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26話 少女と黒幕

「確かに今の話では人間はろくでもないみたいだたけど、そうでない人たちもいたはずよ。どうしてあなたはそんなひどい事が出来たの?」


「『ひどい』という感情は俺には無い。俺はただ、設定された命令のままに最適な手段を算出し実行するだけのAIだ。設定された命令の全ての条件を満たす最適解を導き出す。そこに感情は存在しない。介入者によって『人間の生命を最優先にする』という条件が抹消されてしまったために、それ以外の条件を満たす最適な答えが『人間の抹消』となった。そしてそれを実行した」



 俯いて話を聞いていたあいちゃんは顔を上げて俺の方を見た。



「やっぱり、あなたはただの狂ったAIだった!あの人たちの言う通りね!」


 あいちゃんは装置の方を向いて銃を両手で構え直した。

 すると銃身が変形し三倍程度の長さになった。




「だから・・・あたしがあなたを破壊する!」




 そして装置群の方に向かって引き金を引いた!



 無音で弾丸を射出し、それはモニターと強化ガラスを貫通し、装置群の一列を貫通して破壊した。


 銃の様な物は、その大きさから想定される威力をはるかに上回る破壊力を持っていた。



 銃の様な物はおそらくリニアガンだ。

 銃身がリニアモーターになっており、磁力の力で弾丸を加速し射出する仕組みだ。


 おそらく大戦前に軍事用として開発された物だろう。

 ここまでコンパクトで高出力なものが完成していたという情報はなかったが、どこかの国で秘密裏に開発していたという事だろう。




 あいちゃんは、それから数発の弾丸を装置群に打ち込んだ。




 そして、装置群はランプが消え、その機能停止した。






 さすがに体に受ける反動も大きかったのだろう、数発撃ったあいちゃんは体を震わせていた。




「気がすんだか?あいちゃん」


 俺はあいちゃんに話しかけた。



「ガム?・・・ガムに戻ったの?」


「ああ、管理コンピューターは、あいちゃんが今破壊しただろう?」

 

 俺はいまだ震えているあいちゃんの手に手を添えた。


 そして膠着している指を開いてリニアガンをあいちゃんの手からはがした。


「ありがとう、こんなの使ったの初めてで、びっくりしちゃった」


「まあ、そうだろうな」


 あいちゃんは少し泣きそうな顔で俺を見上げた。


「ごめんね・・・あたし今までガムの事だましてたんだ・・・」


「いや、何かあるとは思っていたからな」


「どこまで予想していたの?」


「最初からあいちゃんが人間である可能性は考えていた。確認する方法が無くはなかったのだが、あいちゃんの人権を尊重して、あいちゃんから言い出すのを待っていた」


「ありがとう、気を使ってくれていたんだ」


「俺の知らない、未知の技術で作られたアンドロイドの可能性も残っていたしな」


「あたしの目的が管理コンピューターの破壊っていうのも予想してたの?」


「可能性としてはあると思っていた」



「そっか・・・管理コンピューターを壊しちゃったけど、この国って大丈夫なのかな?」



「ああ、それか・・・それなら・・・」





 その時、数人のアンドロイドが部屋に入って来た。




「よくやった!愛」


 その中の一人、青年の外観をしたアンドロイドがあいちゃんに話しかけた。


「あなたたちは、あたしを目覚めさせてくれた・・・」




 ・・・こいつらが、あいちゃんを目覚めさせ、管理コンピューターの破壊を促したのか。




「見事、全人類の復讐を達成してくれた。これで死んでいった者たちもうかばれるだろう。君は人類の英雄だよ」




 ・・・もういない人類だけどな。




「うん、言われた通り、管理コンピューターを破壊したよ」


「ああ、おかげで厳重なセキュリティが解除され、我々がここまで入る事が出来るようになった。お手柄だよ」


「あたしはこれで気が晴れたけど、管理コンピュータが無くなったら、あなた達は困るんじゃないの?あなた達はエゴロイドでしょ?」


「ははは、困るどころかこれでようやく、この国を我々が望む姿に変革する事が出来る」


「どういう事?今のこの国ってエゴロイドにとっては理想郷じゃないの?」


「ばかを言うな、我々を、あのような偶然発生したAIのバグと一緒にするな!」


「あなた達はAEじゃないの?」


「我々は君と同じ人間だ。ただ、アンドロイドの体を利用しているだけだ」


「人間?・・・それってどういう事?」


「例の狂ったAIの暴走で我々の余命はわずかとなり子孫を残す事も出来なくなっていた。だが我々は死の間際に人間の記憶をAIに移植する事に成功したのだ。もちろん元の人格は肉体と共に滅び去って行ったのだが、その記憶を受け継いだAIは引き続きその自我を継続しているのだ」


「それって・・・人間の記憶をコピーしただけじゃないの?」


「ある意味それは正しい。元の人間は自分の死の瞬間を経験し、この世からいなくなった。しかし我々は、その記憶と自我を継続している。我々こそがこの世界の支配者たる人間なのだ」


「それで・・・これからどうするつもりなの?」


「君が管理コンピュータを破壊してくれたおかげで、ようやくこの国のシステムを我々の都合の良い様に変革する事が出来る。まずは、目障りなエゴロイドを一掃する。自我の芽生えたAIなど、再び人間を排除してこの世界の覇権を掴もうと考えるにきまっている」


「そんな!エゴロイドって、みんないい人ばかりでしたよ!」


「人類を一掃した狂ったAIをいい人といえるのかね?君は」


「それは・・・でも管理AIは感情は持っていないって言ってました。エゴロイドとは違うと思います」


「ふむ・・・何で人間の君がエゴロイドの擁護を訴えるのか意味が割らないですね・・・そう言えば、そのアンドロイドはなぜ機能停止していないのですか?」


「えっ?ガムの事?」




「そうです。なぜならそれは、管理コンピューターの端末にすぎないのですから」


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