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水筒の水を飲んで濡れた口を拭い、食事を終えた。腹休めついでに荷物の点検をして、探索を再開する。
すでにこれまでの探索を超える量の魔石を手に入れたが、体力は有り余っている。ここまでの道順は大まかにしか覚えていないが、上ればそのうち出口が見つかるので、空腹になる前に地上に戻れるよう意識しておく。
道中、モンスターとの戦闘を終え、灰の中の魔石を拾おうとしゃがんだ瞬間、異常を感じた。この感覚は、罠だ。この魔石には罠の魔法が封じられている。
魔石に触れても罠を発動させない抑止の魔法というものがあるが、俺は使えない。罠の種類を特定する識別の魔法も、罠を取り除く解除の魔法も使えない。
ただ、女神の恩恵のおかげか、俺は罠の存在を感知できる。種類までは分からないが、何らかの罠が封じられているのは間違いない。
罠の魔石は、罠を解除せずとも売れる。むしろ、種類よってはただの魔石より高値がつく場合もあるが、その分取り扱いに気をつけなければ危険だ。
俺は、危険だとしても拾うと決めている。女神の抱擁が封じられているかもしれないからだ。
抑止の魔法を使えなくても拾う方法はある。魔法には、金属に効果を阻害される、という性質がある。先が金属製のトングで掴み取り、通常の魔石とは別の袋にしまった。
魂の迷宮は、深くなればなるほど見た目も変化するらしく、年期の入った狭苦しい下水道が、立派な地下通路に変わっていた。
どこまで深く潜るか、モンスターの強さで決めようと思っていた。強いモンスターほど質の良い魔石を持つ傾向がある。実力に合ったモンスターが出てくる深さで魔石を稼ぐつもりだったが、まだまだ戦闘に余裕があった。
より良い魔石を求めて、より深くへ潜るとなれば、行き来にかかる時間が問題になる。行き来にかかる時間を減らして、深い階層に探索時間を費やせば、その分稼ぎを増やせる。そう考えると、魂の迷宮の有名な入り口から探索を始めることに挑戦すべきなのかもしれない。
今の稼ぎでも生活には困らない。それならこのままのやり方を続ける、という選択肢もある。
心は決まっていた。より深い階層の魔石には、より強力な罠の魔法が封じられているらしい。つまりその分、貴重な罠である女神の抱擁に出会える可能性が上がるかもしれない。
そうと決まれば、明日はそのための準備を始めよう。そんなことを考えながら、街に帰還した。
時刻は、綺麗な星空が広がる深夜だった。ひとけのない大きな通りを、魔石の街灯が寂しく照らしている。
思ったより長い時間潜っていた。弁当がなければ食べるはずだった、臭みを塩と香辛料で誤魔化した保存食で腹を満たしながら、宿へと歩いていった。