第64話 レアカード
「お、お似合いですよ~? 本当にお似合いかと~……ではでは、またのご来店をお待ちしております~」
「「……」」
魔法鞄の下見をする為、俺とクロマはノームランドの専門店へと赴いていた。初見の俺にはよく分からなかったが、クロマ曰く相当に良い品が揃っているようで、しかも他の店と比べてかなりお買い得なんだそうだ。俺としてもこの容量でこの値段なら、といった思考となり、その日のうちに購入を決める事に。いや、後悔はしてねぇよ? 実際良い品だと思うし、決まった住まいを持たない俺らカードマスターにとって、心強い収納場所となる魔法鞄の存在は、今後必須となるだろうからな。ただ、ただなぁ……
「……なあ、何でアタッシュケース型を勧められたんだろうか?」
ノームの店員に見送られながら店を出た後、吐き出すようにそんな言葉を口にした。
「普通の鞄よりも似合ってるから、としか……」
そう、俺が店員に勧められて購入したのは、大変にごついアタッシュケースだったのだ。自分の腕に手錠を繋いで、盗難を防ぐ素敵機能付きである。……ただ、でかい。一般的なもんよりも一回りでかい。しかも重い。
「思ったんだけどよ、見た目にかかわらず入る容量が同じなら、鞄自体軽くて小さな方が良いんじゃねぇか? それこそ、クロマの持っているやつみたいによ」
「そ、それはそうかもだけど、信じられないくらいにグラサンに似合ってるし……? それに、それってアタシが持ち上げられないレベルで重いから、絶対に盗まれないと思う……んだぜ?」
「頑張って理由を捻り出してくれて、ありがとよ」
やはり心配になるのは、これを持っていて職質されないかって点だ。俺みたいな見た目の輩がこんなのを持っていたら、これからどこに取り引きをしに行くんだ? って怪しむのが普通だからな。ただ、確かに防犯的な意味では絶対の安心感があるかもな。こんな雰囲気を晒す俺から盗もうとする奴なんて殆どいねぇだろうし、そもそも運ぶどころか持つのもキツイっていう。
「ふう、これを選んじまったからには、上手く付き合――いや、使っていくとするか」
「?」
クロマが近くに居る今、まぎらわしい台詞回しは避けるのが吉。これ以上、不必要な愛憎を深められても困るからな。とりあえず、現在の俺の数少ない持ち物である本とマントを収納。うーん、変わらず重い。
「さて、俺の用事は済んだ訳だが……クロマ、色々助言してくれたんだ。お前さんの買い物、その荷物持ちくらいはって、いや、その鞄があるのなら、そもそも荷物持ちは要らねぇのか?」
「いるいる、超いるから! この鞄だって無限に入る訳じゃねぇから!」
「どんだけ買い物するつもりなんだよ……」
とか言いつつも、クロマの買い物に付き合う事に。衣服とかもノームサイズだったらどうしよう、みたいな疑念が多少あったが、魔法鞄と同じく通常サイズも普通に売られていた。
「あれ? さっきグラサン、経費でそれ買ってたよな? アタシも買えたりする?」
「お前さんはスポンサー契約を結んでねぇだろ。普通に自費で買え」
「クッ……! ま、まあ良いよ、アタシも昨日のバトルで稼ぎまくったし? 新しいパックが販売されるのも、多分次のエリアからだし? 懐の余裕も多分きっと大丈夫……!」
「だからって、あんまり調子に乗って買うな――ん? つか、新しいパックって次のエリア、レベル5で販売されるのか?」
「あー、うん、多分な。どこで聞いたかは忘れたけど、この世界って2層ごとに新しいパックが売られるようになるらしいんだよ。最初の基本パックはレベル1、次の2色パックはレベル3、となれば次はレベル5だろ?」
「ああ、そういう事か」
確定という訳ではないようだが、それなりに信憑性のありそうな話である。しかし、次のエリアでもう新パック発売か。ここまで結構な勢いでレベルアップしてきたから、既存のパックも全然カードを揃え切っていないんだが。つか、SRもそうだが、その上のSSR、更に上のLも本当に各種パックに入っているのか? 各種パックにあり、それも何種類もって枠組みだったら、絶対に揃えられる気がしねぇ。Lカードとか、もう雷に打たれるとか宝くじで幾億円当たったとか、そういうレベルの運が必要だろ。いや、もしかしたらそれ以上か?
「……クロマ、お前さんはSSR以上のレアカードを見た事があるか?」
「何だよ、また急な話だな。でも、SSR以上のカードかぁ……うーん、レベル3のバトルじゃSRを見るのも稀だったし、アタシ自身もそのレベルのレアカードは持ってねぇな~」
「そうか……まあ、そう言う俺もSRまでしか持ってねぇんだけどよ」
「へえ、グラサンもSRを――って、ちょい待て! グラサン、アタシとのバトルでSR使ってなくね!? 持ってたのか!?」
「ん? ああ、持ってるぜ? けど、あの時はデッキからリタイアゾーンに落とされて、なかなか使う機会がなくてな。って、おいおい。一応、俺のリタイアゾーンは対戦相手だったお前さんもチェックできた筈だぜ? 気が付かなかったのか?」
「うっ……! だ、だってあの時は、フィールドのメイドちゃんの能力を把握するので一杯一杯だったっつうか……」
あー、そういやそんな感じだったっけ。
「ア、アタシの事は今はどうだって良いだろ! それよりも、超レア級のカードについて! レベル4のカードマスターが持ってるかどうかは分からないけど、一番可能性が高いのは、やっぱ企業七騎の奴らじゃん?」
「お前さんもいきなり一番ヤバい奴らの名前を出すのな。まあ確かに、この世界でトップを張っている奴らだ。持っていたとしても、全然不思議じゃねぇか」
オジョーならLの1枚や2枚は普通に持っていそうだしな。何なら、転生した初日のパックで引くくらいはしていそうだ。
「ただ残念なのは、そいつらが気軽く会えるような面子じゃねぇって事だな。どのレベルに居るのかも不明だし、少なくとも俺らが同じ土俵に上がるまでは――」
「――いや、会えるぜ? このレベル4ならよ」
「……は?」
予想もしていなかったクロマの言葉に、思わず思考を停止してしまう。
「……会えるって、企業七騎にか?」
「まあ、絶対かと言われれば怪しいところだけどよ、このレベル4には企業七騎第六席のゴキョージュが居る可能性がある」
「第六席のゴキョージュ……」
名前を言われ、本で見た情報を思い出す。確かシチサンとは真逆属性の白衣眼鏡、だったっけ?
「ゴキョージュはプライマルアカデミーって会社と契約してんだけどさ、その本拠地がこのレベル4にあるんだよ。カードマスターの学校みたいなところ? らしくってさ。時間がある時はレベル4まで下りて来て、そこで先生をしてんだとさ」
「ああ、そういやそんな話、本にも書いてあったっけ」
なるほど、チマミレみたいに仕事の一環で下のエリアに来ているパターンか。
「けど、学校か……こう言うのも何だけどよ、レベル4に来て今更学校ってどうなんだ? 普通そういうチュートリアル――習う系のやつって、最序盤のレベル1に置くもんじゃねぇのか?」
「そ、そこまではアタシも知らねぇし。まあ学校のシステム云々は置いておくにしても、今一番対面できる可能性があるのは、そのゴキョージュじゃねぇかな。変人揃いの企業七騎の中では、第一席と同じくらい話の通じる奴だって聞くし、運よく会えてお願いすれば、Lカードを見せてくれっかもよ?」
「いやいや、どんなに良い奴だったとしても、自分の切り札を晒す事はしねぇと思うんだが……けど、会ってみるのは面白そうかもな」




