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自堕落聖女は眠りたい  作者: Kiyou
第一章 はじまりの街ラクセングル
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大陸は高い山々の山脈によって中央で大きく2つに分けられている。人々の住まう国々と、魔国と呼ばれる人の住めない土地だ。魔国と称されてはいるが、国として樹立しているかはよくわかっていないらしい。

というのも、魔国は人が足を踏み入れることさえ難しい瘴気に侵された土地。瘴気は吸えば肺を侵され呼吸もままならなくなり、直接素肌に触れれば腐り落ちるほど凶悪な劇物。それに加えて魔国で生まれ育つ生物は瘴気を振りまき、すべての命を喰らい尽くす魔物だ、と書かれている。唯一瘴気に対抗できるのは神聖なる祈りの力、聖魔法のみ。


ここガイゼンガルグはその魔国と隔てる山脈が低くなった所と接する国。山脈から流れ落ちる澄んだ水脈や温暖な気候から食料が豊富にとれるのが特徴か。歴史は浅く、小さな国なのに豊かだと他国から狙われてそうなものだが、魔国との緩衝地帯となることで生きながらえている。


ラクセングルはガイゼンガルグにおいて2番めに栄えている街。魔国から山脈を越えやってくる魔物を監視、討伐するために作られたベルグ要塞への中継地点として作られた街だ。街の周囲には魔国の影響か瘴気のないこちら側でも魔物が発生するため実力のある冒険者も集まる。人が集まれば物も集まって、また人が集まることで発展していった。

ここらへんの歴史は一旦これぐらいでいいだろう。


魔法についても書かれている本があった。

この本によれば、魔法が全盛期となっていたのははるか昔。今では魔法を使える者はほんの一握りとなり、それらも多くが国に所属するか冒険者などで活躍している。魔法を使えるか否かの要因は分かっておらず、必ずしも血縁によって遺伝するとは限らずこの数十年で数を減らし続けているとか。魔法がすでにロストテクノロジーに片足を突っ込んでいる。

かつての資料も紛失された物が多く、最近では魔法についての研究は停滞。しかもこの本からは魔力という単語が出てこない。魔法は体力を使う、なんて記載もあり私がインストールされた魔法と別物かと思ってしまうほどだ。


そんな中、魔法という強力な手段を手放せないと見出されたのが、魔導具。魔結晶を用いて魔法が使えるようにする道具で、その使用方法は多岐に渡る。それこそ小切手や銀行で受け取った腕輪は魔導具による恩恵で作り出されているとか。

魔導具に魔結晶は欠かせないもので、より強力で複雑な魔導具を作り出すにはそれに応じた魔結晶が必要となる。だからこそ、私が持ち込んだ魔結晶は高く売ることが出来たのだ。より純粋で、より大きい物をと研究者は探し続けている。


魔結晶は元々は鉱山などから手に入る物だった。だが魔国から入り込む魔物が体内に保持していることがわかり、ラクセングルは魔結晶も取り扱うようになった。


この世界の事、魔法のことなど大まかなところを読み終わったところで一旦休憩を挟む。本を読むのは好きだが、どうにもこの研究書とか論文とかになると読みづらいので疲れてしまう。ぼーっとしながら今後のことを考えてみよう。


まずしばらくこの街で情報収集を行う。宿はこのまま青羊亭でいいだろう。

問題は魔法の存在だ。本にあった通り、魔法使いが減っているのは想定外だ。この世界の能力をインストールされているって書いてあったから、一般的なものかと思っていた。そりゃ銀行で目を疑われるわけだ。銀行は国の手足だし、私が魔法を使えることはすぐに伝わるだろうし、大きな魔結晶の売り手と同一人物っていうのもすぐに繋がるだろう。もしかしたら異空間の魔導具持ちって思われるかもしれないけど、それはそれで売ってくれって言われそうだ。

私はどこの国に所属するつもりもないし、魔法を復活させたいとかの使命もないのだ。魔法が遺伝するかはわかっていないものの、魔法が使えると分かれば次代のための母体にされる可能性だってある。絶対に近寄りたくない。


本には詠唱が必要と書いてあったが、私のインストールされた魔法では詠唱は必要ない。魔法を使っていることがわからないようにするにはうってつけだ。


ひとまず休憩を終わらせて、他にも情報を集めていこう。まだまだ知りたいことはたくさんある。

集めていた本を一旦元の場所に返し、次に読む本を探しに行く。時間がたっても図書館を利用する人が増えたりもせず、調べ物をするには最適の場所だ。またいくつかの本を手に取り席に座る。


この本は魔物について書かれている。魔物について詳しい生態はわかっておらず、危険性だけが周知されている。魔物によって滅ぼされた街や国もあるようで、強力な個体が現れると、その時代の精鋭たちが命を捨ててでも倒せないことだってあるようだ。

そんな魔物たちだが、基本的に群れることはない。魔物は共食いをすることが確認されているようで一部以外では集団で襲ってくることはあまりない。だが例外として突発的に大量の魔物が山を越えて魔国から押し寄せるスタンピードが発生する。その予兆を見つけ出すことは至難の技であり、一晩にして街ひとつ食い荒らされると。


スタンピード、か。ここラクセングルで今後懸念しなければならないことが魔物についてだろう。その魔物のスタンピードなんて起これば逃げるなり戦うなりしなければならない。街も対抗できるように策は講じているんだろうが、いつ起こるかわからないものにはどうしようもないことだってある。逃げる方法は考えておいたほうが良さそうだ。


別の本では聖魔法について書かれている。だがこれはどこか聖典のような、聖魔法がどれだけ素晴らしいか事細かに書かれているので半信半疑に思ってしまう。曰く、選ばれた者のみ使えるだとか、神より賜った力だとか。それと聖魔法が使える者はすべてラングリッド教会に所属し、神に祈りを捧げた者こそが真なる聖人となるとか。

聖魔法は瘴気を浄化し、怪我や病気を癒すことができることも、神聖視される要因だろう。


ここでまたひとつ懸念材料が出来た。私は聖魔法が使える。実際に使ったわけではないので絶対とは言えないが、魔法を使えると知っていたのと同じ感じだろう。他の魔法も調べてみたら使えるとわかる物があるかもしれないが、まずは聖魔法についてだ。

もし私が聖魔法が使えると知られれば、ラングリッド教会は黙ってはいないだろう。もともと魔法は秘密にする必要があったが、聖魔法についてはもっと考えておかないと。そもそも魔法を使える人が少なくなっている中で、聖魔法が使える人がどれほどいるんだろうか?


なんだが本を読めば読むほど頭が痛くなりそうだ。今日これくらいにして、宿に戻って色々と検証してみよう。


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