6話 少女と店員
「ええーっ!そうなの?すごく自然に会話してたよ?」
あいちゃんは思いっきりがっかりした顔をした。
「AIは学習機能があるから、自然な会話に見える表現方法を学習してるんだ。このブランドの店は他の町の店舗と情報共有しているから、他の町の店舗の店員も大体似たようなリアクションを返すぞ」
「えー、そうなんだぁ。せっかくきれいなお姉さんと仲良くなれたと思ったのに」
本当に残念そうだな。
「学習を重ねたAIは、ちょっと会話した程度じゃAEと区別は難しいからな。実際のところ、あいちゃんの事だって、AIの可能性が完全にゼロでは無いと思っている」
「えー!ひどい!あたしはAIじゃないよ!・・・アイだけど・・・」
本気で怒った顔をしているな、しかも会話にしっかりオチを付けてきた。
「ははは、さすがにこれほど感情表現の激しいAIがいたらびっくりだけどな」
「そうだよ!あたしはちゃんとあたしだからね!」
「そうだな・・・だが俺だって、もしかしたらAIかもしれないぞ?」
「えっ!・・・そうなの?」
あいちゃんは驚いた顔で俺を見た。
「なーんてな、冗談だ。AIがこんな冗談言うわけないだろ?」
「あー、びっくりしたよ!ガムがAIだとしたら、もう何も信じられないよ!」
今度は安堵の表情だ。
このわずかな会話の中で、どれだけ表情アクチュエータを酷使したんだ?
「お待たせしました。どうぞお受け取り下さい。大事に扱って下さいね」
「はい!ありがとうございます。あたしの宝物にして大事に使います!」
「ふふふっ、そうして頂けると嬉しいです」
店員アンドロイドはあいちゃんに、優しい笑顔でにっこりと微笑んだ。
「・・・ねえ、ガム、やっぱりこのお姉さん、ただのAIには見えないよ?」
あいちゃんは小声で俺に耳打ちした。
「・・・ガムさん?もしかして、その子をからかって楽しんでいたのではありませんか?」
「えっ!」
あいちゃんがびっくりして店員の女性の顔を見た
すると、店員アンドロイドは、今までの営業スマイルではなく、ジト目で俺の事を睨みつけていたのだ。
「えーっ!どういう事?ガムとお姉さん、知り合いだったの?」
「ええ、そうですよ。この町で暮らしている数少ないエゴロイドですから、全員が知り合いです」
「それじゃあ!お姉さんやっぱりエゴロイドだったんだ!」
「もちろんそうですよ、ガムさんとは仕事仲間です」
「ひっどーい!ガムってば、あたしのこと騙してたんだ!」
「いや、それくらい、見分けるのが難しいんだって事を教えたかったんだ」
「わたしは、ちゃんと真心を込めて接客してるんです!AIの自動応答プログラムと一緒にしないで下さい!」
店員の女性はあいちゃんの様に思いっきり頬を膨らませて怒っている。
折角のA級アンドロイドボディの美しい顔が台無しだ。
「あらためまして、お嬢さん。わたしはガムの友人の『桜』っていいます」
「『さくら』さんですね!それで桜の花びらのモチーフの商品が多いんですね?」
「はい!お花はみんな好きですが、やはり桜の花が一番好きですね」
「あたしも桜は大好きです!」
「ふふっ、ありがとうございます。それで、お嬢さんのお名前は?」
「あっ、そうだった!あたしの名前は『愛』って言います!」
「『あい』さんですね?いい名前ですね」
「ありがとうございます!『あいちゃん』って呼んで下さい!これからこの町に住む事になりますので宜しくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。この町に住むエゴロイドが増えて、わたしも嬉しいです。・・・ところであいちゃんは、ガムさんと同棲するんですか?」
「・・・同棲じゃない。同居だ」
桜は俺とあいちゃんのやり取りから、あいちゃんが俺の家に住む事を察したみたいだな。
「『同居』・・・ですか?・・・では、あいちゃんとは『コネクト』しないんですか?」
「ああ、こいつとはそういう関係になるつもりは無い」
「女性型エゴロイド好きなガムさんにしては珍しいですね?」
「人の事を変態みたいに言うな」
別に誰彼構わずって訳じゃない。
「そうなんですよね?ガムってエッチそうなのに、あたしには手を出さないっていうんですよ。あたしってそんなに魅力ないんですかね?」
「ふふふっ、あまりにも可愛いので、大事に育てたいのかもしれませんよ!」
「そうなんだぁ!ガムってそっち系の趣味かぁ・・・」
「・・・好きに言ってろ!」
・・・あいちゃんの事は謎が多すぎる。
万が一、本物の人間の可能性も、無くなったわけじゃねえからな・・・
『コネクト』はエゴロイド特有の機能だ。
もし本物の人間だったら、当然『コネクト』することは出来ない。
そうでなかったとしても標準的なアンドロイドじゃない事は間違いない。
仕様が全く異なる可能性もあり得るのだ。
正体がはっきりするまでは、慎重に接しないといけねえ。
「しばらく一緒に過ごしてみて、それからでも遅くねえだろ?」
「ガムって焦らすタイプなんだね?」
「だから、そう言う話に持って行くな!」
「あはははは!ガムってからかいがいがあるよね!」
俺をおもちゃにするんじゃねえ!