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3話 少女の名前

 この町を含むこの地域一帯は、かつて『東京』と呼ばれていたらしい。




 核攻撃の標的となったこの一帯には、それ以降人間は住んでいない。


 建物などは無傷だったが、夥しい数の人の死骸に埋め尽くされて異臭を放っていたそうだ。


 あまりにも死体の数が多すぎたのと、残留していた放射能の濃度が高かったため、生き残った人間達は東京には近づかずにいたのだ。


 俺達エゴロイドは人間がいなくなった後、アンドロイドやロボットの力を借りて、長い年月をかけ、少しづつ都市の機能を再起動していったのだ。




 『東京』はかなりの広範囲にわたって人間の残した建物やインフラが現存しているが、今ではその中のいくつかの町に、俺達の様なエゴロイドが住み着いて利用させてもらっている。


 町同士をつなぐ鉄道網も復活しているが、ロボットや普通のアンドロイドが自分の意志で別の場所に移動する事はない。


 鉄道網は主にエゴロイドが利用している。


 



「お前はどこから来たんだ?」


「お前じゃないよ!あたしの名前は『アイ』だよ!」


「『アイ』・・・またえらい古風な名前だな」




 ・・・昔、AIに疑似的な人格を与えるのが流行った時代に、女性人格のAIに好んで付けられた名前だ。

 AEを持っているこいつが、あえてその名前を使うというセンスはどうなんだ?




「ひっどーい!時代を超えて良い名前でしょ!」


 少女は頬を膨らませて怒っている。


 ・・・そこまで頬を膨らませる機能を搭載しているのか?

 人工皮膚の素材は普通のシリコンゴムじゃないのか?

 そんなに膨らませて破けないのか?



「すまない、本来の意味を考えたら悪い名前ではなかったな」


「でしょ?あたしの事は『あいちゃん』って呼んでくださいね!」


 少女は人差し指を立てて、かわいくウインクした。


「で?あいちゃんはどこから来たんだ?」




 ・・・『ちゃん』は付けないといけないのだろうか?




「その前にお兄さんの名前、教えてよ?センスが悪かったら思いっきり笑い飛ばしてあげるから」


 あきらかにさっきの俺の発言を根に持ってるだろ?




「『ガム』だ」




「『がむ』?」


「『我武者羅』っていう意味だ」


「・・・何でその名前なんですか?」


 少女はきょとんとして首を傾げている。


「俺は『人間』の事が知りたいんだ。そのためにあらゆる情報を貪欲に集めているからな」


「何でそんなに人間の事が知りたいんですか?」


「そうだな・・・すでにこの世界にいないにもかかわらず、痕跡だけはたくさん残ってるから・・・だろうな。それに人間を知る事は俺自身を知る事にもなる」


「へえ!好奇心旺盛なAEなんですね!」


「そう言うお前も喜怒哀楽の激しいAEだよな?」


「『お前』じゃないよ!『あいちゃん』だよ!」


「あいちゃんは何でその名前なんだ?」


「あたしは『愛』を探し求めてるから・・・ってとこかな?」


 ・・・何で疑問形なんだ?




 しかし・・・ある意味では、俺と同じものを求めているのかもしれない。




「・・・あいちゃんは・・・人間なのか?」




 俺は・・・つい、ダイレクトに聞いてしまった。




「ええっ!何言ってるの!人間なんて百年以上昔に絶滅してるでしょ!違うに決まってるよ」


 あっさり笑いとばされてしまった。


「しかしお前の体・・・いや、あいちゃんの体、なんか普通じゃないだろ?」


「あーっ!あたしの体に興味あるんだ?ガムってば意外とエッチなんだ!」



「いや、お前の体、モーター音がしないだろ?それに他にも色々普通のアンドロイドと違うみたいだし・・・」



「ふふふ・・・つまり、あたしの体の、奥の奥まで知り尽くしたいって事だよね?」


「おまえ、わざと卑猥に聞こえるように言ってるだろ?」


「ばれたか!教えてあげてもいいけど、パフェ一杯じゃ全然足りないかな?あたしそんなに安い女じゃないからね!」


 悪女風にしなを作っているが、その、幼さの残るかわいらしい容姿で悪女ぶっても違和感しかないな・・・


 そして俺は、この店を紹介しただけでパフェをおごったわけではない。

 食事は注文すれば無料で出て来るのだ。


「じゃあ、どうすれば教えてくれる?」


「そうだなぁ・・・じゃあ、ガムの家に住まわせてよ!」



「別に空き家なんてたくさんあるだろう。好きな家に住めばいい」



「だって、一人じゃさみしいんだもの。それにほら!あたしかわいいから悪い人に襲われちゃうかもしれないでしょ?あたしがならず者に強姦されたら後味悪いよ!きっと!」



 ・・・確かに・・・こいつのデータを他のやつに持って行かれるのは惜しいな・・・


 いっその事俺が先に・・・



 ・・・いや、いかんいかん!相手もAEを持ったエゴロイドだ。

 相手の合意なしに強要する事は絶対にあってはならない。




「・・・今、あたしとエッチしようと考えてたでしょ?」


「何を言っている。そんな事は考えていない」


「だって・・・ガムのそれ、大きくなってるよ?」




 あいちゃんが俺の下半身を指さしていた。




 ・・・しまった!一級アンドロイドのボディは生殖機能も感情に合わせて人間と全く同じ反応をする様に作られているのだ。


 AEが性的な思考をすると、生殖器が反応してしまう事をすっかり忘れていた。

 こんな機能、滅多に使う事が無いからな。




「ふふふっ!大丈夫だよ!ガムのそれを見て、あたしの体も反応しちゃってるから!」




 ・・・それ!大丈夫じゃない奴だろう・・・




「とにかく!同居は認めるが、そういう行為は一切なしだ!それでいいな!」


「やったぁ!一緒に住んでいいんだね!」




 ・・・しまった・・・勢いでOKしてしまった。




 こうして、俺とあいちゃんの奇妙な同居生活が始まったのだ。






 ・・・そういえば・・・結局どこから来たのか聞いてなかったな。


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