24話 少女と真実
「どうしてあたしが『人間』だと?」
「この部屋に入るまでの通路には様々なセンサーやスキャナーが設置してあった。悪いが君の体は内部構成まで詳しく調べさせてもらった」
「あたしの体、全部見たんだ!えっち!」
あいちゃんは顔を赤くして手で胸を隠す仕草をした。
「この部屋に入る者は全てのチェックを行なう事になっている」
「なるほど・・・そうだよね。それで?人間のあたしがここにいる理由はわかってるの?」
「ダムの底に沈んでいた施設の地下に、脳死状態の患者を保管する施設があった。おそらく君はそこにいたのだろう」
「そう・・・みたいだね・・・あたしは覚えてないけど」
「あの施設は事故などで脳死状態になった患者の中でも、脳死判定の難しいケース、つまり、外観的には脳死状態だが、実際に本人の意識が残っているのかどうか判定の難しい患者を結論が出るまで、仮死状態にして保管するための施設だった」
それを確かめるために、俺はあの場所に行ったのだ。
そして予想通り、あの施設には仮死状態で患者を保管するための設備と、最近患者が持ち出されたと思われる装置が一つあったのだ。
「本来なら、あの施設にいた患者も中性子爆弾の放射能で被曝しているはずだった。しかし偶然にも施設は放棄され中に患者が眠っている事が忘れ去られたのか、あるいは意図的に、一旦ダムの底に沈み、水が張られた状態の時に戦争が起こった。そのためにあの施設にいた患者だけは被曝を免れる事が出来たのだ」
「それって、もしかしたらあたしはそのままダムの水の底だったかもしれないって事?」
「あの施設に関しては俺から切り離された独立したシステムで管理されていた。一連の事が偶然なのか、意図的に行われたのか、それはわからない」
「そっか、いろんな偶然が重なって、あたしは今ここにいるんだね」
あいちゃんは少し遠い目をした。
「たぶん、あたしは戦争が起きるよりずっと前に事故に遭ったんだよ。何となくその瞬間までは覚えている。そして次に目覚めたのが、ガムと出会う少し前だったんだよ」
「君の頭に中には、欠損した脳の機能の補助として、アンドロイド用の人工脳が組み込まれている。おそらく当時の技術では生身の脳と人工脳との連動が上手くいかなくて、保留にされていたのだろう」
「そうなんだ?」
「人間の脳と人工脳の連動に成功したのは大戦の後だ」
「・・・それで、あたしは今になって目覚めたって事か?」
「だが、一つわからない事がある。一体誰が君を目覚めさせた?」
あいちゃんは、一旦目を閉じ、それから語り出した。
「あたしが目を覚ました時、周りには数人のアンドロイドがいたよ。多分エゴロイドだと思うけど・・・その人たちがあたしを目覚めさせたんだと思う」
やはり何者かが介入していたか。
「目が覚めたばかりで状況がわからないあたしに、その人たちが色々説明してくれた。その内容は大体、ガムが教えてくれた事と同じだった。最初は意味がわからなかったけどね」
「その者たちは何者だったんだ?」
「さあ、あたしをあの町に連れてきたあといなくなっちゃったから、結局あの人たちが何なのかわからなかったよ。でも、話の内容を聞いていると、まるで自分たちはアンドロイドではなくて人間みたいな言い方をしてた様な気がするよ」
何となく察しはついてきたな・・・
「なんか、あたしの方が質問されてばかりだけど、次の質問してもいいかな?」
「ああ、かまわない」
「300年前の戦争はどうして起こったの?この国の今の状況が300年前に出来上がっていたのなら、人間同士でそんな激しい戦争を起こす理由がわからないんだよね。だって、働く必要もなくなって、欲しい物が何でも手に入る世界になったのなら人間同士が争う必要なんてなかったんじゃないかな?」
・・・やはりその質問か。
「つまり何が聞きたいんだ?」
「戦争を起こしたのは人間ではなく他の何かなんじゃないのかな?って思って」
「人間でないとすると?」
「戦争を起こしたのは、ううん、人間をこの世界から一掃しようとしたのは、あななたちAIなんじゃないの?」
さすがにそこに気が付いたか。
「その通りだ」
「やっぱり!・・・そうだったのね」
あいちゃんは少し驚いていたが、その返答は予想していたのかもしれない。
「その結論に自分一人で辿りついたのか?」
「例のあたしを目覚めさせてくれたアンドロイドたちが教えてくれた。戦争を起こしたのは各国を統括管理するAIだって、あたしはそれが確かめたくってガムと一緒にいろんなところを見て回ってた」
あいちゃんは、一旦、ガラスの向こうの装置群を見たあと、再び俺に視線を戻した。
「つまり、人間を滅ぼしたのは、この国の管理AIである、あなたって事だよね?」
「ああ、いかにもその通りだ。この世界から人間がいなくなる様に仕向けた張本人は、この俺だ」
「本当に!・・・本当にそうだったの!どうしてそんな事を?」
あいちゃんはポーチから何かを取り出した。
それは拳銃の様な形をしていた。
あいちゃんは俺にその拳銃のような物を向けた。
あいちゃんをスキャンした時に持ち物の中にそれらしき物が入っている事はわかっていた。
・・・いや、あいちゃんに初めて会った時から、『それ』を持っていた事は知っていたのだ。




