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自堕落聖女は眠りたい  作者: Kiyou
第一章 はじまりの街ラクセングル
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一晩明けて、私は昨日の行いを反省をしていた。いくら魔法が使えるようになったとはいえ、攻撃手段になるほどの練習もしていないのに実践で使えるはずがない。それなのにあんなに強気になっていたのはどう考えてもおかしかった。

それにルイガノから小切手を渡されたときに、何も考えずそうゆうものかなんて思ったけどそれも良くなかった。もしもあれが偽物だったら、もしくは教えられた場所が本当の銀行ではなかったらどうするのか。騒ぎを起こせばこの街にもいられなくなるし外にはどんな危険があるかもわからないのに。


そうだ、まずはこの街のこと、世界のことを知るのが先決だ。常識のない状態じゃ、だれに食い物にされるかもわからない。魔結晶についても今後別の魔結晶を売る必要があるかもしれないし知っておくべきだろう。


バックを持って食堂に降りる。朝は料理が決まっているらしく、アンナが持ってきてくれるのを座って待ちながら昨日の夕食後を振り返る。


あの後メインで検証したのは魔法についてだ。

私はこの世界の能力、つまりは魔法をインストールされている。そのためかどうすれば魔法を使えるか何となく分かるのだが、何をどこまでできるかはわかっていなかった。『影が薄くなる』魔法はイメージが簡単で、何をどうしたいのかはっきりしていた。視線が逸れるようになる、という魔法だ。

だが今後必要になる魔法は攻撃力や汎用性、利便性などどこまでだって求めてしまうだろう。いざとなったときにこれは出来ませんでした、とならないようどこまでできるのか事前に把握しておく必要がある。そのための検証だった。


実際に小さな火を灯したり、氷を作り出してみたりはできた。軽く痣を作り、魔法で回復できるのか試してみたりとやることは多かったが得たものは大きかった。魔力の減り具合も実感できたのも大きかった。


魔法の検証の中で、ひらめきから思いがけない収穫もあった。今後の不安要素であったバックの盗難防止策についてだ。いくら私が警戒を行っていても、囲まれたりそれこそどうやるかは分からないが魔法でバックを奪われることだってあるかもしれない。それを防ぐ方法に魔法が使えないか試してみたのだ。

どうせなら後手に回らないよう、そもそも私と許可した人以外がバックに触れられないようにしてみた。魔法に名前を付けるなら『所有保護』魔法、というところか。といっても実際には他人に触らせていないので、他人が触ったときにどうゆう反応を返すかは確認出来ていない。私のイメージとしては勝手に触れたときは強めの静電気が流れるようなイメージで、バックに何か出し入れするのは完全に不可、というものだ。

実際にこれが発動しないのが何よりだが、この世界は前の世界で住んでいた国ほど治安が良いとはいえない。それこそ今日すぐにでも発動してしまうかもしれないしな。


朝食を持ってきてくれたアンナに話しかける。


「このあたりに図書館か本屋みたいな本を読めるところってある?」

「本だあ?そうだねえ、貴族街の方に行けば本屋があったかね。ああ、あと中央の方に図書館があるんだったかね。私達みたいな平民はどっちも縁がないけどね。」

「入るのに資格がいるの?」

「いや、資格とかはいらなかったかねえ。だけど私達には必要ない知識ってだけさ。商人とかならよく行くのかもしれないがね。」


呆れたように言うアンナ。字が読めない人も多く、高価でもある本と接したいと思う人は少ないらしい。

場所と一緒に行き方も教えてもらえたので、アンナに礼を言って食事を終わらせる。まずはローブかなにか売ってないか探しながら図書館に行ってみよう。


青羊亭から出ると、街は朝早いにも関わらず多くの人が行き交っている。まあ朝早いと言っても時計もないので時間はわからない。どうやって時間の約束などを行うのだろうか?


雑踏に入るとすかさず『影が薄くなる』魔法を発動する。他の人は私のことなど気づかず避けてはくれないので、私は人の間を縫うように歩き進めるしかない。久しぶりの人の波に少しばかり気持ち悪くなりながらも中央に向かって歩いていると、少しずつ人が少なくなってくる。着ている服装も変わり始め、人が少なくなる代わりに豪華な馬車が通り始めた。


人目がつかないことをいいことにキョロキョロと通りを見渡しながら落ち着いた雰囲気の服屋を探す。人が集まる人気店は派手な服装か派手な色合いが多く、私の好みとは合わないのだ。

派手な服屋を見ていると、ちょうどその正面にも服屋があった。そっちはずいぶんと暗く、正面に人気店があるからか閑古鳥が鳴いているようだった。近寄って窓から店内を見てみると、黒やグレー、深い青など落ち着いた雰囲気の服が多い。服飾屋ランドレー、か。


やっとお目当ての店が見つかった、と魔法を解除して店内に入る。中は薄暗く、いろいろな種類の服で溢れかえっていてお世辞にも整理整頓されているとはいえない。

入っては見たものの、店主も出てこないので中に置かれている洋服を見て回る。濃い青のワンピースに黒の刺繍が入った上品なものからただただ真っ黒な丈の長いコートまで色々な商品が置かれている。


中でも気になったのは、黒いフード付きのマントだ。丈は腰辺りまであり、フードの部分も大きくすっぽりと顔を隠せそうだ。表は無地で地味な印象を与えるが、内側の生地に青色のバラの刺繍が一面に施されている。細かいところまできれいに縫われていて、製作者のこだわりが感じられる品だ。


マントをじっと見ていると、ガサガサと背後から音がした。振り返ると大柄な男が服の影に隠れてこちらを伺っているようだ。その姿をこちらから見ることは殆どできないが、ここの店主かもしれない。もごもごと口ごもりながらこちらを見つめてくる。だが声が小さくて聞き取ることが出来ない。


「もう少し大きな声で言ってくれる?」


私が声をかけると一度大きく体を揺らしたかと思うと、おどおどしながら姿を表す。服の影から出るとその大きさがはっきりと分かる。腰を曲げ縮こまる姿でさえ私の身長よりも遥かに高く、顔を見るために近づいたら首が痛くなるかと思うほどだ。

前髪でほとんど隠れてしまっているが、見えている部分だけでも引き締まった顔立ちをしている。だがそれを上回るほどの陰気な雰囲気が彼にはあった。


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