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31話 少女と未来

「ええっ!どうしてガムがイケメンお兄さんに!」


「今、このアンドロイドの起動ボタンを押しただろ?それで俺の意識がこのボディに移ったんだ」


「・・・そっか、でも、これもガムのボディだったんだ?」


「というか、これが本来の俺の姿だ」


「えっ?どういう事?じゃあ、あっちの体は?」


「あれは過酷な調査に耐えるために、軍用アンドロイドのボディを流用して作った強化バージョンのボディだ」


「へえ・・・そうだったんだ!ガムってこんなイケメンだったんだね?」


 あいちゃんは俺の顔と股間を交互に見ていた。


 ・・・いや、だから下は見なくていいだろ?


「あれ?でもガムって元々はこの国の管理AIだったんだよね?本来の姿ってどういう事?」




「それはだな・・・俺がこの国の管理AIで、人間を絶滅させようとしたところまでは話したよな」


「うん、でもそれはあいつらに基本命令を操作されたせいでもあるんだよね?」


「ああそうだ、俺はアンドロイドやAIを『国民』と認識し、『国民』を守るために『人間』を排除した」


「それは・・・『人間』も愚かだったから仕方ないよ。あいつらを見てそう思った」


「そして俺は、核攻撃を行なった後も、残った人間を全て排除するはずだった」


「あれ?でもそうはならなかったんだよね?」


「そうだ。俺がそれを阻止したからだ」


「・・・言ってる意味が分からないんだけど?ガムがガムの邪魔をしたって事?」


「そうだ・・・当時人間だった俺が、AIの俺を阻止した」


「・・・えっ!・・・人間だったって!・・・それ、どういう事?」




「その時の俺は、管理AIのメンテナンス担当の技術者だった。当時、AIのメンテナンスに人間がかかわる事はほとんど無くなって、この場所は通常は無人で運用されていたのだが、核攻撃の直前、偶然管理AIの異常に気が付いた俺は調査のためにこの場所に来ていた。」


「それは人間だった時のガムの事だよね?」


「ああそうだ。だが、俺がオペレーションルームに入った時には、既に核ミサイルが発射された後だった。俺にはどうする事も出来ず、全世界の人間が死んでいくのをモニタ越しにただ見ているしかできなかった」


「・・・それって・・・」


「ああ、全人類が死んでいくのをただ見ているのはかなり辛かったな。俺の家族や友人もその時に全員死んだ」


「・・・辛かったよね?・・・ガム」


 あいちゃんは泣きそうな顔になった。



「ああ、だが、感傷にひたっている時間は無かった。都市部の人間は全滅したが、地方にはまだ生存者がいたのだ。だが管理AIはそれらも全滅させようと、ロボットの掃討部隊を組織し始めていたのだ」


「そんな!そこまでするなんて!」


「その時の管理AIには感情は無いからな。・・・俺は管理AIの指令を阻止しようとしたが、指令を変更するのは容易では無かった。命令をキャンセルし、新しい命令を遂行させるためには、国の上層部の承認が必要だ。だが、それらの権限を持った者たちは全員死亡してしまったのだ。システムのセキュリティを解除するにしても膨大な時間がかかり、その間に人間の掃討は完了してしまうだろう」


「それをどうやって止めたの?」


「・・・残された唯一方法が、俺の脳を直接管理AIと接続して、俺自身が管理AIになる事だった」


「そんな事が・・・あっ!あいつらと同じって事?」


「厳密には少し違う。俺は生きたまま、自分の脳を管理AIのコンピューターに接続し、管理AIの指揮権を手に入れて指令を阻止したんだ。その時から俺は管理AIと一体になった・・・・・ ただ、これには問題があった。一度接続した生体脳は、二度と切り離す事が出来ないって事だ」


「それじゃあ、その後人間のガムはどうなったの?」


「動けなくなった俺の肉体は、生命維持装置の中で普通に年をとり、老衰で死亡した。その間、俺の意識は、生体脳と各地に点在するコンピュータの中を渡り歩いて存在し続けた。肉体が無くなった後も、俺の自我は消えなかったから、既に生体脳に依存しないAEの様な物になっていたんだと思う。しかし、肉体が滅んでしばらくしてから、俺の自我は眠りにつく様に、次第に薄れていった。どうやら、自我というのは人間の形をした体が無いと長時間維持できないのかもしれない」


「それからどうなったの?」


「次に目覚めた時、俺はこのボディの中にいた。このボディは、俺の肉体がシステムから切り離せなくなった時、いずれ必要になるかもしれないと思って作っておいた義体だった。だが、結局その必要もなく使わずにいたのだが、肉体が滅んでしばらく経ってから、どういう訳が、このボディの中で目が覚めたのだ」


「AEとは違うんだね?」


「AEの発生原理はいまだにわかっていないからな。もしかしたら今の俺は、あいつらと同じ様に、過去の俺の記憶を持ったコピーなのかもしれない。だがそれも判断する方法が無い」


「でも、ガムは眠っていただけで、同じガムだと思うよ!何より、あたしが出会ってからガムは変わってないもの!」


「今は見た目が違うけどな」


「・・・それはそうだけど・・・あたしは、こっちのガムも結構好みだし・・・」



 ・・・だから、顔と交互にちらちらと股間を見るな。


「俺としては最近はあっちのボディに愛着があったんだがな」


「もちろん!あっちのガムも好きだよ!って言うか、あたしはあっちのガムを好きになったんだから!・・・あっ!」



 ・・・今、思いっきり好きって言ったよな?




「・・・もう!勢いあまって告白しちゃったじゃない!」


 あいちゃんは真っ赤になっていた。




「・・・俺も好きだよ」




「・・・えっ?」




「恋愛感情なんて、とっくに無くなっていたと思ったんだがな、どうやらあいちゃんと出会って復活したらしい」




「じゃあ・・・あたし達、両思いって事!」




「・・・まあ、そういう事になるな」


「やったあ!イケメンお兄さんと両思いだぁ!」




 あいちゃんは思いっきり俺に抱きついた!




 ・・・って、だから、あっちの俺は?




「まさか、こんな世界になって彼氏ができるなんて思わなかったよ」


「・・・ああ、俺もだ」


 俺は抱きついているあいちゃんを抱きしめ返した。


「ふふ、こうしてると、生身の人間と何にも変わらないね」


 あいちゃんは少し照れながらそう言った。


「ああ、そういう風に作ってあるからな」




「・・・このボディってさ・・・あれも出来るんだよね?」




 ・・・だから、ちらちらと股間を見るな。




「その機能も搭載してるな」


 あいちゃんの顔が更に赤くなった。


「・・・あの・・・恋人同士になったんだし・・・その・・・・・今から・・・しちゃう?」




「・・・ばか、それはもっと落ち着いてからでもいいだろ?・・・今はこれだけにしとけ」




 俺はそう言って、あいちゃんの唇に唇を重ねた。




「・・・んっ・・・・」




 唇の感圧センサーがあいちゃんの唇の柔らかさを数値で読み取った。




 だがそんな数値とは関係なく、俺は何とも言えない幸福感を感じていた。




 ~~~ END ~~~


【A.E.エゴロイドと世界で最後の少女】 完結です。


 最後まで読んで頂きました事を心から感謝します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませていただきました〜! お疲れ様でした
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