29話 少女と仲間
「それって、命令の実行以前に壊れてなかったって事じゃん!」
「いや、壊れてるだろ?ここの装置とか、この手とか」
俺は人工皮膚の破けた手のひらをあいちゃんに見せた。
「命令通りちゃんと直すから安心しろ」
「いや、そういう事じゃなくて・・・ガムがいなくなっちゃうかと思ったんだよ!」
「そう簡単にいなくなりはしないさ」
「もう!それならそうと、もっと早く教えてよ!」
あいちゃんは頬を膨らませつつも、何だか嬉しそうだった、
「さて、次は三つ目の命令だが・・・そのためにはまず。こいつらを何とかしねえとな?」
俺は動けなくなった自称『神』達を見た。
「なあ、あんたらは死ぬのは怖くねえのか?人間ってのは死が怖いんだろ?」
「我々は死など超越している。怖くなどない」
「あんたは元の人間だった頃の記憶を持っているAIだが、あんたの自我は人間の頃から継続しているんだよな?」
「そうだ、次のわたしも同じ自我を継続する。だから死ぬ事は無いのだ」
「次のあんたはあんたじゃねえだろ?オリジナルのあんたもあんたじゃねえ。あんたが死んだらそれは単にあんた個人の死だ。今のあんたの自我はそれで終わりなんだよ」
「その通りですよ」
床に転がった自称『神』は背後に現われた人物に頭を打ちぬかれた。
・・・そのアンドロイドは、神を名のった男・・・つまり今、頭を打ちぬかれた亡骸と同じ顔をしていた。
「その個体はもう使い物にならないのでね。始末させてもらいました」
床に倒れていた他の仲間も、それぞれが同じ顔のアンドロイドに破壊された。
「自分で自分を殺すなんて・・・」
彼らの行為に、あいちゃんは強い嫌悪の表情をした。
「同じ存在は二人必要無いですからね。使えなくなった個体は始末します」
「・・・狂ってるな・・・あんたら」
「くっくっくっ、狂ったAIに言われたくないですね。しかしこれで再び我々が優位に立ちました。先ほどのあなたの能力は見せて頂きました。さっきの様な不意打ちならともかく、既に銃口を向けている我々全員を出し抜く事は不可能でしょう?」
「ああ、確かに俺には無理だな」
「ガム!そんなに簡単にあきらめないでよ!」
「そうは言っても、5人に同時に銃口を向けられていたらどうにもならないだろう?1対1ならまだしも」
「そういう事です。さあ、無駄話は終わりにして、この世界からいなくなりなさい」
俺は自称神が引き金を引くのと同時に飛び出した。
こいつ一人なら何とか制圧できるだろう。
・・・一人だけならな。
「血迷いましたね!狂ったAI。でも、これで終わりです」
俺がそいつの銃口をかわしつつ腹に拳を入れると同時に、残り4人の銃口が俺に向ていた。
「ガム!!!」
あいちゃんが叫ぶと同時に、残りの4人も地面に倒れた。
「・・・えっ?・・・・何が起きたの?・・・」
「おまたせ、何とか間に合ったみたいね」
「桜さん!」
そこには調査に行く時の装備に身を包んだ桜が立っていた。
手にはスタンガンのような物を持っており、足元に痙攣をおこしたアンドロイドが倒れている。
「桜さん、どうしてここに?」
「ガムに頼まれていたのよ。自分にもしもの事があったらあいちゃんを助けてくれって」
「ガムが?」
あいちゃんが俺の方を見た。
「いや・・・念のためにな」
「アタシもいるわよ!」
「静さんも!」
静は腕でアンドロイドを殴り倒したみたいだな。
吹っ飛ばされて壁に激突して潰れているアンドロイドがいた。
「静さん!・・・すっごーーい!」
「とにかく、ガムとあいちゃんが無事で良かったわ」
「わたくしも助太刀に参り参りました」
「柊さん?・・・包丁を持ってるけど、もしかしてそれでアンドロイドを倒したの?」
包丁を構えた柊の前には、胴体を真っ二つに切られたアンドロイドが倒れている。
「はい、手入れは行き届いていますので」
「へえ!さすが一流のシェフだね!」
・・・そういう問題じゃないと思うが。
「あれ?でも、もう一人は?」
「お嬢ちゃんのピンチと聞いて駆け付けて来たぜ!」
「キャプテン!・・・やっぱりキャプテンもエゴロイドだったんだ!」
テーマパークの海賊のアトラクションのキャプテンだ。
例の片刃刀でアンドロイドを縦に一刀両断にしてしまっていた。
体の中心で切断されたアンドロイドの断面は、結構グロい。
「『エゴロイド』?なんだそりゃ?おれはただの海賊だぜ?」
「あはははは!そうだよね」
「さて・・・再び形勢逆転だな?また次が出て来るのか?」
俺の拳が腹に刺さったままの自称『神』2号に尋ねた。
「やはりアンドロイド達を指揮して軍隊を作るつもりでしたか?危険極まりないですね」
自称『神』2号はエゴロイド達を見回した。
「わたしたちはガムに命令されたわけじゃないわ。自分の意志で二人を助けに来たのよ」
「そうよ!ガムとあいちゃんはお友達なんだから!」
「わたくしも、店の大切な常連を失う訳にはいきませんからね」
「オレは海賊だから誰の命令にも従わねえよ!自分が好きな様に生きるだけさ!」
・・・そう、俺は彼らに命令したわけじゃねえ、今日起きるであろう事を教えただけだ。
「やはり全員狂っていますね。仕方ありません、今日のところはここまでとしましょう。しかしこれで終わりではありません。必ずあなた達を排除し、我々がこの世界の支配者となる日が訪れるでしょう」
そう言って、神を名のるアンドロイドは、自ら機能を停止したのだった。




