきゃいけないらしい。」
運命は、また私たちに剣を取らせる。
最初に交わしたキスのように、鋭く、熱く、狂おしい衝突。
剣と魔法が火花を散らし、光と闇が激しくぶつかり合う。
私たちは、何度も転生し、何度も出会い、何度も戦い続ける。
愛し合いながら、傷つけ合いながら、殺し合う。
「なあ、今度こそ、決着をつけようか?」
「ええ。でも、あなたを殺したら……私も生きていたくないわ。」
私たちが終わる日は、永遠に来ないかもしれない。
けれど——
「それでも、私はお前と戦い続ける。」
「ええ、私もよ。」
二人の剣が交差する。
こうして、世界の未来を賭けた戦いが幕を開けた。
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目を覚ますと、青空が広がっていた。
「……またかよ。」
転生していた。
そして——
「おはよう、ルシア。」
目の前には、リリアナがいた。
「……もう、うんざりだ。」
「嘘つき。また会えて嬉しいくせに。」
私はため息をつく。
「今度こそ、殺し合いはやめような?」
「ええ、考えておくわ。」
ニコリと笑うリリアナ。
いや、絶対やめる気ないだろ。
でも、私も——
「……まあ、またお前と出会えたなら、それも悪くないか。」
こうして、私たちの転生無限ループ・殺し愛ライフは、また始まる。
**(終わらない)**