第13話 夜の出会い
夜間、俺達はカードショップでフリーバトルに打ち込む事にした。もう時間も遅いんだから寝ろって話だが、例の如くシチサンが仮宿を使うのを嫌がった為、ここでデッキ調整をしながら時間を潰す事になったんだ。このカードショップも例に漏れずボロいが、実際にバトルをするコロシアムに移動さえしてしまえば、あまり関係ないとの事である。そういうものなんだろうか?
フリーバトルは勝敗による経験値の増減がない代わり、対戦する相手を事前に決める事ができる。まあ、言ってしまえば仲間内でのカジュアルなバトルだ。どうせ時間を潰すのなら、俺としては野良バトルの方で小金も稼いでおきたかったんだが、どうも野良は日中しかやっていないようで、そもそも選ぶ事ができなかった。
『俺もそれが原因で野良バトルを締め出されたからな』
と、これもシチサンの言。お前、時間制限がなかったら、ずっとやっていたんじゃないか? まあ、カードショップ自体は時間に関係なく開いているってのに、バトルだけ制限がかかるというのは、正直変な仕様だと思う。まさか、この最下層だけ時間を区切っているとか、そんな意地の悪い理由じゃないよな? ……あの天使達の事を考えると、ない事もなさそうで頭が痛い。
しかし、どのカードを入れたもんかねぇ。どのメイドさんも魅力的で、できる事なら全部入れたいくらいなんだが、流石にそういう訳にはいかねぇ。うーむ、他の奴らも初期デッキが同じ構成だとすれば、【領土】は『白の領土』のような基本で占められ、レア度も大半がCの筈。つか、UCでさえ1種しか入っていなかったからな。今日手に入れた俺の秘密兵器、否、秘密メイドさんを入れるのは確定として、あとはどうしたものか。
「シチサン、強い……!」
「モフモフさ――ニクショクさんも、これまでで一番の使い手だった。俺としても良い経験になったよ」
そんな風にデッキを調整していると、フリーバトルを終えたシチサン達が転送装置から帰ってきた。おい、今変な名前でニクショクを呼ぼうとしなかったか? つか本名じゃなかったら、強制変換されないのか。やい、モフ好き鬼畜眼鏡! ……おお~。つい心の中で叫んでしまったが、できるもんだな。ただ、実際に口にすると更に酷い名で呼ばれそうだ。よし、この名は封印しておこう。
「よお、お疲れさん。バトルはどんな感じだった?」
「凄かった……! シチサンのカード、強くて、美味そう……!」
「ニクショクさん!?」
ショックを受けるシチサン。俺はまだ二人とバトルはしていないんだが、なぜかその光景がありありと想像できてしまう。ニクショク、よだれで口がやべぇ事になってるし。
「クククッ、なかなか愉快なバトルだったみてぇだな。よし、次は俺の番だ! どっちからやるよ?」
「ん? いや、今日の俺はずっとニクショクさんとバトルをするつもりだが?」
「はぁ!?」
何言ってんだ、このモフ好き鬼畜眼鏡?
「とんでもない中傷をされた気がするが、今の俺は気分が良いんだ。捨て置いてやる」
「そ、そいつはどーも……で、どういう事だよ?」
「今日1日野良バトルを続けて、レベル1帯の実力は大体把握した。グラサン、お前ならぶっつけで大会に出たところで、何の問題もなく勝てるだろう」
「……いや、俺の腕を買ってくれるのは嬉しいんだけどよ、流石にデッキを組み直した後の調整相手くれぇは――」
「――そういう訳だ! ニクショクさん、次のゲームで調子を上げていくぞ!」
「うん、分がった……! 美味そうなの、見てやる気出すッ……!」
「……」
シチサン達は再びバトルをしに行ってしまった。あいつ、何だかんだ理由をつけて、己の欲望を満たしたいだけじゃねぇか? つか、え、マジで明日はぶっつけ本番で臨むの、俺? え、ええー……
「シチサンの野郎、ニクショクと一緒にレベルを上げたいからって、必死過ぎるだろうが! ……ハァ、ったくよぉ」
ドサリと椅子(木箱)に座り、天を仰ぐ。せめて、あいつらの代わりに調整を手伝ってくれるような奴が居れば。そんな風を考えるも、こんな夜中に野良バトルもできないカードショップに来る物好きなんて、そうそう居る筈もなく――
「――えっ、夜は経験値稼ぎができないんですか?」
「ああ、すまないが決まりでね。また明日の朝に出直してくれ」
ふと、ショップの店主と話す幼い声が聞こえてきた。声の方に視線をやると、そこには野球帽を被った小学生くらいの子供の姿が――って、何か見覚えがあるな。ひょっとして、オリエンテーションの時にランドセルを背負っていた奴か? つか、キャップで見えていなかったが、よくよく観察してみれば髪が長いな。ポニーテールに結んだ黒髪が、キャップの隙間から出ていやがる。近頃の小学生は男もお洒落、なのかねぇ?
ともあれ、こんな夜更けに子供が一人で出歩くとは、あまり関心できねぇもんだ。まあ俺やシチサンも同じような事をやっていたから、全然人の事は言えないんだが。それにこの世界なら暴力が通じない分、ある意味で安心なのかもしれない。かと言って、見て見ぬふりをするのもなぁ……よし。
「よお、坊主。安全な世界とはいえ、子供が起きていて良い時間じゃねぇぜ? 折角カードマスター用の宿があるんだ。そこへ帰って大人しく寝ていな」
「……おじさん、誰? 誘拐犯?」
「見た目に多少の自覚があるから何とも言えねぇが、人を見た目で判断するもんじゃない」
「じゃ、おじさんも僕を見た目で判断するものじゃないよね? と言うか、あんなセキュリティもないような場所で寝泊まりする方が、よっぽど危ないと思うけど?」
「ククッ、言うじゃないか」
坊主は俺の目をしっかりと見据えていた。あの時も思ったが、本当に肝の据わった子供だな、こいつ。ずっと年上のアカバンでさえ、バトルを介してやっとだったってのによ。中性的な顔や声からは想像もつかない胆力って、ううーん? ……男、だよな? うん、ぶっちゃけ分からん。
「野良バトルをするつもりだったのか? この時間はやっていないぜ?」
「うん、さっき店員さんに教えてもらったよ。ハァ、バトルの続きをしたかったのに……」
昼の続き? ははん、この坊主もシチサンと同じ口で、ずっと野良バトルに入り浸っていたのか。で、休憩か飯を食いに行っていた間に、制限時間がきてしまったと……やるな。今日この世界にやって来た連中の中に、初日からそんだけ飛ばす奴が果たしてどれだけ居ただろうか。普通、もっと怖がるもんだろうに。まあ、ガキの頃ってのはブレーキの感覚が壊れているからな、大人よりも死の恐怖が希薄な分、ガンガンバトルができちまうのかもな。連敗してしまうかも? なんて、そんな考えは鼻からないんだろう。シチサン? ああ、あいつは賢い馬鹿だから、例外だ。
「ならよ、いっちょ俺とフリーバトルにでも洒落込むか? ちょうど俺もデッキ調整の為に、対戦相手が欲しかったところなんだ」
「あ、遠慮するんで。両親から知らない人と遊ぶなって、そう言われているんで」
「……徹底された良い教育方針だとは思うが、散々野良バトルをした後で言える台詞か?」
コテンと首を傾げて、何言ってんだこのおっさん? みたいな視線を俺に向け始める坊主。待て待て、流れ的にそんな感じじゃなかった? 相手を求めるカードマスターが相対したら、バトルするのが普通なんじゃないか?
「そんな顔しないでよ、半分は冗談だから」
「……坊主、お前よく大人びているとか言われないか?」
「まあね。けどさ、経験値の増えないバトルをしたところで、僕に得はないでしょ? おじさんが気を遣ってくれたのは嬉しいけど、丁重にお断りさせてもらうよ。あ、でもおじさん暇なんだよね? 僕、そこの木箱繋げて仮設ベッド作って寝るからさ、変な人が来ないか見張っておいてよ。それじゃ、お願いね~」
「……」
そう言って俺を見張り役に任命し、坊主はそのまま就寝してしまった。寝つきが良く既にすやすや状態、俺が文句を言う暇は存在せず――俺の周り、ちょっと勝手な奴が多過ぎない?




