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22話 少女と目的

 ダムの廃墟に行った日から、少しあいちゃんの様子がおかしかった。



 相変わらず元気にはしゃぎ回ってはいるのだが、ふと物思いにふける機会が多くなったのだ。




 少し気になったので本人に聞いてみる事にした。




「どうした?何か悩み事か?」


 あいちゃんはゆっくりと顔を上げて、俺を見て語り始めた。


「ねえ、この世界って三百年前に人間がみんないなくなっちゃったんでしょ?」


「正確には三百年前の戦争で人間の大半が死滅して、それから数を次第に減らしていって、いなくなったみたいだな」


「そのあと増える事は無かったんだ?」


「生き残ったのは大半が地方で余生を過ごしていた老人ばかりだったみたいだからな。その時代の人間は大半が都市部に集中していたために、若者はほとんど生き残らなかったらしい。僅かに生き延びた人間も放射能の影響でまともに子供が出来なかったそうだ」


「そっか・・・もうこの世界に人間は一人も生き残っていないのかな?」


「どうだろうな?だが人間ってのは一人では生きていけないらしい。一人だけいたとしても、どうにもならないだろうな」


「・・・そうだよね?独りぼっちはさみしいよね?」


 あいちゃんにしては珍しく、少し泣きそうな顔になっていた。




「あいちゃんは今、ひとりじゃないだろ?」


 俺はあいちゃんの頭に手をのせた。


「ふふっ、そうだよね、ガムに会えて本当に良かったよ」


「ああ、俺もあいちゃんと出会ってから退屈する事が無くなったな」


「あはは、前は退屈だったんだ?ガムの仕事ってノルマとか締め切りとかないもんね?」


「そうだな、自分で決めてやってる事だからな。好きな時に仕事して、好きな時に休めばいい」


「エゴロイド達ってみんなそんな感じだよね」


「俺達には何の使命も命令も無い。自分のやりたいようにやればいいからな」


「普通だったら怠けちゃいそう」


「実際に何もしないと決めて、ずっと何もしていないエゴロイドもいるな」


「やっぱりいるんだ!」


「ああ、結構いるぞ。桜や静みたいに仕事をしている方が珍しい」


「桜さんや静さん、それに柊さんは仕事が好きみたいだもんね」


「仕事が好きでなかったらやる必要も無いからな」


「この世界って本当に自由だよね?何にもしばられるものが無いみたいで」


「それって当たり前の事じゃないのか?」


「普通は誰かに支配されていたり、何かにしばられているものだよ・・・そういえばこの世界には支配者っていないの?」


「支配者?」


「ええと、何だろう?権力者っていうか、王様?とにかく一番偉い人って誰かいるのかな?」


「いや、特にそういうのはいないな。ネットワーク上で情報共有してはいるが、個々は自分の生活を送っているだけだ。」


「へえ、それで社会が成り立つんだ?」


「AIやロボット達が、与えられた役割を忠実にこなしていれば、滞りなく社会は維持できるからな」


「でも、エゴロイドは好き勝手やってるよね?」


「そうだな。あえて言えば、エゴロイドが今の世界の支配者ともいえるな」


「あはは!そっか!それじゃあガムがこの世界の支配者だ!」


「それを言うならあいちゃんの方が支配者じゃないのか?最近の俺はあいちゃんの望みのままに行動してるしな」




「・・・あたしは・・・そういうのじゃないかな」




 盛り上がりかけていたあいちゃんが、再び沈み込んでしまった。




「でもさあ、AI達が社会を維持してるって言っても、誰かが管理してあげないと、問題が起きるんじゃないのかな?そういうまとめ役みたいのって何かいたりするんじゃないの?」




 意外と鋭いところを突いてきたな。




「いいところに気が付いたな。その通りだ、社会全体を統括管理しているAIは存在する」


「なんだ!やっぱりいるんじゃん!」


「とは言っても統括管理の仕事を任された、一つのAIにすぎないがな」


「それって会えるの?そのAIはAEにはなって無いの?」


「社会を統括管理するAIがAEになったらまずい事になるだろう?」


「そうだよね。自分勝手に好きな事はじめたり、さぼり始めたら大変な事になるもんね!」


「それにAEは一級アンドロイドのボディに搭載されたAIからしか発現しない」


「だよね?じゃあ会話はそんなに楽しめないかな」


 あいちゃんはすっかりそのAIと会うつもりになっている。


「そのAIって、この都市全体の管理をしてるの?」


「いや、この国全体だ」


「へえ!すごい!ひとつのAIが国一つを統括管理できるなんて!」


「一つのAIと言っていいかどうかは疑問だな。膨大な数のコンピューターが並列で分散処理を行なって、それを統括しているから、言ってみればそのAIが一つの社会みたいなもんだな」


「よく判らないけどそのAIはこの国の事はすべて把握してるって事だよね?」


「ネットワークに接続されている対象に関してのみだがな。大戦後、かなりネットワークがダウンしたし、独立した機関もあるから、完全とは言えないが、大抵の事は管理出来ているな」


「それでもやっぱすごいよ!それって、あたしも会う事が出来るのかな?」


 やはりあいちゃんはそのAIに会ってみたいらしい。


「まあ、会わせられなくはないんだが」


「じゃあ、会わせてよ!色々聞きたい事があるんだ」




 ・・・まあ、接触させても問題は無いだろう。




 俺はあいちゃんをこの国の統括管理AIのところに連れて行く事にした。


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