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夕暮れが近づくと、勇者は景色のいい丘の上にゴンドラを下ろした。
「ここでお泊り会をしよう」
ここで夜を明かすことになった。俺は、夕食を作るバロートの手伝いをした。
「話がある」
フルルと勇者は、聖女と侍女に聞こえないよう俺たちの近くにきた。
「お前のところに、私たちの討伐を望む依頼が来ていないか聞きたい。迷惑を振りまく姉妹が、お前が倒した妹の他にもいる。たぶん私も一括りにされていると思う。もし来ているなら、私は見逃してほしい」
「どうだったかな。そういう依頼ばっかりで、思い出せない」
勇者は、今日の出来事を楽しそうに語らう聖女と侍女に目を向けた。
「たまに来るこういう依頼が好き。あんな人たちを悲しませたくない。だからそんな依頼が来ていたとしても受けない。あなたの妹はやりすぎていたから、王国に目をつけられた」
「勇者って、もっと献身的かと思っていた」
「そうならなくていいように、冒険者になった。他に依頼があると言い訳できるから。酷いと思う?」
「それを言うなら、妹の仇が二人とも目の前にいて、何とも思わない私の方が酷い」
「そういうものだと思う。他のドーターも、みんなフルルみたいだったらよかったのに」
夕食ができたので、テーブルに運んだ。
食事を終えた頃には、夜になっていた。寝支度を終え、俺とバロートは一階に、他のみんなは吹き抜けの二階に寝床を敷いた。
勇者たちは、膝を突き合わせて話をした。
「聖女様、今日はどうだった?」
「こんなに楽しいのは初めて。本当にありがとう」
「よかった。最初会ったとき、酷い顔をしていたから」
「……そうかな」
「うん。聖女様のことをもっと教えて」
次第に声が遠くなっていき、俺はいつの間にか眠っていた。
翌日、身支度を終えると、勇者はみんなを集めた。
「今日は、ちょっと遠出をする。竜の庭という、うちのクランが管理する絶海の孤島に行く。本物のドラゴンを見にいこう」
聖女も侍女もドラゴンという単語にハラハラドキドキしているが、俺は違う。絶海の孤島、つまり、海を見られる。
勇者は笑った。
「そこに食いつくなんて、変なの」
塩辛い水がどこまでも深く、どこまでも広がっているなんて、俺からすれば嘘くさい話だ。でも、ギーセが言っていたのだから真実なのだろう。確かめなければならない。
「じゃあ、砂浜に寄っていこうか。海水浴もいいかもしれない」
海水浴。川で鍛えた俺の泳ぎが通用するだろうか。楽しみだ。




