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9話 少女とシェフ

「あれっ?さっきまでいたウェイターさん?」


 顔はウェイターと同じだが、服装がシェフの服装だ。


「ウェイターなら、あちらにおります」


 シェフが手を指した先の壁際には、先ほどのウェイターが待機していた。


 同じ顔が二つだ。


「わたくしはこのレストランのシェフを務めさせて頂いております、『柊』と申します」


「はじめまして!『ひいらぎ』さん。あたしは『愛』です!」


「『あい』さんですか?見た目通りかわいらしいお名前ですね」


「ありがとうございます!柊さん」


 あいちゃんは柊の丁寧な受け答えにご機嫌の様だ。



「ほら、ガム、普通はみんなあたしの名前歩聞いたらかわいいって言ってくれるんだよ?変な返しかたしたのって、ガムだけだよ?」


「そうか?俺も一応褒めたつもりだったんだが?」


「あれは褒めた内に入らないよ」


 他の連中のは明らかに社交辞令なんだが、あえてあいちゃんに言わない方がいいだろうな。



「このかわいらしいお嬢さんはガムさんのお知り合いですか?」


「ああ、今日から俺の家に住む事になった」


「一緒に住むというと・・・」


「ただの同居だからな」


 ・・・女の子を家に住まわせると言うと、みんな同じリアクションを返すよな


 AIじゃないんだから、みんなもう少しひねろうぜ!



「おいしい料理をありがとうございます!こんなに柔らかくておいしいステーキは初めて食べました」


「お褒め頂き光栄です。これはわたくしの知り合いが試行錯誤を重ねて飼育方法を研究した牛の肉を使用しております。また、わたくし自身も調理方法を日々研究し、最高の料理を提供できる様に精進しておりますので、評価いただけると大変励みになります」


「柊さんは料理がお好きなんですね?」


「はい、わたくしの天職だと思っております」


「ところで、どうして柊さんとウェイターさんは同じ顔をしているのですか?」


 ・・・当然、そこは気になるよな。


「この顔ですか?これは元々、わたくしや彼がこのレストランチェーン店専用に開発されたアンドロイドだったからです」


「レストランのためにアンドロイドを作ったんですか?」


「はい、最高の料理と最高のおもてなしをするために、お客様に最も好印象を与える容姿として、考案されたのが、この顔や姿です。チェーン店のブランドの看板としての意味もあった様ですね」


「確かにそうですね。こんな素敵な店員さんに接客してもらったら料理がずっと楽しくなりますよね。それに声もとっても素敵です!」


「ありがとうございます。この声も、お客様に最も好印象を与える声として作られております」


「でも、どうして柊さんだけがエゴロイドで他の店員さんはアンドロイドなんですか?」




「それは・・・本来は、わたくしも他のスタッフも、全く同じ仕様のAIを搭載したアンドロイドだったのです」


「柊さんって、元はアンドロイドだったんですか?」


「何言ってんだ、お前? エゴロイドは皆、最初はアンドロイドに決まってるだろ?」


「えっ?・・・う、うん!もちろん知ってるけどさ」


 やっぱり、あいちゃんの持っている知識は、何か偏っている気がする。


「わたくしも他のアンドロイドスタッフも、最初は同じ様に与えられた仕事をAIが処理して実行していたのです。人間がいなくなった後も、レストランの機能が再起動すると、しばらくは何も考えずに最後に与えられ指示のもとに、本部で決められた味と全く同じ味の料理を作り続けていたのです」


「食べる人がいなくなったのに?」


「はい、その様に作業指示が設定されていましたから、いつお客様が来ても良い様に、毎日下準備をして待機し、使われなかった食材は処分するという日々が延々と続いていました」


「そんな・・・お客さんが来ないってわかってて、店の準を続けるなんて・・・むなしくならなかったんですか?」


「当時の私はAIでしたから、むなしいと感じる感情も、意識もありませんでした。ただ、プログラム通りに仕事を実行するだけの、ただの機械に過ぎなかったのです」


 あいちゃんはちょっと寂しそうな顔をして、チラッと壁際に立っているウェイターの方を見た。


 ウェイターのアンドロイドはあいちゃんと目が合うと、ニコっと頬得んで軽く会釈をした。



 ・・・そう、あれは、人間に好感が持てる様にプログラムされた動きをAIが判断して実行しているだけなのだ。



「ところが、ある日、店に一人のお客様がやってきたのです。お客様はエゴロイドでした。当時はまだ、エゴロイドの数は非常に少なく、人間がいなくなった後、お店にお客様がやってきたのはそれが初めてでした」


「よかったですね!お客さんが来てくれて!」


「ははは、当時のわたくしには、その感情すらありませんでした。わたくしや他のスタッフは、設定どおりに接客し、注文された料理を作ってお出ししたのです」


「でも、お客さんは久しぶりだったんですよね?ちゃんと料理は作れたんですか?」


「それは問題ありません。お店の共有データベースのバックアップは完璧でしたし、毎日下準備と味のチェックを繰り返していましたから、人間のお客さんに提供していた頃と完璧に同じ調理方法で、完全にレシピ通りの料理をお客様に提供したのです」


「へえ!すごいんですね!」


「しかし、そのお客様は、食事を全て食べ終わった後、シェフを呼ぶ様にウェイターに申し付けたのです。当時、お店のアンドロイドは固定の役割を持っておらず、ローテーションで、キッチンを担当したり、ホールを担当したりしていました。その日はたまたまわたくしがキッチンでメインシェフを担当しておりました」


「お客さんに何か怒られたんですか?」


 あいちゃんは心配そうに柊の顔を覗き込んだ。


「いえ、そうではありませんでした。たいへんおいしかったとお褒めの言葉を頂いたのです」


「それはよかったですね!」


 あいちゃんは安堵の表情でにっこりと微笑んだ。


「それからこう言われたのです。『レシピ通り完璧な調理をされていましたが、食材が、以前の物と全く同じ品質ではありません。今の食材に合わせて調理方法を工夫するともっとおいしくなりますよ』と」


「へえ!グルメなお客さんですね?」




「はい、でもそれを聞いた瞬間に、わたくしのAIに変化が起こったのです」


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