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朝、扉を開けた門番の挨拶で目が覚めた。床に寝たせいで体に痛みと軋みが残っているが、毎度のことなので慣れた。
そそくさと建物を出ると、教会の広場に物資が搬入されていた。昼に炊き出しがある合図だ。それまでにまた来ようと決めた。
目的地は、最寄りの冒険者ギルドだ。冒険者ギルドは、冒険者と業者を相手に卸売業をおこなっている。
冒険者ギルドの複数ある買い取りの窓口は盛況で、朝と夕に混んでいる。空いたそばから人が割り込んでくるので、俺も強引に割り込んだ。
窓口の担当者に、まずは魔石が詰まった袋を渡した。
担当者は、慣れた手付きで魔石をふるいにかけ、はかりにかけた。そして、引き出しから硬貨を取り出して机に並べた。
次に担当者は、その間俺が出しておいた魔石以外の品物に目を通した。
どれもお金にならないが、それでもいいなら引き取ると言われた。邪魔にしかならないので引き取ってもらったが、今日持ってきたものは次からは拾わず、別の物が出れば拾うようにしよう。
昨日の稼ぎは、次のダンジョン探索費用と今日の生活費。それらに使ってしまえば何も残らない。
冒険者ギルドには酒場もある。酔っ払って笑い声を上げる冒険者がいて羨ましい。手に銭を持つと贅沢したくなるが、我慢だ。
次に、市場の露店で買い物をした。午後から始める探索の準備だ。買い物を終えると、丁度昼前だったので教会へ向かった。
教会では、すでに炊き出しを待ちわびる人々がどこからともなく集まっていた。俺も列に並んで順番を待った。
「はい、どうぞ」
そう微笑んでスープを差し出したのは、俺と同年代くらいの若い修道女だ。感謝を述べて受け取った。笑顔を向けられることがない日常なので癒やされた。
次の修道士からイモを受け取り、広場の空いていたスペースで食事を取る。スープは溶き卵と野菜入りの塩味だ。あたたかさが体に染み渡った。
食事を終えて、魂の迷宮へ出発した。
探索は昨日よりはかどった。二度目の慣れがあることや、かさばる戦利品を減らせたおかげもある。
昨日と同じくらいの魔石を稼いだところで、教会の門限も気にして地上に戻ると、まだ夕暮れ前だった。ギルドで換金を済ませても時間が余ってしまった。
宿に泊まる必要ができたかもしれない。あらかじめ部屋を取っておけば、時間を気にせず潜っていられる。
近場の宿に行って話をしてみると、普通の宿では冒険者は歓迎されないそうだ。冒険者も受け入れている宿の一つを教えてもらって行ってみた。
宿の主人も客も強面の者ばかりの宿だ。泊まるには特別なルールがあった。盗みをすれば指を切り落とす、暴力をふるえば顎を砕く、だそうだ。
部屋が空いていたので料金を支払い、魔石が付いた鍵を受け取った。あらかじめ同じ魔法をかけた鍵と鍵穴同士でなければ扉が開かないようになっている。
二階の自室には、念願の枕と毛布付きのベッドがあった。誰もいない閉じられた空間が心地いい。
荷物を置いてベッドに寝転んでみると、途端に睡魔に襲われた。明日は長くダンジョンに潜ってみよう。だから十分に睡眠をとらないと。そう言い訳をして、寝支度もおろそかに眠りについた。