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黒眼のカードマスター ~無頼漢の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
レベル1 廃坑地帯アウトカースト
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第2話 天使

 ――スパコォォォン!


 真ん中に立っていた金髪の天使がデスゲームの宣言をしたかと思えば、今度はその後ろに控えていた黒髪の天使が、見事なハリセン捌きを披露し始めた。まあ言ってしまえば、金髪天使の頭部にハリセンをぶち当てたってこった。すげぇ良い音したよ、今。


「いっだぁぁぁ!?」

「天使十三位、予定にない勝手な発言は控えてください。何ですか、デスゲームって? 上に報告しますよ?」

「ちょ、ちょっとふざけただけじゃん……!」


 登場時の威厳はどこに行ってしまったのか、金髪天使は涙目状態である。そんなに痛かったのか、あのハリセン。つうか、デスゲームは全然関係ないらしい。一体何なんだ、こいつらは?


「クッ、天使二十五位の分際で、私の高貴な頭にツッコミを入れるだなんて――ハッ!? ……コホン。ええっと、突然このような場所で目覚め、皆様は酷く混乱した状態にあると思います。ですが、どうか落ち着いて私の話を聞いて頂きたいのです」

「「「「「……」」」」」


 急いで取り繕ったようだが、もう時既に遅しである。大体の奴らはジト目状態だ。


「まず、皆様がこの場所に集められた理由についてお伝えしたいと思います。皆様は死にました。死因は人によりけりですが、ともあれ死にました。ご愁傷様です」

「ふ、ふっざけるなぁ~~~!」

「冗談も休み休み言えッ!」

「お前らが俺らを拉致ったんだろうが! 適当な事を言うんじゃねぇよ!」

「おお、神の御使い、御使い様がいらっしゃった……!」


 ……何を言うかと思えば、どうもここは死後に行き付く場所であるらしい。それにしては無機質な場所を選んだものだな、おい。さっきまで呆れていた連中も、遂に抗議を開始。いやあ、何とも怖いもの知らずな行動だ。臆病な俺にはとてもできそうにない。約一名だけ、目頭を熱くしているエルフも居るが……見なかった事にしておこう。


「グラサン、お前は文句を言わなくて良いのか?」

「お前、分かって言ってるだろ? アレを相手するくらいなら、熊を相手する方がまだマシってもんだ」


 そう、一見ふざけた見た目と言動をしている天使共だが、アレらには絶対勝てないと俺の本能が警報を鳴らしている。上位存在、とでも言うのかね? それくらいの生物としての格差が、俺らとあいつらの間にはあるように思えた。喧嘩っ早い俺も、流石に勝率0パーの喧嘩なんてしない。奴らの言うところの死んだ上で、また死を重ねたくはないからな。


「はい、クレームは随時受け付けていますよ。ですが皆様、今一度思い出してみてください。ここで目覚めるよりも前に、自身が何をしていたのかを」

「何をってお前、それは、えと……」


 目覚める前、か。ちなみに俺の場合、シチサンを助手席に乗せて車を運転していたって事は覚えているんだが、その後が思い出せない。俺だけならまだしも、記憶力の良いシチサンまでもが思い出せない状態だった。まあ、事故ったのか襲撃に遭ったのか、ともあれ死んじまう要素は十分にあるわな。


「ぽっかりと記憶が欠如していますよね? それ、死ぬ直前の記憶をこちらで消しているからです」

「は、はぁっ!? そ、そんな事、意図してできる筈が――」

「――我々にはできるのです。現にここに集まって頂いた百人の皆様、全員が思い出せないでしょう? 死ぬ瞬間ってショックが大きいですからね。トラウマになってもらっても困りますし、こちらのサービスの一環でプチっと消させて頂きました。ああ、御礼の言葉なんて要りません。これも仕事ですので」

「……」


 天使の圧、そして曖昧な記憶に押し負けてしまったのか、最前線で文句を言っていた男達が黙ってしまった。代わりにその背後で、さっきのエルフが天使を拝み通しているが……天使もエルフからは視線を逸らしているように思える。


「死に瀕した皆様が向かう先、それは天国でも地獄でもありません。厳正なる抽選の結果、選ばれし皆様には新たなる人生を歩んで頂く事になりました。これはレアな体験ですよ、おめでとうございます!」

「新たなる、人生……?」

「そう、異なる世界での新たなる旅立ちです。ここはもう一つの現実世界、ある意味で生前そのままの状態で転生したとお考えください。良かったですね。これまでの経験や知識、持ち越しですよ? ほら、もっと喜んでください!」

「え、ええっと……」

「失礼、その前に質問が。それで、あなた方は私達に何をさせるつもりなのでしょうか? その新しい世界とやらに、意味もなく転生させた訳じゃないですよね?」


 質問を飛ばしたのはシチサンだった。この空間の後方に控えていたのもあって、皆の視線が俺らの方に移る。が、天使以外のそれら視線は一瞬で散ってしまった。慣れている筈なんだが、あのエルフと同じ扱いをされているようで、少し悲しい。


「良い質問ですね。そちらの方が仰る通り、実のところ、皆様にお願いしたい事があるのです。ああ、勇者として魔王を討伐しろとか、そういった無茶振りをするつもりはありませんので、どうかご安心を。この世界は暴力といった理不尽を徹底して排除した、とても優しい世界なのです」


 ……さっき、ハリセンでどつかれてなかったか? まあそれが本当なのであれば、鉄板を殴ろうとしたのが失敗した理由も分かるってもんだが。


「皆様には剣闘士の真似事のようなものをやって頂きたいと思います」

「……は?」

「け、剣闘士? えと、それって……?」

「闘技場で戦わせられる奴隷、って奴だよな……?」

「ふ、ふざけるなッ! 何が優しい世界だよ、命をかけるレベルで危ないじゃないか!」

「俺、肉、ぐいだいッ……!」


 男達が一様にヒートアップする中、己の欲望を率直に口にしている者が約1名、いや、約1匹? 狼男あいつは間違いなく剣闘士向きだな。


「はい、一人を除いて予想通りの反応をありがとうございます。ですが、どうか落ち着いて。先ほど述べた通り、この世界は暴力を排除した世界、本当に剣を手にして戦えっていう訳ではないんです。奴隷という立場でもありませんしね。あくまでもそれを模倣した感じ、とでも言いましょうか」

「では、具体的にどういった見世物を、私達にさせるおつもりで?」

「おっと、そちらの青スーツの方、良いタイミングで良い質問を投げてくれますね。協力的で実に喜ばしい。ではでは、誤解を解く為にもさっさと答えて差し上げましょう」


 若干のドヤ顔と共に、金髪天使が右手を突き出す。彼女の手には何かが握られていた。


「……それはカード、でしょうか?」

「はい、その中でもトレーディングカード、トレカ、TCGと呼ばれるものです。もうお察しの方もいらっしゃるでしょうが、この世界のあらゆる出来事は我々が作り出したオリジナルTCG『エヴァーローズ』の勝敗で決定されます。身分、金、栄誉――その他諸々の欲求を満たすであろう全てのものが、カードを制する者に与えられるのです! つまり、あなた方の武器とはなるのは、剣ではなくこのカードとなります!」


 カードを裏返し、俺達の方にその表面を見せ付ける金髪天使。そこには奴をモデルにしているとしか思えない、金髪天使のキャラクターが描かれていた。何とも可愛らしく描かれているもんである。少々、いや、かなりプリティーさが強調され過ぎな感もあるが。


「「「「「お、おおーッ!」」」」」


 集まった男達の約半数近くが、さっきまでとは真逆の反応を示していた。その殆どが俺達のような現代の衣服を纏った面子で、残るファンタジー組は理解が追いついていないのか、それとも俺と同じ考えなのか、首を傾げるばかり――まあ、エルフとか狼男とかの例外も居はするが、しかし、どうもよく分からねぇな。


「なあ、シチサン。あいつらは何で今の説明に大喜びしているんだ? カードが物事を左右するなんてよ、至って普通の事・・・・・・・じゃねぇか?」

「ああ、いざこざからの喧嘩、ビジネスの争いから国の選挙はもちろんの事、国家間の戦争も最終的にはカードバトルで決着をつける筈なんだが……どうも、あいつらが生きていた世界は、俺らの知るもんとは違うみたいだ。多分、その差がギャップとして現れているんだろ」

「あー……」


 埋められる気がしねぇギャップだな、それは。

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