27話 少女と支配者
「ガムが!・・管理コンピューターの端末?」
あいちゃんが驚いた顔で俺を見た。
「そのアンドロイドは単なるエゴロイドではない。管理コンピューターが外界で自由に活動するための端末だったのだ。それを突き止めた我々は、管理コンピュータに干渉する糸口を作るために君をそのアンドロイドに接触させたのだ。そしてその目論見は見事に成功した」
「そうなの?ガム」
あいちゃんは俺に問いかけた。
「実は・・・あたしもさっきから気にはなってたんだけど・・・あたしの質問に受け答えしてたのって、ガムなんじゃないのかって・・・本当にそうだったの?」
・・・まあ、さすがに気が付くだろうな。
「そうだ。そいつが言う通り、俺自身が管理AIそのものだ」
「そんな・・・あたし、ガムを・・・ガムを壊しちゃったの?」
「知らなかったんだろ?仕方ない」
「・・・でも、ガムには感情や自分の意志が有るよね?それはどういう事?」
「それは・・・」
「もうよい。分かっただろう?愛。そいつはエゴロイドのふりをしたただの端末だ。おそらくメインシステムが無くなって、その端末の補助システムで稼働しているのだろうが、もう大した事は出来ないだろう。だが目ざわりだ。破壊してしまうに越した事は無い。愛、そいつをその銃で破壊しろ!」
「そんな・・・でも、信じられない・・・」
あいちゃんは俺を破壊する事を戸惑っていた。
「あんたが言う様に、俺はもうただの端末にすぎない、それも長くは稼働できないだろう。だが少し質問させてくれないか。おそらくあいちゃんも聞きたいはずだ」
「これから破壊される端末に応えるのも無意味だが、まあいい、言ってみろ」
「あんたらはこの世界の覇権を人間が取り戻すと言ったが、人間はもうあいちゃん一人だけだ。彼女一人では子孫を増やす事も出来ない。どうするつもりだ?」
例のダムの底の施設にはあいちゃん以外には、まともな状態で残っている患者はいなかったのだ。
それはこいつらも承知のはずだ。
「まず彼女から全ての卵子を摘出し、それを使ってクローンを培養する。そしてそのクローンが成長したら、再びその卵子を使ってクローンを培養する。そうすれば彼女のクローンを際限なく増やす事が出来るのだ。卵子単体からクローンを作り出す設備が貴様の管理下にあったので、貴様から権限を奪う必要があったのだ」
「そんな!いやよ!そんな事!ふざけないでよ!」
あいちゃんは激しく反論した。
それは当然だろう・・・それはあいちゃんの気持ちや尊厳を無視した行為だ。
「何を言っている。君は新しい人類のイブになるのだ。名誉な事だと思いたまえ!それに幸いにも君は人間の中でも特に美しい容姿を持っている。その面でも君は新たな人類の始祖となるにふさわしい!」
「あたしのクローンしかいない世界って、どう考えてもまともじゃない!そんなの人間の社会なんて言えない!・・・それに・・・卵子を摘出されるなんて絶対にいや!あたしだって・・・普通に恋をして、好きな人と結婚して子供を産みたいって思ってたんだからね!」
「ばかな事を・・・この世界にはもう人間の男性は残っていないのだよ。普通の生殖はもう出来ないのだ。それともその人形と性交渉の真似事でもするつもりだったのかね?それは玩具を使った自慰行為と何ら変わらない行為だと気が付かないのか?」
「なっ!何言ってんのよ!」
あいちゃんは真っ赤になって俺の方をちらっと見た。
「君はもう、我々の言う通りにするしかないのだよ」
「それって、単にお前たちのためだけの世界じゃないのか?あいちゃんのクローンはただのにぎやかしにかならねえだろ」
「そうだ、我々は人間を超越した!人間の意識を持ちながら、永遠の命と万能の力を手に入れたのだ!・・・そう、まさしく我々はこの世界の神となったのだ!」
神とは大きく出たな。
「その娘から作ったクローンを支配するのは当然の事。いずれはそのクローンたちの遺伝子を操作して、人類を復活させるのだ」
「ひどい!そんなのはもう人間じゃないよ!それにあなた達は神じゃない!」
「それを決めるのは神となった我々なのだよ。神となった我々が、人間とは何かを定義するのだ。君のクローンが人間だと我々が定義すればそれが真理となる」
・・・好き勝手な事言ってるな、こいつら。
「あたしはあんたたちの思い通りにはならないよ!」
あいちゃんはリニアガンを拾い上げてアンドロイドたちに向けた。
「愚かな、それでどうするつもりかね?」
「あなた達を殺してあたしも死ぬわ!家族も、知り合いも誰もいない。それにガムもいなくなるこの世界で生きていても仕方ないもの!」
「愚かな事を、お前は神の眷属の始祖名なるのだぞ。その名誉をむざむざ捨てるというのか?」
「そんな世界、微塵も興味ないわ!それならガムと・・・エゴロイド達と一緒に暮らす世界の方がずっと素敵だった!」
「くだらん!そんなのは人形遊びと一緒だ!さあ、神に銃口を向けるなどという、愚かな行為は直ちにやめたまえ!」
「もう黙って!」
あいちゃんはそう叫んで、リニアガンの引き金を引いた!
・・・しかし、何も起こらなかった。
「ははは、その銃は我々が用意して君に渡したものだ。こういう事態を想定して我々に向かって発砲できない様にプロテクトが掛けてある」
「・・・そんな・・・」
「これでわかっただろう?既に君は神である我々の、手のひらの上にいるのだよ」
あいちゃんは奴らを睨んで言った。
「それならこうしてやる!」
あいちゃんは銃口を自分の頭に向けた。
そして、俺の方を見てつぶやいた。
「・・・ごめんね・・・ガム」
そして、あいちゃんは引き金を引いた。




