第43話 厚遇
俺とシラスはレイコ社長に連れられ、ブティックらしき店を訪問。そこには砂漠仕様と思われる服がズラリと並んでいた。だが、その中から俺らが服を選ぶ出番はなく、レイコ社長がぱっぱと選択&購入。入店から5分とかからず、俺らの買い物は終わるのであった。
「うお、サイズピッタリじゃねぇか。社長、よく見ただけで分かったな?」
「私の力じゃないわ。この世界の衣服は装備者の体格に合わせて、自動でサイズを調整してくれるの。だから、私はデザインで決めただけよ」
「す、涼しい! オアシスの外で炎天下に晒されても、全然暑くないです!」
無表情はそのままに、だが今日一のはしゃぎようを見せるシラス。それもその筈、買った服に着替えてから、さっきまでの暑さを全然感じなくなったんだ。これも不思議パワーをふんだんに取り入れているんだろうが、現実じゃまずできない芸当だ。まあ、全身の服装が変わったシラスと違い、俺はスーツの上に軽くマントを羽織っただけなんだが……ほんの少しだけ扱いが違くね? いや、効力は同じっぽいから、全然問題はねぇんだけどよ。
「グラサン、少し不満そうね? ターバンも欲しかったかしら? それとも、基本がスーツのままだから?」
「いや、そういう訳じゃねぇけどよ。まあ、確かにそれっぽい恰好をしてみたいって気持ちもあるっちゃあるが」
「あら、少し意外ね? けど、知らないの? スーツも砂漠では有効な服装のひとつなのよ?」
「え、そうなのか?」
「現に私もスーツ姿じゃない」
確かに、会った時からレイコ社長は高級スーツ(若干ファンタジー色強めだが)を着こなしている。この砂漠においてもそうだ。ただ、彼女は人間じゃないから、果たして俺らと同列に扱って良いものなのか……まあ、涼しければ何でも良いか。
「しかし、マントひとつでこんなにも変わるもんなんだな? これなら、オアシスも関係なく過ごせるじゃねぇか」
「当然よ。それ、レベル3で販売している装備の中でも、最高級かつ最高性能のやつだからね。このブランドの常連にならないと、そもそもショップの一覧にも表示されない代物なの。値段相応の働きをしてくれなくちゃ、詐欺もいいところだわ」
「……ちなみに、おいくらしたんで?」
「あら、知りたいの?」
「いや、やっぱ遠慮しとく……」
「2人とも、見てください! こんなに走り回っても全然平気です! でも、お腹は空きました!」
初っ端からとんでもない衣食住の保障をされてしまい、この後にどんな働きぶりを要求されるのかと、頭を抱えてしまう。そんな俺の心境を知らないシラスは、元気な犬の如く砂の上を走り回っており――こいつの走り方、何か本当に犬っぽいな。ひょっとして、ニクショクと同じ世界の出身なのか?
「そうね、今後の予定も話しておきたいし、それを兼ねて食事に行きましょうか。オアシスの外になるけど、今の装備なら問題ないでしょ」
そんなレイコの提案のもと、レベル3の飯処へと移動する俺達。ここの建物は全て石造りとなっていて、建造物としては、これまでで一番まともなものになっている。椅子やテーブルも代用品ではなく、また壊れてもいない。現代レベルとまではいかないが、生活するのに不便を感じる事はないレベルだ。まあ、それら文明力を無に帰す暑さがあるから、ここでの生活を拒む者も多いんだろうが。
「へえ、メニューもなかなか豊富だな。肉も野菜もデザートもありやがる。内容もしっかりと料理だ」
「ど、どの料理を選べば良いんでしょうか!? レイコ社長、保障されている分の予算は……?」
「予算? まあ、この程度の値段であれば、全メニューを頼んでも構わないわよ? ちゃんと食べ切るんだったらね」
「ヘイ、マスター! 大至急、全メニューください!」
「お前、さっきポテトブタフライの爆盛り食ったばっかじゃねぇか……俺はまだ腹は減ってねぇから、酒だけ頼んでおくかな」
「グラサン、真っ昼間から酒ですか? それ、大人としてどうなんです?」
「真っ昼間から大食いかましている奴に言われたくねぇよ。それに、どうせこれから仕事だろ? 今日はこの一杯だけで済ませるつもりだ。これなら飲んだ程度に入らん」
「いや、普通に入ると思うのですが」
失敬な。俺のアルコール分解力を知らないと見える。それに、俺は飲んだ後のマナーはしっかりと守る派だ。車には乗らねぇし、周りの奴らにダル絡みする事もねぇ。ただただ酒の味を楽しみたいだけだ。
「しかしよ、マジで日々の食費を補ってくれるんだな。今日はレイコ社長が居るから良いが、それ以外ん時の支払いはどうすれば良いんだ?」
「支払いの時、レイコーポレーションの名前を出してくれれば良いわ。あとはうちの経理が処理するから。ああ、当然だけど保障内容と関係のないものには使えないからね? 食事は基本的に何でも通るけど、衣服は少し審査が厳しくなるわ。衣食住の最後の住については……今の貴方達のレベルだと、個室レベルの宿を用意できる程度かしらね」
「おお、素晴らしきスポンサーの力……! 私、レイコ社長と知り合えて、心から良かったと思っています。最初はとても口が悪かったような気がしますけど」
「フフッ、力を認めた相手には尽くすタイプなのよ、私」
「……」
シラスとレイコ社長が和気藹々と話しているが、一方の俺はさっきの服の件に引き続き、不安に苛まれる真っ最中だ。いつも二手三手先を読んでいるシチサンに倣う訳じゃないが、いくら何でも待遇が良過ぎる。シラスの食費は明らかにおかしい筈なのに、顔色を全く変える事なく許容している。つまりよ、ここで投資した分以上の儲けを、レイコ社長は俺とシラスに期待しているってこった。十中八九裏絡みなんだろうが、なかなかタフな仕事になりそうである。
「それじゃ、そんな尽くしてくれる社長に俺らは応える必要があるな。で、今後の予定ってのは?」
「さて、どこから説明したものかしらね。じゃ、まずは当面の目標について話しておこうかしら?」
「ふぉふぉめんまぐもぐ?(当面の目標?)」
「シラス、食べている最中に無理に話さなくても良いから」
注文した料理は瞬間的に手に入る為、シラスは既に豪遊モードに入っていた。もちろん、俺も酒を片手に拝聴している。
「2人とも、レベル5を目指しなさい。そこにうちの本社があるから」
「本社って、レイコーポレーションのか?」
「そ。まずはスポンサー契約者間の格付けを決めておきたいのよね。それで任せる仕事も変わってくるし、身内の顔合わせくらいはやっておきたいじゃない?」
「んぐんぐ……ゴクン。ちなみになんですが、私達の他には何人居るんですか? 他の方々はもうレベル5に?」
「貴方達を含めて全部で7人、レベル5に到達しているのは1人だけね。契約を結んだ時期もスカウトした担当者も違うから、正直社内でも色々とすり合わせをしている最中なのよ」
「へえ、てっきりワンマンのレイコ社長が全員分やっているのかと思ったが、他にも担当している奴が居るんだな?」
「私、自分の見る目に自信は持っているけど、過信はしていないもの。私が決める枠はグラサンとシラスの2人分に留めて、あとは他の幹部に任せているのよ。まっ、それはあくまでレベル5へ無事に到達したらの話で、今直ぐって話題じゃないわ。あ、期間中にレベル5に辿り着けなければ、自動的に格付けは一番下になるけどね?」
優雅にコーヒーを口に含みながら、ちゃっかりと警告をかますレイコ社長。
「今最優先すべきは、何よりもデッキを強化する事。フォルスオアシスに入場した時点で、新しいカードパックが購入できるようになっているわ。いえ、正確には解放できるようになった、と言うべきかしらね」




