21話 少女と廃墟
俺達はダムの脇の山道を下ってダムの内側の廃墟のところまで下りて来た。
ダムに水没したら使えなくなるのだが、こういった場所にはダムの建設工事中に使われていた道が残っているものなのだ。
ダムの上から見た街並みは、一見きれいに保たれている様に見えていたが、近くに来てみると家の中は一旦泥に埋まったらしく、土まみれになっていた。
当然だが住民が全員引越した後で水没しているので、家財道具などはほとんど残っていない。
その状態から数百年放置されていたので、建物などは今にも崩壊しておかしくない程老朽化が進んでいた。
実際、いくつかの建物はすでに崩壊ていたのだ。
「きれいな街並みに見えたけど、近くで見るとそうでもなかったんだね」
町を間近で見たあいちゃんは、少しがっかりしていた。
「ここみたいに一旦水没したところもあるが、そうでない町や村も大体似たようなものだ」
「人がいなくなってから数百年が過ぎてるんだもんね」
「ああ、だがこういった過疎地は世界大戦の起こる前から廃墟になっていたところがほとんどだな。大戦が起きた時には、人間は大半が大都市にしか住んでいなかった。そして大都市にいた人間は全滅し、その後生き残っていたのはこういった過疎地で細々と暮らしていた老人ばかりだったんだ」
「そっか、皮肉なもんだね」
「あの・・・向こうに骨董屋らしき店があるので見てきていいですか?」
俺とあいちゃんが話している間に、桜が町の中を見て回っていた。
「ああ、俺たちもすぐに行く」
俺とあいちゃんは桜の後を追って、骨董屋らしき店にたどり着いた。
「へえ、このお店は商品が結構残ってるんだね」
元から古びていたであろう店は、更に年季が入って今にも崩壊しそうだが、店の中には夥しい商品が散乱していた。
「こういった古美術店なんかは店主が高齢で、店を引っ越す事もなく商品が放置されている場合が多いんだ」
「だから、掘り出し物のアンティークが見つかる事も結構多いんですよ」
桜は既に散らばった商品の物色を始めていた。
「勝手に持って行っていいの?」
「持ち主も管理者もいないからな。むしろ持って帰ってきれいに陳列した方が前の持ち主も喜ぶんじゃないのか?」
「確かにそうかもね!桜さん!あたしも手伝うよ!」
あいちゃんも散らばった商品の物色を始めた。
「ありがとうございます。土に埋まっている物もありますから慎重にお願いしますね」
二人は膨大な量の商品の発掘を始めてしまった。
「俺は他の場所を見て回るぞ。一時間くらいで戻って来る」
「うん!桜さんと遺跡の発掘してるよ!」
俺は車で、廃墟の町を走りながら見て回った。
少し走ると開けた場所に出た。
広い敷地に点々と大きな建物が建っている。
かつての研究都市だった場所だ。
大戦よりもっと昔、この国の人口が爆発的に増大していたころ、都市部には土地が足りなくなって、郊外の山林を切り開いて住宅地やこういった研究施設を乱立していた時代があったのだ。
だがその後、景気が低迷し、人口も減り始めたために、この様な都市部から離れた場所の研究施設は用済みとなり閉鎖されて行ったのだ。
この研究都市も使われなくなり、やがてダムの底に水没される事になったのだ。
破棄された研究施設に本来だったら何も用はなかったはずだったのだが、俺は確かめたい事があってここに来た。
研究所らしき建物の中の一つの、一際重厚な建物の近くに俺は車を停めた。
窓一つない頑丈そうな建物だ。
その通用口と思われる扉の操作パネルに手を触れ、俺はシステムアクセスした。
システムはまだ生きていたので、システム内部に侵入する事が出来た。
カスタマイズされたセキュリティがかかっていたが、俺なら容易に解除できる。
そして扉を開く事に成功した。
とんでもなく重厚で頑丈そうな扉が音もなく開いたので、俺は建物の中に入った。
建物の内部構造は、先ほどシステムに侵入した時に取得して、すでに内部構成を把握していたので、俺は目的の場所に向かった。
目的の部屋は地下深くにあり、エレベーターで地下深く潜っていく。
エレベータを降りると、厳重に閉ざされた扉があった。
俺はその扉のセキュリティを解除し中に入る。
扉の中は病院の様にも見えるし研究室の様にも見える場所だった。
一つ一つの部屋全てにロックがかかっていたが、それらのセキュリティを解除し中に入った。
部屋の中には装置に囲まれ、無数のチューブやコードの繋がった水槽が置いてあった。
長い時間放置されていたはずだが、装置は今でも機能していた
俺は水槽の中身を確認した。
中身は・・・・・俺の予想通りの物だった。
・・・俺は一つ一つ、部屋を順番に確認して回った。
そして全部の部屋を確認し終わるとエレベータで地上に戻ったのだった。
俺の知りたかった情報はこれで大体手に入った。
もうこの研究施設に用はない。
地上に出て建物の扉を元通りに閉じると最初と同じ様にセキュリティを戻しておいた。
用事の済んだ俺は、あいちゃんたちのいる骨董屋へ車で移動した。
「おかえり!ガム。どこに行ってたの?」
「町の中を見て回ってたんだが、特に目ぼしい物は無かったな」
「そうなんだ、じゃあ、こっちを手伝ってよ!桜さんと二人じゃ追いつかないんだよ!」
「今回、掘り出し物がたくさんあるんです」
桜も珍しく興奮気味だ。
「しかたない、手伝うとするか」
俺達三人は、こうして大量の骨とう品を手に入れる事が出来たのだった。




