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自堕落聖女は眠りたい  作者: Kiyou
第一章 はじまりの街ラクセングル
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「す、すみません…。何をお探しですか…?」

「暗い色の顔を隠せるローブを探していたんだけど、これが気に入ったの。値段を聞いても?」

「えっ、本当に買ってくださるんですか!?」

「なに?いわくでもついてるの?」


大げさな反応につい後ずさると男は慌てたように話し出す。


「すす、すみません!僕の店は人気がなくて!買ってくれる方はいるんですがほとんど年配の方や男性の方で、まさかこんな綺麗な方に買っていただけるなんて思ってもいなくて、だからその、そのマントも表は地味ですし手に取ってもらえるなんて、」


先程の小さい声が嘘のようにまくし立ててくるのに驚いて固まっていても、こちらの様子に気づかず喋り続ける男。どうやら本当に女性に人気がない店のようで、私がここでマントを選んだことがどれほど嬉しいか話し続けている。

他の店の服の話や流行りなども話してくれているので、聞いていても良いのだがこの後図書館に行かなければならないので切りの良さそうなところで割り込む。


「それで、これはいくらなの?」

「す、すみません、変な話ばっかりして!そちらは3金貨になります!ほ、他のマントに比べたら地味で高いと思われるかもしれませんが、」

「3金貨ね、はい。」

「職人が丹精込め、えっ。」

「3金貨の価値があるってわかってる。丈夫な作りをしているし、大切にする。」


この店の正面にあった人気店でも意匠のこだわったケープが金貨5枚で貴族などお金持ちに売られていた。マントなど貴族でもない限り雨風にさらされて消耗品だろうし、いくら裏は綺麗な刺繍が施されていても表側は無地なので金貨3枚というのは高いと思われるのだろう。だが私はこれがその価値があると思った。

外で使うためどうしても汚れてはしまうが、そこは魔法で布が傷まないようにどうにか出来ないか考えてみよう。それほどまでこのマントが気に入ったのだ。

男に金貨を渡すと、固まったまま動かなくなってしまったので、無視してマントを羽織る。ワンピースとの丈もちょうどいいし、着られている感じもないだろう。


「ありがとう、気に入ったからまたくる。」


そういってランドレーを後にする。後ろから呼び止める声が聞こえるような気もするけど、気の所為ってことにする。今私がもっている服はこのワンピースしかない。着替えを手に入れるためにも、すぐあの店に行くことになりそうだ。


気に入った物を見つけて、こころなしか足が軽くなる。フードをしっかりかぶっているからか、魔法を使わなくても周囲からの視線は飛んでこない。そういえば元の世界ではフードで顔を全部隠すなんて怪しい人に見られそうだったけど、ここでは鎧で顔を全部隠したりフードで顔が見づらかったりというのは珍しくないみたい。

街に入るときは流石にフードで隠すのは怪しまれるだろうけど。


街の中央に向かってそれなりに歩くと、大きな建物がいくつか見えてくる。アンナの話によると、王立の学園の姉妹校のようなものがあるらしい。その直ぐ後ろに図書館があるとか。学園に通うのは貴族が多く、図書館を利用するのも貴族ばかりになったんだとか。


学園は大きな門に門番が控えていて、そこに通う生徒が使っている馬車が多く置かれているためすぐわかるって言っていた。実際に見るとたしかに門番も馬車もあるけれど、それ以上に建物が目立つ。大きな建物に中に噴水まで見えるし、学園の出入り口であろう扉は豪華な飾りが施されている。


成金みたいであそこには通いたくないな、なんて思いながら学園を通り過ぎ、裏にある図書館と辿り着く。図書館の前は落ち着いた雰囲気で、学園の絢爛豪華とは全然違っていた。馬車も人もあまり通らず、人の気配も多くない。


中に入ってもその印象は変わらず、静かな空間が広がっていた。フードを外し、受付へと向かう。利用に関して必要なことがあるかもしれないし、対貴族用の対応になっているならそれこそ注意することがあるかもしれない。

受付では女性が1人事務のような仕事をしていたので話しかける。


「初めて来たのだけど、聞きたいことがあって。ここが窓口であってる?」

「そうです。初めてでしたらまずは注意事項をご説明いたしますが、よろしいですか?」

「お願いします。」


「毎回のご利用には保険として金貨1枚預からせて頂いております。問題なければお帰りの際にお返しいたしますが、ご利用中に本の破損などありましたらお返し出来ません。

本の持ち出しも基本的には禁止しております。もし持ち帰りたくなりましたら、こちらで本を販売、または所持している商会を紹介いたします。

また。くれぐれも、ですがここは本を読むところです。お静かに、節度をもってご利用ください。」

「は、はい…。」


最後のお静かにのところだけ、額に青筋が浮かんでいたが誰か最近ここで騒ぎを起こしたのだろうか。こちらをちらりと見ても説明中は無表情だったのに、背後には炎が揺れていて、すごく怒っているんだけど。金貨を渡して名簿に名前を書いて足早にその場を離れる。

本の場所を聞きたかったんだけど、あの状態の人に聞くのは怒られそうだし、図書館全体を把握するためにも自分の手で探すとしよう。まずはこの国、街のことからだ。


図書館の中を歩き回り、お目当てであろう本を見つけたためいくつか手に取り席を探して読み始める。


歴史書からは今いるこの国、ガイゼンガルグについてと、今いる街ラクセングルについて。詳細な地図は書かれていないものの、他の国についても書かれていた。

この世界はまだ大陸の外に出る技術はないらしく、今いる大陸にも名前はついていない。時折海から流れ着く漂流物から外にも陸地があるのではないかと議論されているとか。だが大陸の外のことは一旦おいておこう。


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