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18話 少女と自動車

 テーマパークを思いっきり楽しんだ日から、あいちゃんは、毎日いろいろなところへ出かけては、アンドロイドやエゴロイドと出会を繰り返していた。


 あいちゃんは、やはりこの世界の常識を知っている様でいて、少しずれた常識を持っている。


 行く先々で、勝手を知ってたり、知らなかったり、カルチャーショックを受けたり、あるいは俺の知らなかった知識を教えてくれたりする事もあるのだ。



 そんな中で、あいちゃんはこの世の中に柔軟に対応し、それなりに楽しんでいる様でもあった。



 あいちゃんはとにかく会話が好きで、相手がエゴロイドだとわかると、根掘り葉掘り質問を浴びせかけるのだ。


 それ以前にアンドロイドにも同じ事をするので、会話の中からアンドロイドとエゴロイドを見分けるのがかなり得意になって来たと本人は主張している。




 ・・・俺の見立てでは結構外してはいるのだが・・・




 そして・・・そんなあいちゃんが何者なのか・・・俺はいまだに見極める事が出来ないでいた。




「ねえ!そういえば、まだ海に連れて行ってもらってなかったよ!」


「そうだったか?海辺にあるタワーやテーマパークなんかには行っただろ?」


「そうじゃなくて!砂浜だよ!海水浴場だよ!海の家だよ!」




 ・・・また謎の知識が出て来たな・・・




「砂浜に行きたいのか?それなら連れて行ってやれなくもないが?」


「じゃあ行こう!さっそく行こう!すぐ行こう!」


「まあ、今日は特に予定もないし、かまわないぞ」


「やったあ!・・・でも、ガムって結局毎日暇だよね?」




 ・・・そういえば、ここ最近、毎日あいちゃんのわがままに付き合いっぱなしだったな。




「どこの海に行くの?やっぱり電車で行く?」


「今日は車で出かけてみるか・・・」


「車って、タクシー?」


「いや、俺の車だ」


「へえ、ガム、車もってるの?」


「ああ、持ってるぞ」




 俺とあいちゃんは海に行く支度をして、マンションの地下駐車場へ行った。



「これが俺の車だ」


「ええ!これって!ガソリン車だよね?」


「ああ、そうだ、都市部から離れた場所に行く事も多いからな、普通の自動車だと充電する場所がない事が多い」


 そう、俺が普段使っている車は、一般的には使われていない内燃機関で動く自動車だ。


「へえ!すごいすごい、高級RVだ!どうやって手に入れたの?」


「博物館に保管されていたやつを直して動くようにした」


「でも部品とか、もう手にはいらないでしょう?」


「昔のメーカーのサーバーに設計図は残っていたからな、今の生産技術なら大抵の部品は作り出す事が出来る。電装系は今使われている自動車の物を流用すればいいし、肝心のエンジンの部品は金属加工で出来ているから、大抵の部品は金属3Ⅾプリンターと五軸加工機で作り出す事が出来るし、精密な仕上げが必要な部品もアンドロイドを製造する技術があれば問題なく復元できる」


「そうだよね、自動車よりもアンドロイドの方がよっぽど作るの大変だもんね」


「そういう事だ」


「でも、動く様になるまで結構時間がかかったんじゃないの」


「そうだな、設計図には描かれていないノウハウも色々必要だからな。だが、時間ならいくらでもあったしな」


「そうだよね、ガムって暇を持て余してるんだもんね」


「人聞きの悪い事言うな。この車の復元も俺の仕事の一つだ」


「いいから!早くエンジンかけてみてよ!」


 ・・・何で『エンジン』なんて単語知ってるんだ?



 俺は運転席に座ってキーを差し、スターターを回した。



 エンジンが低い音を立てて回り始めた。


「うわ!重厚な音だね!」


「そうだな3000ccのエンジンだからなこの時代の普通自動車の中では大きめのエンジンだな」


 この手の車が作られていた時代では、少人数乗りの車の中では比較的大きい部類だったらしい。


 俺は道路が整備されていない場所に行く事も多いのでオフロードも走れる様に四輪駆動で車高の高い車を選んでいた。



「これって結構高級なRV車だよね?こんなの乗るの初めてだよ!」


「そりゃ、世界にこいつ一台だけだからな、当然乗るのは初めてだろう」


 言ってる間に、あいちゃんは助手席に座っていた。


「わー!目線高い!シートふかふかだぁ!」


「いいからシートベルトしとけよ、発進するぞ」


「うん、シートベルトならしめてるよ」


 見るとあいちゃんは確かにシートベルトを締めていた。


 この手の昔の車のシートベルトは特殊だから、説明しないと使えないと思ったんだが・・・何で使い方知ってるんだ?


「準備出来たよ!出発しようよ!」



「ああ、いくぞ」


 俺はギヤを入れて車を走らせ始めた。


「わあ、思ったより静かに走り出すんだね」


「この手の大型車は、エンジンの回転を上げなくても発進できるからな」


「そうなんだ!さすがの高級車だよ!」


 あいちゃんはご機嫌だった。


「やっぱり自動運転じゃないんだね」


「この時代の車にはそもそも自動運転機能は付いて無いからな」




 車は地下駐車場から地上に出て、市街地の中を通り抜ける。


「駅前なのに他に全然車がいないって気持ちいいよね!」


「・・・ここの駅前はいつも車なんて走ってないだろ?」


「あはははは!そういえばそうだよね!」


 


 駅前を車が走ってるなんて、たまに俺達がバスやタクシーを使う時ぐらいだ。




「郊外に出たら高速道路に乗って、海までは1時間かからないだろうな」


「そんなに速いの?」


「その気になれば30分もかからないぞ」


「いや、いくら何でもそれは無理でしょ?」



 話している内に市街地から郊外に出たので、高速道路の入り口から高速道路に入った。


「あれっ?料金所って無いの」


「だから、何の料金を払うんだよ」


「ああそうか!お金がいらないもんね」




 高速道路に乗ると、俺は次第に速度を上げていった。




「わあ!速い速い!・・・でもさすがにスピード違反じゃないの?」


「スピード違反ってなんだ?この道路は速度の制限なんてないぞ?」


「えっ?速度無制限なの?」


「ああ、いくら出しても大丈夫だ。他に車もいないしな」


「そうなんだ!じゃあ、出せるところまで出してよ!」


「ああ、かまわないぞ」


 俺は速度を上げていった。


 大排気量のエンジンは回転数を上げなくても余裕で加速していった。


「すごいすごい!もっととばして!」




 俺達は高速道路を時速200キロオーバーで疾走し、結局30分もかからずに海についてしまったのだった。


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