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自堕落聖女は眠りたい  作者: Kiyou
第一章 はじまりの街ラクセングル
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それほど時間がかからず戻ってくると、腕輪のようなものと書類を机の上に置く。


「こちらが登録腕輪と登録書類となります。登録書類に内容を記載して腕輪に取り込ませると、記載した内容が腕輪に書き込まれることとなります。基本的に腕輪の書き換えは弊行で責任者と立ち会うことでしか出来ませんのでご安心ください。

また、この腕輪がご利用に関する鍵となりますので、紛失しないよう厳重な管理をお願い致します。もし紛失されましたら早急なお手続きと、再登録に手数料がかかります。」


マリーの説明を聞きながら、受け取ったペンで書類に書き込んでいく。文字を書くことも問題なく出来たのは安心だ。内容に質問があるところは都度マリーに聞き、不備のないようにしておく。だが大した内容もないので数分で書き終わる。


「はい、こちらで大丈夫です。ではこの腕輪に取り込ませますね。」


そうゆうとマリーは腕輪に紙を近づけボソボソとつぶやく。すると腕輪が光り始め、紙が溶けるように同化していく。すぐに一体となったかと思うと光が収まり腕輪が渡される。なるほど異世界式の管理方法だ。

腕輪を観察していると部屋の外から声がかけられる。どうやら小切手の換金が終わったらしい。マリーが一言二言話すと厳重そうな箱をもった人たちが机の上に箱をおいて去っていった。2人だけになると、マリーが箱をこちらに見えるように開けると、中には金貨がきれいに並べられていた。


「こちらが金貨5千枚です。こちらで一度数を数えて確認していただきたいのですが、横一列で百枚の金貨があります。縦は十列、一箱1千枚の金貨が入っているはずです。すべての金貨を一枚一枚確認するのは時間がかかりますので、選んで頂いた一列が100枚あるかだけ見ていただいてもよろしいでしょうか?」

「わかった、他の箱も全部同じように確認すればいいの?」

「はい、全部お願いします。」


思っていたよりも多い金貨の量に引きつりそうな表情を隠しながら箱の中身を数えていく。これ全部バックの中に入るか不安になってきた。というか、この箱に入ったままバックの中に入れて、金貨数枚欲しくなったとき取り出せるのかもわからないのか。落ち着いたらバックを要チェックか…。

マリーと確認していくと、どの箱も数は問題なかったためそのまま受け取ることとなった。


次に預金の金貨5千枚のことを聞くと、登録と同じように書類を腕輪に取り込むやり方だった。腕輪に魔力を通すと預金金額も確認できるようになっているらしい。通帳のようなものか。

預金の税金は5千万なので金貨5枚らしい。その場で近い箱の中から金貨を5枚取り出して渡すと、腕輪にまた情報を取り込む。銀行に関することはなんでもかんでも腕輪で管理してそうだ。


「こちらの金貨はどちらにお運びしますか?お客様お一人のようですので、手数料を頂いてご自宅まで運ぶこともできますが。」

「いや、このままここで受け取らせてもらうわ。」


首をかしげるマリーを横目に、バックを開けてみる。バックの入り口は箱が全然入りそうにない大きさだから、金貨を分けて入れてみるしかないか。そう思って箱に手をのばすと、手に触れた箱が一瞬で空間が歪んだかのように消える。もしかして大きさ関係なくこのバックに入るのかもしれない、とんだ魔法のバックだ。

一度バックに手を入れてみると、中から金貨を取り出すことが出来た。どうやら箱のまま入れても金貨だけで取り出せるようだ。他の箱も同じように触れると消えていく。便利すぎる代物だ。


「お、お客様、今のは一体…。」

「魔法でしまっただけ。ここでは珍しいの?」

「しまった…、異空間魔法ということですか!?何百年も前に廃れたという伝説の…!?」


おっとバックを盗まれないためにも自分の魔法ということにしたが、どうやらそれはそれで目立ってしまうようだ。口をパクパクとして驚いているマリーを正気に戻るようなだめながらも、一般的な知識を識るためにも図書館か本屋を探す必要がありそう、と今後やることを追加する。


いまだ夢を見たかのように目をこすったりしているマリーから、もう手続きはないか確認して帰ることを告げる。動揺しながらも帰りを見送られ、銀行を出るとすでに日が落ちかけているのかオレンジ色に街が染まっていた。


まずは今夜の宿を探すとしよう。布団が柔らかくて、防音がしっかりしている所がいい。今日は色々ありすぎたし、さすがの私も疲れてしまった。

また『影が薄くなる』魔法を発動して、飛んできた視線をそらすと街を歩き始める。他の人達も帰る人が多いのか店じまいをしたり夕食の香りがしてきたりと、人々の喧騒で聞こえなかった生活の音が聞こえ始める。帰りを待つ母親と、その家に飛び込む幼い子ども。ゆっくりだけどしっかりとした足取りで帰路につく老夫婦。


足がつい、立ち止まる。

本当に、__異世界にいるんだ。欠片も父と母のつながりのない場所。

じわりと胸に浮かんだ衝動を噛み殺し、また足を動かす。


父と母のすべてが詰まった家はもう帰れない。でも、私は死ぬわけにはいかない。

死なないように、だけどひとりで眠れる場所を探そう。お金は何とかなった。他にもやらなければいけないことはたくさんあるけれど、私なら大丈夫。だって、私は何でもできる。


叫び出したい何かを抑えながらも、足早にその場を去る。ひとまずは宿だ、今晩、何も考えずに眠れる宿を探す。それだけを考えて。


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