第8話 最後のあがき
凡ミスにより『メイドの教育係』を倒し損ねたアカバンは、そのままターンエンドを宣言。ゲームは4ターン目に突入する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
4ターン目
グラサン ライフポイント10 手札7
『白の領土レベル3(白3)』=『メイドの教育係(3/1)』
『メイド養成教室レベル1(なし)』=『メイド志望者(0/1)』
アカバン ライフポイント7 手札6
『赤の領土レベル3(赤3)』=『可能性の爬虫卵(0/3)』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「俺のターン、ドロー。『メイド養成教室』をレベルアップさせ、更にドロー……その卵、次のお前さんのターンで【進化】するんだったか。さて、どうしたもんかね」
「ふん、どうせ放置して俺を攻撃すんだろ?」
「ククッ、バレたか。じゃあ、お言葉に甘えて――の、前に」
グラサンが手札からカードを選択する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『伝統の古包丁』
分類:戦略 レア度:C コスト:白1無1
【メイド】の【領主】1体を対象に+2/+0
【継承(メイド)】継承した【領主】を+2/+0、を効果に追加する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「俺も【戦略】カードを使わせてもらおうか。『伝統の古包丁』を『メイド志望者』に装備」
「お、おいおい、おい待てって……!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『メイド志望者』
分類:領主 レア度:UC コスト:無1 タイプ:人間、メイド
攻撃力0⇒2/防御力1
【継承(メイド)】継承した【領主】を+0/+1
【継承(メイド)】継承した【領主】を+2/+0(new!)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ア、アンタ、ここで終わらせるつもりかよ!?」
「手札にもう1枚『伝統の古包丁』があれば、それもできたんだけどな。生憎、俺はそこまで豪運じゃねぇよ。つう事で、ダブルでカードマスターに攻撃だ」
「ふぐおうっ!?」
頬を思いっきり叩かれた後、包丁を深々と突き刺されるアカバン。痛みも衝撃もない筈だが、彼は後方へ派手に吹き飛んで行った。そして、なぜか幸せそうでもあった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アカバン ライフポイント7⇒2
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――って、堪能している場合じゃねぇ! ギリ生き残ってはいるけど、それでもライフがやべぇ!」
「だな、次の手番で何とかしねぇと手遅れになるぞ。残りの【税】白2を使い、『メイドの奏者』を【継承】召喚。対象は『メイドの教育係』だ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『メイドの奏者』
分類:領主 レア度:C コスト:白2 タイプ:人間、メイド
攻撃力1⇒3/防御力1⇒3
【領主】が置かれていない自陣の【領土】に『奏者の分身』を召喚する。
【領主】が既に居る場合、それが【メイド】であれば【継承】してもよい。
但し、この『メイドの奏者』は対象外とする。
【継承(メイド)】継承した【領主】を+1/+1
【継承(メイド)】継承した【領主】を+1/+1(new!)
【継承(メイド)】デッキからランダムに1枚手札に加える。(new!)
【継承(メイド)】継承した【領主】を+1/+1(new!)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ヴァイオリンを手にしたメイドが現われ、『メイドの教育係』と場所を交代する。【領主】を代わった為、『飛び交うマグマ』で与えていた2ダメージも帳消しである。
「ぐぬ……!」
分かっていた事とはいえ、三度も【継承】が重なれば効果欄も凄い事になる。まだ対処可能な能力値なのが不幸中の幸いだが、これ以降、元の値も大きな【領主】が重なれば――そこまでアカバンの思考が行き付いたところで、『メイドの奏者』が自身の能力を発動させた。
「例の如く、【継承】効果で1枚ドロー。そして、こいつは【継承】可能な【領主】をもう1体生み出すぜ。もちろん、対象は『メイド志望者』だ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『奏者の分身』
分類:領主 レア度:C コスト:無1 タイプ:人間、メイド
攻撃力1⇒4/防御力1⇒3
【継承(メイド)】継承した【領主】を+1/+1
【継承(メイド)】継承した【領主】を+0/+1(new!)
【継承(メイド)】継承した【領主】を+2/+0(new!)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『メイドの奏者』がヴァイオリンを奏でると、彼女とそっくりな分身体が『メイド志望者』の近くに出現。ハイタッチを交わした後、能力値がぐんと伸びる。
(こ、こっちもやべぇ!?)
元は攻撃力0、防御力1でしかなかった『メイド志望者』が、たった一代の【継承】で強力なユニットに化けてしまった。【継承】時に働く『メイド養成教室』の効果が地味に、だが着実に効いている。
「これで俺はターンエンド。さあ、お前さんの気概を見せてみな」
「お、俺の、ターン……」
アカバンはターン始めのドローをした後、新たな『赤の領土』を自陣に設置。そしてその次の瞬間、『可能性の爬虫卵』が【進化】の時を迎える。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『火吹き山のリザード』
分類:領主 レア度:UC コスト:赤2無2 タイプ:ドラゴン
攻撃力4/防御力3
【速攻】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
卵が勢いよく炸裂し、その中より真っ赤な大蜥蜴が誕生。即攻撃が可能な【速攻】持ち、しかも攻撃力が高い。元が【税】2つ分のコストである事を考えれば、破格の能力だと言えるだろう。……しかし。
(あいつと相打ちにして、だが、その後は……?)
アカバンの表情は暗い。彼がこれ以降もゲームを継続させる為には、敵【領主】2体の破壊が最低条件だ。でなければ、残りライフポイントが2しかないアカバンは、直接攻撃にて仕留められてしまう。『火吹き山のリザード』でどちらかと相打ちには持ち込める。だが、現在の5枚の手札のうち、もう一方に3ダメージを与える方法は――先のターン、迂闊に『飛び交うマグマ』を使ってしまった事を、アカバンはこれ以上ないほどに悔いていた。
(……サレンダーは、できねぇな)
最早、勝つ事はかなわない。ここで重要になるのは、どう負けるか。天使の言葉を頭の中で反復させ、アカバンは全力で最後の抵抗をする事へと舵を切った。そして――
「――『メイドの奏者』でカードマスターを攻撃。良い勝負だったぜ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アカバン ライフポイント2⇒0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
5ターン目、グラサンの勝利が決まる。