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14話 少女と展望室

 コンピュータールームから出た俺は、エレベータで最上階の展望室へ向かった。



 コンピュータールームを出た時点で、俺の記憶の中から、さっき調べたあいちゃんに関する情報は消えていた。


 まあ、それはわかっていた事なので問題ない。



 高速エレベーターが上昇を始めた。


 ノンストップの高速エレベーターは、地上1000mを越える最上階まで、1分程度で到達した。



 エレベーターを降りると、そこは360度ガラス張りの展望室だった。


 誰もいない展望室にただ一人だけ立っていたあいちゃんは、俺を見つけると一目散に走って来た。




 ・・・足を思いっきり上げて全力疾走するもんだから、ミニスカートの中にチラッと下着が見えてしまっていた。




「ガム!遅かったじゃない!すごいよここ!きてきて!」


 俺の目の前で急停止したあいちゃんは、息を切らしながら、とびっきりの笑顔で俺を見上げた。


「それほど時間はかかって無いだろう?」


「いいからこっち来て!」

 

 あいちゃんは俺の腕を掴んで引っ張り始めた。


「ああ、いくから慌てるな」


 俺は空いているもう一方の手で自分のシャツの襟首をつまんだ。




 ・・・シャツのボタンは外れていない。




 実は地下のコンピュータールームに入る前に決めていた事があった。



 コンピュータールームから、重要な情報を持ち出す事が出来ない事はわかっていた。

 それは承知の上で、あいちゃんの情報を調べに行ったのだ。


 俺としては、これからしばらくはあいちゃんと行動を共にしてあいちゃんの秘密を調べるつもりではいたのだ。


 だが、その上で何か予想外の問題がないかという事だけは確認しておきたかった。




 そのため俺は、コンピュータールームに入る前にある取り決めをしておいたのだ。



 あいちゃんの素性について、おおよその予想を立てた上で、結果がその予想と大きく外れていなければ、シャツのボタンを外さない。


 予想と大きくかけ離れていた場合は、シャツのボタンを一つ外す。


 そして、あいちゃんと行動を共にする事に、致命的な危険が伴う場合はボタンを二つ外すというものだった。




 ・・・そして、今、俺のシャツのボタンは外れていない。


 おおむね俺の予想通りだったという事だ。




 あいちゃんのボディは、やはり、どこかの研究機関に所属する特殊モデルという事で間違いないだろう。




 ・・・しかし、一つ目のボタンをよく見ると、少しだけ外そうかどうか迷った形跡があったのだ。


 おそらくこれは、多少は予想を超えた事実があったという事なのだろう。


 だがその上で、俺は俺に、あいちゃんと行動を共にさせたかったのという理解で間違いないだろう。


 だから俺は、予定通り今後もあいちゃんと行動を共にする事にする。




 少なくとも、あいちゃんと一緒にいても危険は無いという事だけは確認できたのだ。




「あー!ガムってば、シャツのボタン、上まできっちり閉めてたら暑苦しいよ。こういうのはいくつか外して着るものだよ!」


 そう言って、あいちゃんは、俺のシャツのボタンを二つ外したのだ。




 ・・・これって・・・何かのフラグだろうか?




 若干の不安が頭の中をよぎったが、まあ、考え過ぎだろう。



 そんな事を考えてると、展望室の窓際にたどり着いた。



「すごいよねぇ!ここからの眺め!こんな高い展望台、初めてで興奮しちゃった!」


 あいちゃんは目を輝かせて景色を眺めている。


 今日は空気が澄んでいて、かなり遠くまで地上の様子を見る事が出来たのだ。


「ねえ、あそこに見える、ちょっと周りより高い建物がガムの家だよね?」


 あいちゃんが指さしたのは、富士山が見える方角の、平野が終わり山岳地帯が始まる場所より少し手前に一つだけ、他よりも高く突き出た建物だった。


 だが、それでもこの場所から見たら結構低い。


「正解だ。よくわかったな?」


「えへへ!、さっき通り過ぎた高層ビル群があそこでしょ?その向こうに一直線に伸びてるのが、さっき電車で通った線路だよね?その先にある一番高い建物があれだからね!」


「さすがだな、そのとおりだ」


「でも、昨日はガムの家からこの建物が見えなかったよ?」


「結構距離が離れているからな。よほど空気が澄んでいる時でないとお互いに見えないだろう。今日は特別空気が澄んでいたから、これだけの景色が見えているが、これだけ遠くまで見えるのは珍しいぞ」


「そうなんだ!あたしって運がいい!」



 俺が俺にどうやって伝えようか迷ったのが、このあいちゃんのAEの特異性に関する事だろう。


 やはり他のAEに比べて感情の起伏が激しすぎる。


 良く言えば天真爛漫、悪く言えば情緒不安定。

 いずれにしても、ここまで感情の変化の激しいAEを俺は他に知らない。


 その理由に関してはコンピュータールームでも明確な回答は得られなかった可能性が高い。


 だからこそ、しばらくあいちゃんと行動を共にする事を選択したのだと思う。



「ねえ!あそこに見えるのは、この国で一番高かった電波塔だよね?ここから見るとこんなに下に見えるんだ!」


 あいちゃんは北側に見える白い電波塔を指さした。

 その先端は地上600m以上あるはずだが、今俺達がいる展望室のはるか下に見える。


「あの電波塔が一番高かったのって、ずいぶん昔の話だな。この建物が出来てから、あれはただの観光施設になっているぞ」


「へっ、へえ・・・そうなんだ。この建物って何mあるの?」


『今俺達がいる場所が1200mくらいだったか?先端は1700mくらいあるはずだ」


「そんなにあるんだ!よく倒れないね?」


「地下にもかなりの深さがあるからな。倒れないように計算して作ってあるのだろう」


「ふうん、すごい技術だよね!・・・あっ、あそこに見えるのってテーマパークだよね!」


 あいちゃんは東側の真下に見えるテーマパークを見つけたらしい。


「ああそうだな。昔はこの国で一番賑わっていたテーマパークらしいが・・・」


「行きたい!今から行ってもいい?」


「あ、ああ、別に構わないぞ」


「やったぁ!じゃあ、すぐ行こう!」




 あいちゃんは大喜びでエレベーターの方へ走って行った。

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