5話 少女と買い物
このショッピングモールには100近い店舗が入っている。
その殆どの店舗はヒューマノイドかアンドロイドの店員が勤務しているが、中には完全無人の店もある。
レジは全て自動化されているが、そもそも通貨は必要無いから、単に在庫管理のためだけにレジを通している。
在庫が無くなったり賞味期限が切れた商品は、廃棄したり補充したりするのだ。
これらは全て、自動搬送システムとロボット達が管理している。
ヒューマノイドやアンドロイドの店員は客の案内や商品選びの相談相手になるのが主な役割だ。
「まずは日用雑貨だな」
俺は雑貨屋を目指した。
日用雑貨を扱っている店にはいくつかのランクがある。
デザインやブランドにこだわりが無くとりあえず使えれば良いという程度の廉価版を扱う店は、ほとんどがセルフレジというか、オートレジだ。
欲しい商品を持って店を出るだけで、勝手に手続きが完了する。
・・・まあ、はっきり言って盗りたい放題という事になるのだが、不要な物をむやみに持って行っても、処分する手間が増えるだけで、何もいい事は無い。
それに、誰が何を持っていたのか、全て記録に残っている。
少しこだわりを持って、デザインや色、それにキャラクターの付いた製品を選びたい場合は、量販チェーンの店に行くと、ヒューマノイド型のロボット店員が案内してくれる。
ヒューマノイド店員は、硬質なボディだが大抵はかわいくて愛嬌のあるデザインになっている。
頭や胸部にタッチパネルがあり、そこで商品の説明画像を表示したり、店頭にない商品を選んだりする事も出来る。
もちろん、音声での会話も出来るのだが、モニタとタッチパネルがあるのなら、音声会話より早かったりするのだ。
あえて、ヒューマノイドタイプの拙い音声対話を楽しみたいというエゴロイドもほとんどいないので、ヒューマノイド店員は事実上、移動式タッチパネルみたいな存在になってしまっている。
もちろん、商品の陳列や店内の清掃など、他の仕事はたくさんこなしている。
小さい店舗なら、ヒューマノイド一体が専属で勤務していれば、ほとんどの業務を賄えてしまうのだ。
そして、高級品を買いたい場合は、高級ブランド店というものがある。
これは人間が生きていた時代、希少なものには高い価値が付くため、入手できる者が限定され、それを持っている事がステイタスになるという文化が存在したのだ。
・・・しかしながら現在は、希少な高級品の数よりも、それを欲しがるエゴロイドの方が少ないのだ。
高級微ランド品を扱う店には、いつでも高級なレアグッズが並んでおり、欲しければだれでもタダで手に入れる事が出来てしまう。
つまり今では『希少価値』というものが無くなってしまったのだ。
だから、単に、好みのデザインのものがあればそれを入手するし、興味が無ければ入手しない。
ただそれだけだ。
だが、エゴロイドの中には収集癖の強いエゴロイドもいて、高級ブランド品を集めまくる事もある。
ただ、誰が何を店から持っていたのか、履歴は残っているので、度を越えて商品を集めすぎているエゴロイドには他のエゴロイドが忠告する事もある。
「わあ!このお店、かわいい商品が揃ってるのでここにします!」
あいちゃんが選んだのは・・・このショッピングモールの最高級ブランド店だった。
アンティークなども扱っている店だ。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
店員の女性があいちゃんに声をかけた。
ゴシック風のデザインの上品な制服を着ており、当然容姿もそれに見劣りする事無く美しい。
あいちゃんは、そのきれいな店員に一瞬見とれてから問いかけに答えた。
「えっと、引越してきたばかりで、家に何も無いので食器とか必要な日用品を揃えたいんですけど」
「かしこまりました。では、かわいらしいお嬢さんにお似合いの商品を見繕ってまいります。そのあいだ、店頭の商品をご覧になってお待ちください」
女性の店員はそう言って、たおやかにお辞儀をすると、店の奥へと戻っていった。
「ねえ!ガム、今のお姉さん、すっごい美人だったよね!あの人ってアンドロイドかな?」
「見た目の美観はA級だな」
アンドロイドは容姿の美しさで、最上級のAからB・C・D・E・・・と階級が付いている。
これはアンドロイドの精巧さを表す指標である『復元レベル』一級・二級・・・とは異なる意味を持つ。
あくまでも目安だが、A級は万人が納得する美しい容姿を持ったアンドロイドに与えられる。
B級はそこそこいるが、A級はめったにいない。
それこそ、ため息が出るほどの美しさを持ったアンドロイドに与えられる称号なのだ。
ちなみにあいちゃんも見た目だけならA級だ。
・・・中身のAEがちょっと残念な気もするが・・・
あいちゃんは復元レベルも一級だから、『A級の一級アンドロイドボディを持ったエゴロイド』という事になる。
・・・ちなみに俺のボディは『C級の一級』だ。
特に容姿にこだわりは無かったから、機能重視で選んだボディの外観が、たまたまC級だったのだ。
『C級』の容姿っていうのは可もなく不可もない、普通の容姿っていう事だ。
ちなみにD級・E級というのは、ほとんどお目にかかった事が無い。
好きな外観を選べるのに、あえて不細工なものを選ぶ意味がわからない。
「あの店員さんって、アンドロイドなのかな?エゴロイドなのかな?」
「どっちだと思った?」
「うーん、難しいよ。もう少し会話をしてみたらわかるかな?」
こういった高級ブランド店の店員は、大体がヒューマノイドではなくアンドロイドだ。
当然、アンドロイドの方がヒューマノイドより桁違いに運用コストが高くつくのだが、おそらくそれ以上の利益が出ていたので問題は無かったのだろう。
今となっては、運用コストにあまり意味は無いのだが、店舗の設定は人間がいた頃のままになっているので、現在もほとんどの高級ブランド店はアンドロイドが店員をやっている。
「教えてやろうか?」
「ううん!自分で当ててみるよ!」
あいちゃんは妙なところで頑固な面があるな。
「お待たせしました、お嬢さん。こちらの商品はいかがでしょう?」
アンドロイドの店員は、かわいらしい花柄の食器セットを持ってきたのだった。
「わあ!かわいい!」
「そうでしょう?お嬢さんの服装と髪型から、好みを予想してご用意させて頂きました」
「へえ!あたしの好み、わかってくれたんだ!そうなんだよね!このスカート、結構お気に入りなんだよ」
「そうだと思いました。ピンク系の春のイメージの花柄が良くお似合いですよ」
「そうなんだよね。このお店の店頭に並んでた花柄のシリーズがすごく気になっちゃって!」
「ありがとうございます。わたしの好みでデコレーションしたのですが、気に入って頂けて嬉しく思います」
店員は上品に微笑んだ。
『ガム!あたしこれにするわ!いいでしょ?」
「ああ、お前が気に入ったのならそれでいいんじゃないのか?」
「おねえさん!これ下さい!」
「はい、ありがとうございます。お包みしますので少々お待ちください」
店員のアンドロイドは商品の食器セットを梱包し始めた。
「どうだ?わかったか?」
「うん!あのお姉さんは絶対エゴロイドだよ!間違いないよ!」
あいちゃんは自信満々でそう答えた。
「・・・・・残念・・・はずれだ」




