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朝、市場に着くと、すでに準備が始まっていた。現場を仕切っている人の指示に従い、作業に加わった。
倉庫に荷車を運び込み、物資を積み込んでいく。芳醇な香りが漏れ出す大きな酒樽を載せると、声をかけられた。
「酒樽をそんな軽々と。強化の魔法を使えるのか?」
俺と同じ年頃の冒険者だ。
肉体を強化して、筋力を上げたり頑丈にする強化の魔法を、俺は使えない。魔法全般に才能がない。体を鍛えたらこうなった。
「鍛えたところでそうは……いや、そうか、何かの亜人だったか」
見た目では何の亜人か判別できない人もいる。俺は、女神の恩恵のおかげで力持ちになれただけの、ただのサルの亜人だ。
「女神様? 女神様っていえば、まさか、女神の抱擁の? からかってるわけじゃないよな」
確かに信じられない話かもしれないが、嘘ではない。
ギーセという名の冒険者と協力して荷物を積み終えた。ギーセはこの仕事の先輩だった。
荷車を引っ張る動物が見当たらない。すると、ギーセは自ら荷車の引き手を取った。
「動物は賢いから魂の迷宮に入ろうとしない。無理に引かせて暴れられても困るし、おかげで仕事にありつける」
ギーセと二人がかりで荷車を引いていく。
「試しに一人で引いてみてくれ」
ギーセが力を抜いても一人で難なく荷車を引けた。
「女神様の恩恵ってのは、とんでもないな。鍛えたって話、何をやったんだ?」
荷物を持って、担いで、体に縛りつけて、山道を運んだ。故郷の村が山奥にあったからだ。そのうち荷物だけでは物足りなくなり、石を重りにして運んでいた。
「どうかしてるって」
ギーセは笑った。
魂の迷宮の奥へ進んだ。通路の脇道は塞がれている。行き止まりに設置された昇降機に乗って下層へ降りた。
降りた先には、堅牢な砦が建っていた。
「ここが第一拠点だ。魔石漁りの冒険者の出発地点でもあるし、地上から潜ってきた人の帰還地点にもなる。金を払えば設備を利用できるし、俺たちが運んできた物資も買える」
荷車を砦内に運び、物資を倉庫に下ろした。砦内には他に、従業員用の部屋や休憩用の大部屋、食堂、トイレがあった。
輸送を終えると、従業員から賃金を貰えた。一食と安酒一本分くらいの額だった。
「いつもなら、もう一ニ回運ぶのが体力の限界だった。その様子ならまだまだ運べるだろ?」
様子見のつもりだったので、あと一回で止めることにした。明日から魔石漁りに戻るつもりだ。
「魔石漁りをやってるのか。女神様の恩恵があるなら、そりゃそうだよな……」
ギーセは何か思案する様子だった。
次の物資は、第一拠点の更に下層にある第二拠点に運んだ。輸送を終えると、ギーセはおもむろに口を開いた。
「俺もお前のパーティに入れてくれないか?」
探索は通常、冒険者同士でパーティを組む。女神の恩恵があることと、知り合いがいないので、他人とのトラブルを避けるために一人で行動していた。
「一人って、そんな無謀……でもないか。ってことは、パーティは必要ないのか」
ずっと一人でやっていくつもりはない。熟練者のいるパーティもあるだろうに、なぜ俺を選んだのかが気になった。
「俺も余所者だからツテもコネもない。実力も、いくつか魔法を習得した他には、特別なものがない。何より、モンスターにビビってる。だから挑戦できなかった。
だけど、もっと金が必要なんだ、どうしても。女神様に抱きしめられた、なんていう変なやつと出会えて、恐怖より興味が勝った。いい機会だと思ったんだ」
俺は、自分が誰かの助けがなければ生きていけない人間だということを、身にしみて知っている。魔法を使えない身にとって、魔法を使える人と組めるのは心強い。
「これまで魔法なしで探索を? 聞けば聞くほど変わってるよ、本当に」
ギーセとパーティを組むことになった。