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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
最終章
67/79

66.芽吹き

 ローデリアは立ったまま目を覚ました。

「私は、何を? ここはどこなの……?」

 周囲を見回してみると、光の走る壁、艶々とした石の床、無機質な空間が広がっている。どうやら、どこかのアクアリウムの中央塔らしい。


ーーでも、一体どこの?


 ここに至るまでの記憶がない。


「目を覚まされましたか?」

 カークス司祭が、視界の外から現れた。

 どこに居たのか、彼の存在にも気が付かなかった。


「こ、ここは、どこ?」

 ローデリアは激しい頭痛に顔を歪め、頭を片手で押さえながら言う。

 今にも意識が途絶えそうなほど頭に強烈な痛みを感じる。


 カークスはその疑問には答えることなく、ただ

「あなたにはここに居てもらわなければならない」

 と微笑まじりに言った。


「あの忌々しい水神から守るためにな」

 ローデリアは理解が追いつかない。痛みで頭を働かせる余裕を失っている。

「水神……様……が、この都市に?」

 途切れ途切れに言葉を吐き出す。


 カークスは、嘲笑を浮かべた。

「愚かだな。お前が自ら拒んだ者が、教団の信仰する水神そのものだ」

「いったい……誰の……」


 頭の中で刹那に回顧する。

 一人の少女の姿が浮かんできた。

ーーお願い、信じて……。

 少女が泣きそうな顔で言って窓の外へと消える。


「……まさか、彼女の言っていたことが……」

 ローデリアは必死に遠のきかけた意識を引き戻す。

「その通り、事実だ」

 と目の前の男が言ったのが聞こえた。視界は白んだ光に滲んでほとんど見えない。


「あの肥え太った老いぼれどもに使い走りさせられたお陰で、危うくお前を失うところだった」

 男の声だけが、反響するように聞こえてくる。


「だが、俺は運が良かった。あなたの愚かさこそが、俺を救ったのだ」

 ぼやけた視界の中で、彼の口元が歪んだのが見えた。

「……良いことを教えよう。都市で起きた死霊術の件、あれは全て俺の仕業だ」

「なんですって……!?」

 自ら放った言葉でさえ、少し遠くに聞こえ、誰か別の人間が話しているように感じられる。


「なら、ポリテイアは……?」

 教団が協議して決めた通り、治安軍はポリテイアの人間を根こそぎ排除した。

「奴らに罪を着せただけのことだ。そして、お前たちも奴らが目障りだった」

「クク……」と不気味な笑い声が聞こえる。


「実にやり易かったよ。大した証拠すらなく、お前たちは動いてくれた」

「どうして……そんなことを……」

「試す必要があったのだ。あの、ラピスラズリとか言うもので死霊術を拡散できるかどうかをな」

「あなた、一体何を……」

 しかし、そこで頭の割れるような衝撃が来て、耐えることすらできずに意識を失った。



 カークスは目の前の女を見て、既にそれがローデリアとは別のものであることを察した。さっきまで頭痛に頭を抑えていたローデリアは、目を開いたまま直立している。

 その瞳の中には四色の光が怪しく蠢いている。そして、女の金色の毛髪までが光を帯び始める。


 カークスはその女の頬を愛おしそうに撫でた。

「これで、全ての苦しみが終わる」

 

 カークスは背を向けて歩き始める。

(時は満ちた。あと少し、念には念を押さねばな)

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