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4話 少女と同居

「わあ!ここがガムの家なんですね!」




 俺はタワーマンションの最上階を自分の家として使っている。


 何せこの町は、住んでいるエゴロイドの数よりマンションの数の方が多いのだ。

 1人1マンションでもおつりが来てしまう。



「見晴らしがいいですね!富士山も見えますよ!反対側には高層ビル群も見えます」




 そう、俺がこの場所に住む事にしたのは見晴らしが良いからだ。



 都心の方に行くと高層ビルが乱立しているが、少し都心から離れたこの町には、このマンションより高い建築物が無い。


 ここからなら全周囲が見渡せるのだ。



「天気がいい日は海も見えるし、その向こうに島も見えるぞ」


「わあ!海ですか!あたし、まだ海は見た事無いんです。いつか見に行きたいなあ」


「じゃあ、そのうち連れて行ってやるよ」


「やったぁ!約束ですよ!」


 あいちゃんは嬉しそうに飛び上がった。




 ・・・つい、話の流れで安請け合いしてしまった・・・これだからAEは・・・




「・・・その前に・・・お手洗い、借りてもいいですか?」


「ああ、かまわないぞ、そこのドアだ」


「ありがとうございます!お借りします!実はさっきから漏れる寸前だったんです!」


「そういう事なら我慢してないでさっさと行ってこい!」


「はい!行ってきます!」




 復元レベル一級のアンドロイドは人間の食べ物なら大抵の物を食べる事が出来る。

 そして、そこからエネルギーや、一部の必要な成分を吸収する事が可能だ。


 しかしながら、当然、吸収した残りかすは発生する。

 それに、食べ物に含まれる水分も体外に排出する必要がある。


 そのため、一級アンドロイドにはトイレが必要なのだ。



 ・・・まあ、食事をしなければその必要もないのだが・・・


 トイレはどこにでもあるし、使いたい放題なので、そうそう困る事は無い。




 俺は食事をする事が結構好きなのだ。


 好みの料理を食べたり、食べた事の無い味を初めて味わう事で、俺のAEは喜びを感じる。




 この世界に人間はいないにもかかわらず、食品生産工場は稼働しているし、料理専用のロボット達も稼働している。

 いつでも好きな時に人間の食べ物を食べる事が出来るのだ。


 問題があるとすれば、食品生産能力に対して、それを食べるという行為を行うエゴロイドの絶対数がはるかに少ないという事だ。


 以前は十万人を超える人間が暮らしていたこの町で、現在定住しているエゴロイドは百体程度しかいないのだ。


 食品を含むあらゆる生活費需品の生産能力は、人間が生きていた時代と同レベルに復活しているので、この町で生活に困る事は無い。



「はぁー、すっきりしました!ぎりぎりだったので危うく下着を濡らしちゃうところでしたよ!」


「初対面の男の前でそういう事を言うな。女性用の下着はこの家には無いぞ。必要だったら下のショッピングモールに行け」


 このタワーマンションの下層階はショッピングモールになっているのだ。

 人間の生活に必要なものは、ほとんどそこで揃う。


「ガムは一人で住んでるんですか?女性と一緒に住んだりしないんですか?」


 


 エゴロイドには恋愛感情を持っている者もいる。


 特に結婚という形式は意味を持たないが、男性型のエゴロイドと女性型のエゴロイドが共同生活しているケースは多い。




「ああ、俺はずっと一人だ」


「そうなんですね。じゃあ、この家にあたしの生活用品を揃えてもいいですか?」


「そうだな、ここに住むのであれば、ある程度必要だな」


 この家には女性の衣類はおろか、女性が生活に必要な日用品も置いていない。


「じゃあ、お買い物付き合って下さい!」


「そんなの一人で行けばいいだろう?」


「初めての場所だし、案内して下さい」



 仕方がないので買い物に付き合う事にした。


 とはいってもエレベーターで下の階に降りるだけなのだが・・・


 俺しか住んでいないマンションなのでエレベーターは貸し切りだ。

 いつでも好きな時に待たずに乗る事が出来る。




 これらの電力は原子力発電所で賄っている。


 人間がいなくなり、地表はいまだ残留放射能の濃度はそれなりの数値を示しているが、俺達アンドロイドには全く影響のないレベルだ。

 人間がいなくなった世界で、折角運用可能な原子力発電所を稼働しない手はない。


 とは言ってもこの町からは数百キロ離れた場所の原子力発電所なので、この町で生活する分にはいずれにしても影響は無い。




「うわー、変な感じがする」


 エレベーターが降下を始めるとあいちゃんが耳を押えた。


 一級アンドロイドは体内で液体や気体を使用している部位があるため、多少なりとも気圧の影響を受ける。

 高速エレベータの昇降による気圧の変動は他のロボットより顕著に影響するのだ。


 特に下降開始時の重力低下状態と相まって、センサーによる状況把握演算がおかしな値をはじき出すのだ。


 とは言いつつも、あいちゃんは特に変な身悶え方をしていた。


「上る時も感じてただろ?」


「下りの方がもっと変な感じがする」


 俺は、この状況を記録し、エレベータに乗るという意識と共に異常数値を正常値と認識する様に設定してあるので、違和感を感じない。


「あいちゃんも設定を変えておけばいい」


「やり方がわかんないよ」


「何言ってんだ?俺が設定してやろうか?」


「あー!そう言ってあたしの体をいじるのが目当てなんでしょ?」




「・・・もういい・・・好きにしてろ」




 エゴロイドはある程度自分の設定を自分で変更する事が可能だ。


 特に俺は自分のボディを自分自身で換装しているので、全ての設定を好きな様に変更する事ができる。




 エレベータが店舗フロアに着いたので俺とあいちゃんは、エレベータを降りた。


「エレベータのこの感覚って不思議だけど、いかにもエレベータに乗ってるって感じがしていいよね」


 ・・・いいのか?それは?


「俺は設定を変更して何も感じない様にしてある」


「あーっ、それ、もったいないよ!折角色々感じる事が出来るんだし、そういう感覚をもっと楽しんだ方がいいよ」


「不思議な考え方だな」


 だが、一理あるか?


 人間は設定を変更して違和感を解消するなんて事は出来なかったわけだしな。


「そうだな、俺も設定を戻しておこう」


「うん!そうするといいよ!」


 変わった考え方をするエゴロイドだな?

 考え方も人間に近いのだろうか?




「でも、今のでまたトイレ行きたくなっちゃた!ちょっと行ってきます!」




 ・・・あいちゃんはショッピングモールの化粧室に駆け込んで行った。




 ・・・やっぱり、あの特大パフェは食べ過ぎだろう・・・


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