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自堕落聖女は眠りたい  作者: Kiyou
第一章 はじまりの街ラクセングル
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しばらく歩きながら良さそうな宿を探していると、通りから奥まったところに看板を見つけた。青羊亭、とかかれた看板は古さを感じるもののきれいに手入れがされているようだった。店名が気に入ってその宿に近づいていくと、通りから直接見えないからかどこか落ち着いた雰囲気を感じる建物がそこにはあった。


「通りの声もそこまで聞こえないし、ちょうどいいか。」


塵ひとつなく、と言うほどではないが掃除された道を通り直前で魔法を解除して青羊亭の扉を開く。夕方だからか中ではすでにお酒の匂いが漂っているものの、喧騒は落ち着いたものだった。お酒とは別に漂う料理の匂いは食欲をそそる香りがして、空腹を思い出させる。


「いらっしゃい、飯なら空いているところに適当に座ってくれよ。」

「宿に泊まりたいのだけれど、開いてる?」

「宿泊ね。一人部屋で素泊まり一晩2銀貨、朝と夜の食事付きで3銀貨だ。」

「ん、食事付きで10日間、お願い。」


そう言ってバックから金貨を3枚取り出して渡す。女性は金貨を数えるとここで待つように言い、店の裏から鍵をもって出てきた。


「はいよ、これが部屋の鍵だ。階段を登って一番手前の部屋だ。鍵に書かれた模様と同じ模様がドアに書かれているから間違えるんじゃないよ。」

「分かった、ありがとう。あとで降りてきてご飯を頂いてもいい?」

「もちろん、今日からの食事付きだ。あまり遅いと食堂閉めちまうから早めに来るんだよ。」


鍵をもらい、礼を言って階段をのぼる。そういえば店で食事を楽しむ人達は普通の街の人のように見えたけど、やはり視線を感じた。悪意は感じなかったけど、店に入った人に目がいったというより観察するような視線だったのは気になる。こんなところまで話が回っているには早すぎるし、何がそんなに目立ってしまっているんだろうか。


鍵に書かれている模様と同じ部屋のドアを開けると、中は5畳ほどの広さでシングルベッドがおいてある。外観が手入れされていたように部屋の中もきれいに整えられていて少しばかり安心する。


ドアを内側から施錠し、ベッドに腰掛け一息つく。これで今日の安眠は手に入った。このまま眠ってしまいたいが、夕飯を食べに行かないといけないしバックも色々と確認しておきたい。まだまだやることは山積みなのだ。


まずはバックを色々と確認する。まずは入っているものを全部出すことからだ。手を入れて触れた感触のものを一つ一つ出していく。入っていたのは、ルイガノに売った魔結晶と同じようなものがもう2つと、業務連絡の手紙、そして大量の金貨に銀行の腕輪。金貨は入れたときと同じように手をかざした先の空間が歪むようにして箱のままで出すこともできた。

出し入れは出来たが実際の容量がどれほどあるかはわからない。適当に入れまくる、というわけにもいかないし、どうしたものだろうか。


バックについていい考えは浮かばないし、下の食堂に降りて夕食を食べに行くことにしよう。バックを持ち、部屋に鍵をかけて階段を降りるとまだまだ食堂は賑わっていた。

適当な空いている席に座り、周りの食べている物を観察する。肉の塊はソースが照り返しキラキラと輝いている。スープは黄金色に透き通り、野菜がゴロゴロはいって体に良さそうだ。

メニューを探すと、壁にかけられた札がそれらしい。食材の名前と料理名がいろいろと書かれている。


「宿泊客が食べられる料理って決まってる?」

「壁にかかってるやつならどれでもいいさ、量は決まってるけどね!」

「そう、ありがと。じゃあ適当な果物と、野菜のスープをお願いします。」


はいよ、と元気な返事をして他の給仕にもどる女性。そういえば名前を聞いていなかった。今後もこの宿に泊まり続けるだろうし、街のことで聞きたいこともあるから料理が運ばれたときに聞いてみようか。

そんなことを思っていると、料理が運ばれてくる。机に置かれた野菜のスープは近くでみても透き通り、美味しそうな匂いがしてくる。果物も見たことはないが新鮮なのかつやつやとしており食欲をそそる。


「ありがとう、貴女の名前を聞いても良い?私はネオ。」

「ああ、言ってなかったね、私はアンナさ。」


アンナは快活に笑うと他の仕事に戻っていく。時には悩みからか帯びるように飲んだくれている男たちに喝を入れ、料理の受け渡しから会計まで1人でこなすのに忙しなく動いている姿を見て料理を作る様子はないので調理担当は別でいるようだ。


眼の前の料理に目を戻す。スープからは湯気が立ち上りあたたかそうで、スプーンで掬ってゆっくりと味わう。なるほど、時間をかけて煮込んでいるのか野菜の甘味が溶けて優しい味が口に広がる。一緒に運ばれてきたパンはそのまま食べるには硬いので、スープにつけて食べる。


無言で食事をしていると、やはり周りから見られているようで視線を感じる。こちらを見てくる方を確認すると、男たちは慌てて視線をそらす。一体なんなんだろうか。内心で首をかしげながらも視線を戻し食事を進めていると、またチラチラとみられる。ついため息が出る。


「悪いね、アイツら鬱陶しいだろう。」


いつのまにか近くにいたのかアンナが苦笑しながら話しかけてくる。


「アンタみたいな美人がお供も連れずこんな宿に来るなんて奇跡みたいなもんだからね、浮足立ってんのさ。無視してくれていいよ。」

「ああ、そうゆう…」

「どこから来たのかは知らないけど、アンタの見た目じゃあローブでも被って顔を隠さないとあっという間に狙われちまうよ。気をつけな。」


そういってアンナはこっちを見ていた男たちにシッシッと手を振った。そうか、私の見た目で視線を向けられることを忘れていた。元の世界では家から出ない生活をしていたし、その前の学生の時も話はするが仲がいいといえる友達はいなかった。なので自分の見た目に頓着していなかった。

それにこの世界の人たちの顔立ちは西欧風で、彫りが深く金髪や明るい髪色が多い。家から出なかったため比較的白い肌をしているが、黒髪黒目の私は目立つ見た目をしていると言えるだろう。他の場所に行けば同じような見た目の人たちが暮らす場所もあるかもしれないが、他所から来たという証明にもなるしちょうどいい。


アンナに感謝を告げて手早く残りの料理を食べ終わり、部屋に戻る。後ろからずっと視線を感じたまま。


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