17話 少女と海賊
「ほう、可憐なお嬢さんだね?はじめまして、おれの事は『キャプテン』と呼んでくれ」
キャプテンと名のった海賊は、慇懃無礼に礼をして、あいちゃんの手を取り、ちゅっと短いキスをした。
いちいち、動きがキザっぽい。
「この、くたびれたおっさんは君の彼氏かい?こんなのとはさっさと分かれて、おれの女にならない?」
「あははははは!考えておきますね」
・・・客に対してずいぶんと失礼なAIだな?
「おっと!いけねえ!奴らに見つかっちまう。ボートの中にかくまってくれ」
返事をする間もなく、キャプテンは俺とあいちゃんの足元に潜り込んで隠れてしまった。
すると別の海賊たちがやって来た。
「おい!お前ら!ここに長髪の海賊がこなかったか?」
チラッと足元を見ると、キャプテンは人差し指を口に当てて、片目をつぶっていた。
「来なかったですよ」
あいちゃんが少し笑いそうになるのをこらえながら返答した。
「本当か?ボートの中を調べさせてもらうぞ!もし隠してたらお前らも殺すからな」
まさか、本当に殺される事は無いだろうが、どういう展開になるんだ?
「あっ!向こうに長髪の人影が!」
あいちゃんはボートの前方を指さした。
「なに!本当か!」
「うん!長髪にバンダナを巻いた海賊があっちに走って行くのが見えたよ!」
「そいつに間違いねえ!よしっ!てめえら!追うぞ!」
海賊たちはあいちゃんの指さした方向に走って行ってしまった。
・・・こんな単純でいいのか?
「助かったよ、お嬢さん」
キャプテンはいつの間にか俺とあいちゃんの間に座っていた。
二人掛けのシートはかなりみちっとしている。
「ちょっと狭いんだが?」
俺はキャプテンに言った。
「俺ならおっさんが後ろの席に移ればいいんじゃないのかい?」
・・・客相手にこの態度は許されるのだろうか?
「あはははは!この密着加減がいいんだよ!」
「おお!わかってるね、お嬢さん」
キャプテンはあいちゃんの方を向いて両手を広げた。
狭いシートはさらに狭くなった。
・・・何なんだ?この演出は?
それからボートは次のエリアへと進んだ。
そこは海賊同士が戦っているシーンだった。
おそらく敵対する海賊同士が宝の奪い合いでもしてるのだろう。
大勢の海賊達が剣を交えていたのだ。
「キャプテンはどっちの仲間なの?」
「おれか?おれはどっちからも狙われてる。っていうか、この戦いは俺がくすねた財宝をあいつら、お互いが犯人だと思って戦ってんだ」
・・・一番の悪人はこいつじゃねえか?
「あはははは!キャプテン、悪い人だぁ!」
「ああそうさ!なんたって海賊だからな!」
「あっ!いたぞ!あいつだ!」
争っていた海賊の一人が、このボートに乗っているキャプテンに気が付いた。
「やべえ!見つかった!」
「逃がすな!奴を捕まえろ!」
争っていた海賊たちが戦うのをやめて一斉にこちらに向かってきた。
「おい、このままじゃ捕まるぞ?」
俺はキャプテンに問いかけた。
「ボートの速度を上げて逃げるぞ!」
キャプテンがそう言うと本当にボートの動きが速くなった。
「ええっ!逃げ切れるの?これ」
「まあ、まかせなって」
ボートに海賊の手が届きそうになると、ボートが勝手に左右に進路を変えた。
「なんだこいつ、ちょこまかと!」
海賊たちは俺達のボートを捕まえようと躍起になっていたが、ボートは巧みにその手を避けていく。
すると今度は投げ縄が飛んできた。
「わわっ!つかまっちゃう!」
「おれに任せな!」
キャプテンはそう言うと、腰の刀を抜いて投げ縄を空中で切り裂いたのだ。
・・・ってそれ、真剣じゃないよな?
そして、俺たちのボートは追手を振り切り、ついにこのエリアから脱出する事が出来たのだ。
「すごい!スリル満点だったよ!」
「だろ?おれにかかればざっとこんなもんよ!」
「さすが!キャプテン!」
そして次のエリアは、海賊船同士の砲弾戦の真っただ中っだった。
轟音と共に頭の上を砲弾が飛び交う。
砲弾が命中した海賊船からは海賊が海に投げ出され、大きな水しぶきを上げて海面に落下していった。
「わあ!すごい迫力!」
「っていうかこれ、本気でやばくないか?」
砲弾や海賊が海に落下する度に水面は大きくうねり、ボートが激しく揺れるのだ。
「まあ、おれの操船技術を信頼してくれ」
キャプテンが、ボートを操って砲弾や落下してくる海賊たちを避け、波でボートがひっくり返らない様に操っているという事らしい。
「キャプテンの海賊船は無いの?」
あいちゃんは素朴な疑問をキャプテンにぶつけた。
「・・・おれの船は・・・もう、無い。ギャンブルに負けて手下と共に取られちまった。だからこのボートがおれの海賊船だ!」
・・・かっこいい事言った風に聞こえるが、単に船を持たない自称一人海賊って事だよな?
しかし、操船技術や剣の腕は確かに本物だ。
キャプテンの巧みな技で海賊船の戦いの中を抜けると、そこは、金銀財宝の眠る洞窟だった。
「ついに目的のお宝を見つけたぜ!これで俺の船が買い戻せる。じゃあ、おれはここでお別れだ。ここまで乗せてくれたサンキューな!」
キャプテンはそう言ってボートから財宝の上に飛び移った。
「じゃあね、海賊船を取り戻したらあたしも乗せてね!」
「ああ、いつでもまってるぜ!」
キャプテンはそう言って決めポーズで俺達のボートを見送った。
そしてボートは船着き場についたのだった。
「あー、楽しかった!もっと怖いかと思ったけどキャプテンのおかげで全然怖くなかったよ!」
それにしても、こんな奔放なシナリオだったのか?ここは。
「あのキャプテンってエゴロイドだよね?」
「アトラクションのキャストだからな、エゴロイドではないだろう」
「でも、ほんとに生き生きとしてたよ?」
「そういうシナリオなのだろう?」
「そうかなぁ・・・絶対エゴロイドだと思うんだけどな?」
「あいちゃんがそう思うのならそれでいいのかもしれないな」
そもそもエゴロイドの定義が曖昧なのだ。
「うん!また今度あったら、きっとガムにもわかるよ!」
なぜかあいちゃんは自信満々だったのだった。




