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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第3章
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53.ニコラの夢(3)

 工業区、「コニー&エセル」の店の隣に小さな空き地がある。元々は別の小さな工房があったのだが、かなり前に取り壊され、現在はこの店で働く姉妹の庭のようになっている。


 そこに一台の箱型潜水艇、プランクトスが置かれていた。


「完成したよ!」

 コニーはプランクトスの傍らに立つと手を広げて言った。

「じゃーん!」

 とエセルもその反対側で同じように手を広げている。


 兵員輸送や公共交通機関のプランクトスに比べてやや小型である。

 ニコラは目を輝かせながらそれを見ていた。コニーとエセルに制作を依頼してから、一年以上この時を待っていた。


 ニコラは早速、後部へ回ると開いたハッチから中に入って内装を確認する。

 中にはベッドやテーブル、小さなバスルーム、シンクなど生活に必要なものがコンパクトな中にあらかた収まっている。


「予算の都合で備え付けの家具は全部金属で作ったよ!」

 とコニー。

「毛布とか布団はちゃんと布だよ!」

 エセルは冗談を言う。

「すごいすごい!」

 ニコラは備え付けの設備を見るたびに感激していた。


「ほんとにありがとう! 完璧だよ!」

 内装を確認し終わるとニコラは感動して姉、コニーの手を握って涙ながらに言った。

「うぅ……喜んでるところ言いにくいんだけど、原価分はお金を払って欲しいの〜……」

 コニーは別の意味で涙を流しながら言う。


「と、当然だよ! 普通じゃこんなの手に入らないもん」

 ニコラはこれの支払いのためにこの一年間と少しの間、家計を切り詰めてなんとか費用を捻出した。

「よ、良かったぁ〜」

 エセルが隣でほっと胸を撫で下ろした。


 寝ても覚めても仕事をしているほど機械細工が好きなこの姉妹は、構想を聞いた段階で快諾してしまい、諸費用の請求などの相談をするのを忘れていた。おかげで店の運営資金が自転車操業のようになっている。


「それじゃ、完成の儀を執り行うよ〜! ニコラちゃんあれは持って来た?」

 気を取り直してコニーが言った。

「うん!」

 ニコラは返事をすると近くに置いてあった箱を開け、そっと両手を入れた。


 そして、両手でラピスラズリを箱から慎重に取り出した。作業の合間に、自分自身で設定したプランクトス用のラピスラズリだ。

 外殻フレームが出来上がった段階で何度も調整を加え、さらにその後も改良を加え続けていた。


 ニコラはプランクトスの中へと歩いていく。

 機体の先頭あたりにラピスラズリを据え付ける台座がある。

 ニコラはそこにラピスラズリを置いた。

 一瞬の間をおいてラピスラズリは薄く光り始め、表面のまだらの模様が目覚めたように動き始めた。


 やがて、ラピスラズリが脈動するように魔力の光を発し始め、台座を伝って機体の全体へと魔力が供給されていく。

 作動音がして、プランクトスが始動した。


「やった……動いた……」

 ニコラは呟いた。

 頬をとめどなく涙が流れていく。

 この時のために一年以上準備をしてきた。構想を始めたのはそれよりもさらに前だ。小さい頃に夢見たものがついに完成した。


 外に出ると狂喜乱舞していたコニーとエセルがニコラに飛びつく。

「やった!」

「やった!」

 コニーとエセルは交互にニコラの体に頬擦りしながら言った。

 ニコラの夢は同時に彼女たちの夢にもなっていたようだ。


「フレームができた時に動作テストは色々としたけど、あとは沈まないかどうかだね〜」

 騒ぎ倒してようやく冷静になると、コニーは言った。

「沈まないよ! 縁起でもないこと言わないの!」

 エセルは目を尖らせる。


 ニコラは二人のやり取りに笑っていたが、

「あ、そうだ。もう一つやっておかなきゃ」

 と最後に一つやるべきことを思い出してプランクトスの船内へと戻った。




 夜、ローリスが家に帰ると、ニコラがいつも通り食事を用意して待っていた。

「お、おい……」

 料理を見たローリスは目を疑った。

「肉じゃねぇか! どうしたんだよこれ!」


 ちょうど焼き上がったステーキが湯気を立てていた。

「……今月はちょっと余裕あるから……奮発、しちゃった」

 ニコラが俯きがちに言った。


「いいのか!? 食っていいのか!? ニコラ、ありがとなニコラ!」

 ローリスはがっしりと妹を抱きしめると言った。

 何年か前に誕生日で肉を口にして以来ということもあってローリスの喜び方は凄まじかった。

「う、うん……パンもたくさん用意したから食べてね」

 ニコラは浮かない顔をしていたが、そんなことは気にならないほど喜んでいたローリスはすぐに食卓についた。


 ローリスはすごい勢いで平らげ始める。

「あ〜、お兄ちゃん! 味わって食べないと勿体ないよ」

 ニコラはテーブルに両肘を置いて頬杖をしながらそれを嬉しそうに見ている。こんなに無邪気に喜ばれるとこちらまで嬉しくなってくる。


「あれ? お前のぶんは?」

 食べ終えてからローリスは、ニコラの食事のメニューが自分と違うことにようやく気がついた。


「私のぶんはいいの。お肉はお兄ちゃん用」

「は!? 食う前に言えよお前! そしたら分けたのに!」

「あ〜、それは大丈夫だから……」

 ニコラは視線を逸らして気まずそうに言った。本当は勝手に家計を削って自分のプランクトスを制作していたことに対するお詫びのつもりなのだが、それを知らないローリスは妹がただ自分のことを想ってやってくれたと手放しに喜んでいる。




「そういえば、アマルティアお姉ちゃん、遅いね」

 食事を終えて時計を見るとニコラが言った。

 ローリスは思い出したように「あ」と声を上げた。


「言い忘れてた。アマルティアは今日、大事な用事があって遅くなるんだよ」

「大事な……用事?」


 ニコラは不思議そうに目を丸くして兄を見つめた。


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