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朝、第一拠点でギーセと待ち合わせた。出発の前に注意を受けた。
「聖水を飲んでおこう。魂の迷宮で命を落とした者はアンデッドになる。あらかじめ聖水を飲んでおけば、仲間に襲いかかる前に灰になれる」
砦に売っていたので買って飲み干した。ただの水にしか感じられず、違いが分からない。
「聖者と呼ばれる、特別な魔法を使える人の体の一部が入ってるらしい。たぶん髪の毛か何かじゃないか」
なんだか体に悪そうだ。
砦の門の先、モンスターの領域へ足を踏み入れた。通路の構造から大体の深さは分かる。地上から潜ったときと比べれば、一瞬で楽に辿り着いた。
最初のモンスターが暗闇からランタンの明かりの中に姿を表す。
「ゾンビだ!」
うごめく死体のモンスター、ゾンビの二足型だ。肉がある分スケルトンより重さがあり、生前より力が強く俊敏に襲いかかってくる。
投げつけた石が、ゾンビの額から頭の中にめり込み、埋まった。顔が潰れたゾンビは、そのまま後ろに倒れて灰になった。
「終わり……? ダンジョンの戦いって、こんなものなのか……?」
武器のメイスを握りしめるギーセは、呆然としていた。
その後もモンスターを討伐していくと、ギーセは呆れた。
「話に聞く限り、みんなもっと苦労してる。お前がおかしいんだろうな。武器は使わないのか?」
俺は酷く不器用だ。武器を振るえば自分の体も傷つけるし、弓矢を使えば壊してしまう。何事も女神の恩恵のおかげでマシになっていくが、一々誰かに迷惑をかけるわけにもいかないので、肉体と拾い物を使ってできることをやってきた。今では岩を殴って割れるようになったし、物を投げれば狙いを外さない。
「モンスターに同情する日が来るとは思わなかった」
素手で通路の壁を砕いて投げ物を補充すると、ギーセは笑った。
魔石を拾う役目はギーセが担当した。罠の抑止、識別、解除の魔法を使えるからだ。
「これは、爆発の罠だ。使い道がある。いざというとき、モンスターに投げつけて吹き飛ばす。効果のないモンスターもいるらしいけどな」
前に一つ罠の魔石を拾っていたことを思い出して、ギーセに渡した。
「毒の罠だ。毒はアンデッドに効果が薄い。魂の迷宮ではあまり役に立たないだろうから、万が一を考えれば解除してもいいけど、解毒の魔法を使えるからこのまま持って帰ろう。その方が高く売れる」
当然だが、女神の抱擁ではなかった。
「女神の抱擁の識別は、習得していないからできない。実物がなければ習得できないから、そもそも識別できる人がいない。識別不可の罠なんて危ないものは、捨てた方がいい」
そうはいかない。女神に会えなくなってしまう。
「女神様に。途方もない話だけど、一度会えたのなら、会える運命と共にあるのかもな」
もしくは、どれだけ時間をかけても、もう会えないのかもしれない。けれど、それを目標に生きてきて今日がある。これも女神の恩恵の気がした。