23話 少女と管理者
「ここって・・・この前来たタワーだよね?」
俺はあいちゃんを連れて、都心のタワーのある駅に来ていた。
「そうだ、管理コンピューターはここの地下にある」
「そうだったんだ!じゃあ、この前ガムがここに来たのって?」
「ああ、ここの管理コンピューターに用があった」
俺はあいちゃんを連れてエレベータールームに向かった。
「このエレベーターってこの前も使ったやつだよね?」
「今回向かうのは展望室ではなく地下だ」
俺に続いてあいちゃんがエレベータに乗ると、俺は端末にアクセスし、地下20階を指定した。
エレベータは降下を始め、次第に速度を上げていった。
「あれ?表示は地下5階までだったのに、数字が増えていくよ?」
「地下5階から下は権限を持った者しか入れないエリアになっている」
「へえ!ガムって特別扱いなんだ?」
「まあ、そういう事だ」
エレベーターは高速で降下し、途中から減速を開始して、地下20階で停止した。
「結構下まで降下したと思ったけど20階なんだね?」
「1階ごとの距離が離れてるからな。実際にはかなり深い場所だ」
俺がエレベーターから降りるとあいちゃんが後に続いた。
「わあ!すっごい頑丈そうな扉だね?」
俺とあいちゃんの目の前にはコンピュータールームに続く重厚な扉が立ちはだかっていた。
「ああ、あらゆる外敵の侵入を阻む必要があるからだろうな」
「敵なんているの?」
「昔の話だ。当然、今はもういない」
俺はそう言って、扉のセキュリティを解除し、扉を開けた。
重厚な扉がわずかな作動音と共に開いていく。
「さ、こっちだ」
俺は扉の先の通路に入った。
俺とあいちゃんが通路を進むと、自動的に背後の扉が閉まり、代わりに前方の扉が開いていく。
「わあ、すごい!本当に厳重なんだね。でも面白い!」
いくつもの扉を通過し、最後の扉が開くと、そこは無数のモニターの並ぶオペレーションルームだ。
「わあ!いかにも指令室って感じだね!」
「ここがこの国を統括管理するメインコンピューターのオペレーションルームだ」
「あのガラスの向こうに見えるのがそのコンピューターって事?」
ガラス張りの壁の向こうには、無数の四角い箱が並んでいる。
「ああ、そうだな、こいつらがそのハードウェアだ」
「・・・ついにここま出来たよ・・・」
あいちゃんが何か小声でつぶやいていた。
「さて、ここで何が知りたいんだ?あいちゃん」
俺はオペレーター用の椅子に腰を降ろし、あいちゃんに尋ねた。
「ええと・・・ガムじゃなくて、ここのAIに直接聞きたいんだけど?」
あいちゃんは俺の隣の椅子に腰かけた。
「俺は今、このコンピュータに直接接続している。つまり、俺が今、このAIの端末になっているって事だ」
「そんな事できるんだ?ガムっていったい何者なの?」
「ここのシステムがそうなっているんだ。そこの操作パネルとモニターでアクセスする事も出来るが、音声で対話したい場合は、任意のアンドロイドに接続して、そのアンドロイドを介してアクセスする仕様になっている。今この場にいるアンドロイドは俺だけだから、必然的に俺が端末になるってわけだ」
「ふーん、なるほどね。そういう仕組みならそうなるよね」
俺の言った事の真意に、気が付いているのか、いないのか?
納得した様な返事をしている。
「という事だ。なんでも聞いてくれ」
「なんかいつもと変わらないけど、まあいいや。ガムだけど、ここのAIだと思って話せばいいって事だよね?」
「ああそうだ。今の俺はガムじゃないと思ってくれていい」
「ちょっとわかりにくいけど、わかった」
・・・あいちゃんは本当に理解できているのだろうか?
「じゃあ、まず、はじめまして管理AIさん、あたしは『愛』です」
「愛の事は既に認識している。初めてではない」
「それはガムの話だよね?あたしは管理AIさんと話してるんだよ」
「これはその『管理AI』としての返答だ。愛がこの地域で活動を始めてからその存在は認知している」
「へえ!この国の事はすべて把握してるって本当なんだね・・・うーん、やっぱり話しづらいな」
「今の俺はガムでもあり、管理AIでもあるんだ。ガムとしての俺は傍聴しているだけで、返答をしない様にしている。そのつもりで話してくれ」
「うん、わかったよ。じゃあ、一つ目の質問ね。この国・・・ううん、この世界の人間は本当に全員死んでしまったんだよね?」
「今から150年前に最後の一人の死亡が確認された。これはこの国だけでなく、世界中の管理AIで共有している情報によるものだ」
「・・・そっか・・・やっぱりみんな死んじゃったんだ」
あいちゃんは少し泣きそうな顔で俯いていた。
「でも、戦争の後も生きていた人たちもいたんでしょう?助ける事は出来なかったの?」
「核攻撃によって地上の全ての人間が少なからず被曝していた。生存者の9割以上は高齢者で、生殖は不可能であり、生殖可能な者も、遺伝子の異常で正常な子供を出産する事が出来なくなっていた。数世代に渡り、子孫を残してはいたが、それらも身体や精神に障害を持つものばかりであり、末期は、ほとんど人間と呼べない状態の子供しか生まれなくなっていた」
「そんな・・・ひどい・・・」
あいちゃんは口を押えていた。
今の話を聞いて気分が悪くなったのだろう。
「だが、その情報は本日付けで更新された」
あいちゃんは少し驚いた顔をしたが、顔を上げて、無言で俺を見つめた。
「たった今、『愛』を『人間』と認定した」




