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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
最終章
66/79

65.接触

 治安軍支部。

 ゼノンは釈然としない顔でオフィス内のデスクに座っていた。

「最近、幽霊みたいな顔してますよ」

 と隊員たちから、からかわれる。


「ゼノン隊長。あなたがデスクで仕事とは珍しいですね」

 誰かの声がしてゼノンは不機嫌そうな顔を声の主へと向ける。

 そこには副官のマルティンの顔があった。


「悪いか?」

 ゼノンはため息まじりに言う。

「いいえ、むしろ私の事務仕事が減ってありがたいです」

 マルティンは敬礼しながらおどける。


 ゼノンは席を立つ。

「どちらへ?」

 マルティンは通り過ぎたゼノンの背中に向かって聞く。

「巡回へ行って来る」

 声だけが返って来た。


 ローリスと居候の少女に最後に会った日から既に一週間以上が経過した。

 二人の所在も、そして、何故追われる身になったのかも真実は分からない。

 その後、治安軍は総力を上げて二人を見つけ出すように通達を受けた。恐らく教団の指示と思われる。


 さらに、ここのところ街でも教団兵を見かけるようになった。基本的に教団を守ることが名目の彼らまでが、街に出て巡回している。建前上は治安の悪化による各地の教会の警護だが、街をよく巡回しているところを見るに、目的は別にあるように思われる。


 兵装、白銀の鎧に身を包み、支部を出たゼノンはまた一人、教団兵とすれ違った。

 全身を丈の長いローブと変わった形状のマスクで覆い隠している彼らは、街の中に異様な風景として映った。


 ゼノンとすれ違った教団兵はこのアクアリウムの中央塔へと向かっていく。

 遠くに中央塔のふもとが見える。そこに教団兵が何人か見えた。

(一体、奴らは何をしてるんだ?)

 ゼノンは腕を組んでそちらを見つめていた。


 カン!

 ゼノンの身に纏った鎧に何か軽いものが当たる音がした。

 驚いて音の鳴った方を見るが、そこには暗がりの細い路地があるだけだった。

 足元に鎧に当たったらしい鉄屑が落ちている。


 ゼノンは賑わう大通りから細い路地へと入って行く。

 腰にした長尺の剣の柄に手をかけたまま進んでいく。

 この路地は普段人の通行がない、行き止まりの路地だ。狭いために光もほとんど入らず、薄暗い。路地と言うよりは建物の間の隙間と表現する方が正しいのかもしれない。

 

「ゼノン隊長」

 前方の暗がりから声がして、腰を落としてその場に止まる。

 薄闇のせいではっきりと見えないが、聞き覚えのある声だった。


「ローリス、お前……なのか?」

「はい、そうです」

 短い答えが返って来る。


 話したいことは山ほどあった。

 話さなければならないこともある。


「お前、よく無事で……」

「おい、そこの者、何をしている」


 ゼノンの背後から声が掛かった。驚いて振り返る。

 大通りから教団兵の仮面がこちらを見ていた。

 幸い、ゼノンの身体に遮られて背後のローリスは見えていないらしい。 


「……教団兵の者か? 俺は不審な影が見えたと思いこの路地に入った。だが、見間違いのようだ」

 ゼノンは剣の柄に置いたままの手を離し、姿勢を元に戻した。

「ほう、確かめても構わないか?」

 教団兵の仮面に開いた穴から見える瞳が光っている。


 ゼノンはちらりと背後を確認した。

 どうやったのか分からないが、幸いローリスは姿を消していた。

 路地が細いのでゼノンは一度大通りまで出て道を譲った。


「もちろん、構わないさ」

 路地から出て来たゼノンは笑った。

 教団兵はゼノンの顔を凝視していたが、視線を細い路地へと戻すと、奥まで進んだ。


 やがて、引き返して来た。

「確かに、誰も居ないようだ」

「ああ、だから言っただろう? 見間違いだ」

 ゼノンは肩をすくめる。


 教団兵は訝しげに仮面の下からゼノンを睨んでいたが、結局、体の向きを変えると行ってしまった。

 完全に教団兵の姿が見えなくなると、ゼノンはもう一度、暗い路地の方を見た。


 もう誰も居ない。ただ、薄暗い闇だけが、通りの中を埋めている。

 視界に何か白い小さなものが、上から下へと走った。何かが屋根の上から落ちて来たようだ。

 ゼノンは上を見上げるが、何も見えなかった。そして、屋上を全て確認する術はない。


 通りの中に入り、落ちて来たものを拾い上げる。

(丸められた紙屑……?)

 ゼノンは大通りの明るい場所に戻り、それを開いた。


 そこには別の地区の広場の名前と時間が書かれていた。

(別の場所で会おうということか……)

 ゼノンは気が付かない。


 行ったはずの教団兵が得意とする隠遁の魔術で姿を隠し、近くからその様子を伺っていた。

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