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自堕落聖女は眠りたい  作者: Kiyou
第一章 はじまりの街ラクセングル
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店を出るときから感じていたが、冒険者ギルドの男が言う通りどうやらすでに情報が出回っているようであちこちから視線を感じる。ルイガノの対応もあって売買が成功したこともすぐ知られるだろう。


あの男にはああは言ったが、簡単にお金を取られるのも相手のいいようにされる気もない。元の世界だったらそうも言ってられないが、今の私には少しだけ強気になれる理由がある。それは魔法の存在だ。


業務連絡とやらで書かれていた『転移先の能力』。その中にどうやら魔法があるらしい。らしいというのも、何故かは分からないがなんとなく魔法を使えることを()()()()()からだ。


この世界の言語も、なぜかは分からないが話すこと聞くこと読むことすべてができる。本当にこの体に機能がインストールされているように、意識せずとも呼吸するのと同じようにこの世界の言語を使えるのだ。

魔法は、魔力を対価に発動するため意識しないで、というわけにもいかないが発動するためのやり方がわかるようになっていたのだ。意識さえすれば呼吸と同じように魔法を扱える。このことをルイガノの店に辿り着く前に気づき、魔力を体に巡らせてみたりしてもし魔結晶が奪われそうになっても逃げられるように準備をしていたのだ。

だがこのインストールされた『転移先の能力』は、私の潜在的な能力によって強いか弱いか決まる。この世界の基準もわからないし、慎重に情報を集めるしかないだろう。


私はどこからか感じる視線を無視して人に紛れている間に魔法を発動する。『影が薄くなる』魔法だ。ふわりと髪が揺れたかと思うと、感じていた視線が途端に感じなくなる。どうやらちゃんと発動できたようだ。

これで他の人間に邪魔されることなく銀行に行ける。


歩いていると程なくして十字路にたどり着く。多くの人と馬車が行き交う通りで、門の前の出店などとは違い落ち着いた雰囲気も感じる。

銀行はたしかにすぐに分かった。扉の目の前で大柄な男達が鎧を着て周囲を睨んでいるからだ。普通の店なら一般の客も逃げていきそうで営業妨害となりそうだが、銀行ともなればここまでの警戒が必要なのかもしれない。これがいつもどおりの風景なのか商人風の人間や小綺麗な格好をした人たちがひっきりなしに出たり入ったりと忙しそうだ。


銀行の扉の周りはそこだけ人が避けているので、怪しまれないよう近づく前に『影が薄くなる』魔法を解除する。こちらをじろじろと見てくるのを無視して銀行の中に入ると、そこは広い空間で多くの人が椅子に座って待っていた。元の世界の銀行でも見たことあるような、待合室のような場所らしい。

私より前に入った人が受付らしき人に話しかけてから椅子に座ったので、同じように受付に近づいてみる。受付の男はすぐにこちらに気づいたのかニコリとも笑わずに話しかけてくる。


「本日のご要件は何でしょうか。」

「小切手をお金に変えたい。どれくらい待ちそう?」

「それならすぐご案内できます。少々お待ち下さい。」


男はそう言うと、別の人間に話しかけて他の人間の受付対応に戻る。どうやらすぐ対応できるそうだし、立ったまま他の人達を観察したり隅にはられている融資の紙などを眺める。


どうやら殆ど待っている人たちは、お金の貸し借りで待っているらしい。この銀行は融資や貸し借りなどの仲介も行っているようだ。個人間でもそういったことは行えるが、詐欺行為をされることも多々あるらしい。なので少なくとも相手の素性を確認するために銀行を間に入れて互いに身元確認とするのが一般的というわけだ。


ちなみに銀行は国営で、土地の売買や税金の窓口もある。銀行と言ってもやっていることは幅広く、役所も兼ねているような場所だ。なので表に兵士が立っている、と。


色々と確認していると女性が近づいてくる。私の案内役らしく、後をついていくと部屋に通される。ルイガノの店でも同じようなことをしたな、と思いながら大人しく待っているとすぐに先程案内してくれた女性が書類をもって入ってきて、椅子に座る。


「おまたせしました、本日対応させていただきますマリーです。小切手の換金とのことですが、確認させていただいてもよろしいですか?」


私は頷くと、バックから小切手を取り出す。そのままマリーに渡すと彼女は内容をじっと見つめる。


「…紛れもなく本物ですね、ありがとうございます。こちらは一括での換金のみとなります。お預かりなどもできますがいかがいたしますか?」

「預金ってことであってる?」


私がそう言うと、きょとんとした表情でこちらを見てくる。どうやら的はずれな発言だったらしい。

マリーは一度小切手と持っていた書類を確認して首をかしげる。


「はい。あ、初めてのご利用でしょうか?」

「うん、初めて来た。」

「そうでしたか、それではご説明いたしますね。当銀行はガイゼンガルグ国直営となっており、様々な役割をこなしております。その中に預金もございますが、他にも投資や融資、ご寄付などもございます。

こういった手続きをされる場合は、ご利用者様の情報を登録して頂く必要がございますが小切手を換金するだけでしたら登録はいりません。」

「登録するのに条件とかあるの?」

「犯罪者登録されているお客様や、一部のお客様はご利用頂けません。また、ご利用によって税金が掛かるものもございます。基本的にはそのくらいですね、細かなルールはございますが、預金にご利用されるだけでしたら関わることもほとんどありません。」

「預金にも税金がかかるの?」

「はい、一定の金額が預金されますと税金がかかるようになりますし、預けられた金額が上がるごとに税金も上がっていきます。お客様の例ですともし金貨1億すべて預金されたら年に金貨10枚を税金としていただくことになります。初めてのご利用とのことですので、念のためお伝えしますがこの国の通貨は銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚という形です。他国の通貨をご利用になりたい場合は換金商などご利用ください。」


1年で金貨10枚が多いのか少ないのかよくわからないが、元の世界の銀行とは違って預金することでお金が取られるシステムらしい。銀行に預けなければいいと思うかもしれないが、もしも本当に小切手が主流だったら生身の大金を使ったやり取りは危険なのかもしれない。クレジットカードなんて技術は無いだろうしな。

しかし通貨の計算方法はありがたい。これからの生活に1番関わってくるところだ。


この魔法のバックがどれだけ容量があるのかわからないし、バックが盗まれるなんてこともあるかもしれない。念のため保険として登録しておくのがいいのだろう。登録と同時にこちらの情報が国に管理されることになるが、あの魔結晶を売った時点で探られるのはわかりきっていたことだ。


「登録をお願いします。預金は、金貨5千万で。」

「かしこまりました。それでは小切手の換金手続きをしている間に登録を行いますね。少々お待ち下さい。」


そう言ってマリーが小切手を持って部屋から出ていく。


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