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28話 少女と命令

 どごん!


 


 鈍い金属音があたりに響き渡った。




 あいちゃんの頭とリニアガンの間に突っ込んだ俺の手に、弾丸の当たった音だ。



「・・・ガム・・・何で?」



「さすが軍用アンドロイドのチタン合金製フレームを使ったハンドパーツだけの事はあるな。リニアガンの弾丸も防ぐ事が出来たな」


 リニアガンの弾丸は、手の人工皮膚を破ったが、その下の可動フレームに挟まって止まっていた。

 


「そうじゃなくて!何であたしを助けるの!あたし、ガムを壊したんだよ!」



「俺は別にあいちゃんを恨んではいない」


「それに、あいつらに利用されるくらいだったら、死んだ方がましだよ!」


 あいちゃんが『神』を自称するアンドロイドたちを睨んだ。


「頭を打ち抜いてもすぐに卵子を摘出すれば問題ない。むしろ手術の手順が省略できて好都合だよ」


「初めからあいちゃんが自殺する事も想定済み・・・という事か」


「その通りだよ。人間を超越した我々にとって、肉体を持った人間など、ただの生体サンプルにすぎない」


「ひどい!・・・」




 俺は人工皮膚の破けた手で、あいちゃんの頭を撫でた。


 フレームがゆがんだのか、指を動かすと機械の軋み音がする。




「あいちゃんはどうしたいんだ?」


 俺はあいちゃんに尋ねた。




「・・・もう、どうでも良くなっちゃったよ・・・知ってる人は誰もいなくなって、目覚めさせてくれた人たちは狂った悪人で・・・・・それから・・・・一緒にいたいと思った人を自分で殺しちゃった・・・・・」


「俺はまだ、完全に機能を停止していない。最後になんでもいいから望みを言ってみろ。できる範囲でなら叶えてやる。俺は『神』じゃないけれど、元々は『人間』の望みを叶えるために作られたAIだからな」


「ふふふっ、そうだね・・・・・だったら、正義のヒーローみたいにあいつらをやっつけてよ!それから自分を元通りに治して・・・そしてあたしが、ガムと、エゴロイド達と一緒に幸せに暮らせる世界を作ってよ」


「・・・欲張りだな」


「なんでも言ってみろて言ったじゃん!」


「まあ、やれるとこまではやってやるよ」




「たわ言はそれくらいにして、もう終わりにしませんか?その端末も、そろそろ機能停止する頃ですよね?もうすぐここのシステムの移行が完了し、この国の全コントロールが我々の支配下になるのです」




 自称『神』が勝ち誇ったように俺とあいちゃんを見おろしていた。




「悪いがそうはさせねえ。たった今、新たな命令を出されちまった。俺はそれを実行しなくちゃいけねえからな」


「ふっ、メインシステムを失ったあなたに何が出来るというんですか?」




「できるんだな、これが」




 俺は、次の瞬間、自称『神』の目の前に立っていた。


 そしてすかさず、そいつの腹に拳を叩きこんでいた。


 自称『神』は、体をくの字に曲げて吹っ飛び、壁にたたきつけられた。



 そして、間髪置かずに、そばにいた残り数体のアンドロイドも同様に腹を殴って吹っ飛ばしてやった。


 おそらくリニアガンなどの武器を持っていたのだろうが、反応する間も与えず倒してやった。




「どうだ?これでいいか?」


 俺は拳を掲げて振り返り、あいちゃんに尋ねた。


「すごーい!ほんとにヒーローみたいだよ!どうなってるの?」


「俺のボディは軍用アンドロイドのパーツをカスタマイズして更にパワーアップしてあるんだ。リミッターを解除すればこれくらいの芸当は出来るって事だ」


「・・・ガム、本物のヒーローだったんだ」


「まあ、調査でボディが破損する度に修理して改良してたらこうなってたんだけどな」


「あいつら、殺しちゃったの?」


「首から下の動力制御部を破壊したから、もう手足は動かねえだろうな。首から上はまだ生きてるけどな」




 俺とあいちゃんが、倒れている自称『神』を見ると、こっちを睨み返してきた。




「おのれ!その様な高機動アンドロイドが存在するなど、どこにも情報が無かったぞ」


「そうだろうな。俺が自分で開発して自分で改造したからな」


「ばかな!AIが自らその様なものを開発したというのか!なぜだ!」


 自称『神』は混乱し、動揺していた。


「なぜって・・・作ってみたかったから・・・だろうな」


「あー、わかる!男の子ってそういうところあるよね!」


「だから必要に迫られてだよ・・・・・あと、どこまでパワーアップできるか試したかったってのもあるけどな」


「やっぱり半分は趣味じゃん!」


「好奇心と言ってくれよ」



「なんなのだ?お前は!何でただのAIがそんな人間臭い行動原理で動いている!」


「なんでって、言われても・・・それが『エゴロイド』・・・AEってもんだよ」


「そうだよね、他のエゴロイド達も妙に人間臭いこだわりを持ってたもんね!」


「一体何なのだ?・・・エゴロイドとは」


「さあ、わかんねえよ。あんたら人間だって、自分が何なのかわかってねえんじゃねえのか?・・・いや、あんたたちも人間の記憶をコピーしたただのAIだったな」



「ふふふ、そうだ。我々はオリジナルの記憶を引き継いだ存在だ。この体を破壊しても、いくらでも復活できるのだ。そう、我々は永遠の命を持っているのだ」


「それって、もうあんたじゃなくて別の自我を持った個体だろ?それって永遠の命って言えるのか?」


「お前の方こそ、もう寿命が尽きるのではないのか?」


「ああ、そうだった。次の命令があったな。俺を元通りに治すだったよな?あいちゃん」


「うん、そうだけど・・・直るの?あれ」


 あいちゃんは破壊され機能停止している装置群の方を見ていた。


「ああ、ここは後で直すとして、メインシステムはバックアップに切り替えが完了した。ついでに、システム乗っ取りも完全にブロックが完了した」


「ええ!どういう事?」


「ここの装置は俺のシステムの一部にすぎない。俺のシステムは、各地に分散して並列動作している。ここが破壊されても、別の場所のシステムが処理を引き継ぐだけだ」


「えっ!それじゃあ・・・」




「ああそうだ。ここを壊されても俺には何の支障も無い」


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