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15話 少女と遊園地

 俺とあいちゃんはテーマパークの入り口に立っていた。




 先の超々高層タワーの展望室から、エレベーターで地下の駅まで下りて、電車で数駅移動すると、その駅前は、展望室から見下ろしたテーマパークの入り口だった。


「すごーい!ここってちゃんと運営してるの?」


「ああ、そうだな。人間がいなくなる前に、スタッフもキャストも全てロボットやアンドロイドに置き換わっていたから、運営には支障は無い。ただ、客が滅多に来ないから、普段はスタンバイ状態で、客が来た時だけアトラクションが稼働する」


「つまり、貸し切りってこと?」


「今日は他に客はいないみたいだし、まあそうだな」


「やったぁ!アトラクション乗り放題だぁ!」


 あいちゃんは握った両手を振り上げて、飛び上がって喜んでいた。


「まあ、いつ来ても乗り放題なんだが・・・」


「いいからいいから!早速入ろうよ!」




 入場ゲートでチェックして中に入ると、早速このパークのキャラクターたちが出迎えてくれた。


 主に動物を擬人化した二頭身のキャラクター達だ。



「わあ!メインキャラクターがみんな揃ってるよ!すごーい!あたしたちのためだけに全員で出迎えてくれるよ!」


「そうだろうな。今日の客は今のところ俺達だけだしな」


「なんか、キャラクター達がすごいリアル!本当にアニメの中から出て来たみたい!・・・でもなんかちっちゃくない?これ、どうやって中に役者さんが入ってるんだろう?」


 あいちゃんと俺のまわりに集まって来た二頭身キャラクター達は、皆アニメの中の設定寸法通りの大きさだ。

 大体90cmから1mくらいだろうか?


「何言ってんだ?中に役者なんか入ってるわけないだろう?こいつらは専用に作られたアニマロイドだ」


 明らかに人間と異なるプロポーションのこれらのキャラクター達は、各キャラクターの設定に合わせて専用設計で作られたロボットだ。


 昔は『着ぐるみ』と呼ばれる中ががらんどうになった人形を人間の役者が被って演技していたそうだが、人間のサイズに制約されて、どうしても設定寸法より大きくならざるを得なかったのだ。


 人間のいなくなった今では、アンドロイドが着ぐるみを着て演技する事も出来るのだが、どうしてもアンドロイドの体形やサイズに制約を受けてしまう。

 それなら最初から、専用の体形のロボットを作った方が、よりストーリーの世界観に忠実なキャラクターが実現できるのだ。


「ああ、そっかぁ!人間そっくりのロボットが作れるんだから、キャラクターそのままのロボットも作れちゃうよね!」


「そういう事だ」



「こんにちは!あいちゃん!ぼくたちの夢の国へようこそ!」


 このテーマパークのメインキャラクターが、仰々しい身振りであいちゃんに話しかけてきた。


 キャラクターはアニメさながらの豊かな表情で、まるで自分の意志を持っているかの様だった。



「わあ!あたしの名前呼んでくれたよ!どうなってるの!」


「さっき、ゲートで自分の愛称を入力しただろ?パーク内のシステムに登録されてるんだよ」


「ああ!そういう事か!」




「あいちゃん!今日はめいっぱい楽しんでいってね!」


 今度は別のキャラクターも話しかけてきた。



「あいちゃん!後で俺のアトラクションにも来いよな!」


「あいちゃん!わたしたちのアトラクションにも来てね!」


 他のキャラクター達も次々とあいちゃんに話しかけてきた。




「わあ!すごいすごいすごい!みんな!今日はよろしくね!」



「では、ぼくがあいちゃんをエスコートするよ!」


 パークのメインキャラクターがあいちゃんに手を差し伸べた。


「えっ!いいの?」


「もちろんさ!今日はあいちゃんが主役だよ!」


「ええっ!こんな事ってあるの!」


 あいちゃんは本当に喜んでいるな。


「ねえ、はぐしてもいいかな?」


「もちろん!さあ、どうぞ」


 キャラクターは両手を広げた。


「じゃあ、遠慮なく!」


 あいちゃんは、キャラクターをぎゅうっと抱きしめた。


「わあ!やわらかい!それにふかふかしてる!」



 子供はだいたいキャラクターに抱きつくからな。

 安全のために柔らかく作られているのだ。



「ははっ!さあ!最初はどこに案内しようか?」


「じゃあ!ジェットコースター!」


「了解!それじゃあ、未来の国へいこう!こっちだよ!」


「ようし!全部のアトラクション制覇するぞ!」


「そう来なくっちゃ!」


 あいちゃんはキャラクターとすっかり意気投合した様だ。


 キャラクターと手を繋いでスキップしながら屋内型ジェットコースタの方へと向かった。


 後ろからもぞろぞろと大勢のキャラクター達が二人を取り囲む様について来る。




 キャラクター達に囲まれたあいちゃんは、さながら映画の中のプリンセスの様だった。



「何やってるの?ガムもこっちに来なよ!」


「いや、いいよ俺は!」


「えー!ノリがわるいなぁ・・・一緒に楽しもうよ!」




 あいちゃんが手を差し伸べるので俺はしぶしぶあいちゃんの手を取った。


 すると、俺もあいちゃんと一緒にキャラクターに囲まれてしまった。


 そしてあいちゃんが俺の腕に腕を組んでしがみ付いてきた。


「ははっ!あいちゃん!ガム!ばんざーい!」


「「「「あいちゃん!ガム!ばんざいーい!」」」」


 なぜかキャラクター達が俺達の事を祝福し始めた。


 おそらく、恋人たち向けのサービスプログラムだろう。


 まるで、映画のエンディングの大団円の様なシチュエーションになってしまった。


 ・・・んっ、これじゃ、まるで俺がプリンスじゃねえか?




「あはははは!あたし達まるで恋人同士みたいだね!」




 ガラじゃねえが、嬉しそうなあいちゃんを見てると、今日だけは付き合ってやるのも悪くないかと思ってしまった。


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