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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第2章
49/79

48.包囲戦(3)

間があいてしまい申し訳ありませんでした。


ほとんど更新していないのですが、なろうの外でやっている。

R -18の二次創作小説の方がわりかし人気で複雑な心境の小生です。


ただ、見てもらえるのは素直にうれしい。

こちらも頑張って更新していきます。


ちなみに本話をもって2章が完結となります。

 ローデリアが展開した広場全体を覆う強大な魔力障壁のおかげで、治安軍による負傷者の退避は完了した。

 とはいえ、治安軍の兵士は負傷者の介抱や通りの入り口の封鎖で人が取られてしまっている。戦闘員として戻ってこられた数は少ない。

 ローリスは一人、建物の陰から教会の様子を伺っていた。


「ど、どうなってるんだ?」


 ローリスは教会の二階を見上げて愕然としていた。天を焼くかのように炎が窓から轟々と噴き出ている。


「ローリス!」


 不意に声がかかる。

 兵士の声ではない。聞き覚えがある。

 アマルティアが緊迫した戦場に似つかわしくない笑顔で居た。


「アマルティア!? どうやって来た?」

 通りの入り口は全て治安軍が通行止めにしているはずである。

「屋根の上から」

 アマルティアは人差し指を上に向かって突き立てて言ったが、簡単によじ登れるような建物はない。しかし、普通の人間とは違う彼女のことだから、何か方法があるのかもしれない。

 もっとも今、それについて話をしている場合ではない。


 

 教会内部一階。

 礼拝堂の祭壇の前に人質が後ろ手を縛られて二十人近く地べたに座らされている。近くに張り付いているのは四人しかいない。本来はもっと人数が居る予定だったのだが、大多数が二階への応援に行ってしまった。


 見張りの四人の顔は強張っている。

 一階と二階は吹き抜けとなっている教会もあるが、ここは違う。上の様子は分からないが、先ほど大きな爆発のような音と、大勢の仲間の悲鳴が階段の上から聞こえて来た。


「お、おい」


 一人の見張りの男が仲間に言った。


「もしかして、治安軍が突入して来たんじゃないのか?」

「二階から? そんな筈が……」

「だが、さっきの音と悲鳴を聞いただろう? 何か、ただならぬことが起きているに違いない」


 見張りの男たちの間で会話が交わされる。男たちは沈黙の後、何かを思い合わせたように頷いた。切り札の人質を使うことに決めたようだ。


「……よし、仕方がない。一人立たせろ」


 見張りの一人が言う。人質たちは悲鳴を上げた。

 男たちは手にしていた魔導式ライフルを人質に向けて構えた。


「大人しくしろ! さもないとこの場で一人殺……」


 と言いかけた男の首がぐきりと鈍い音を立てて、不自然な方向に曲がる。


「なっ……!」


 声を上げようとした周囲の男たちも次々と同じように首を捻られる。

 人質たちは、その異様な光景にまた悲鳴を上げる。

 倒れた男たちの傍の光が揺らぎ、透明の何かが動いているのが見えた。やがて、くちばしの長い面を着けたローブの兵士が現れた。


「おお、教団兵か……!」

 人質になっていた教会関係者の一人が感嘆の声を上げた。

「皆様を避難誘導するように承っております。どうぞこちらへ」

 教団兵たちは人質の縄を手早く解いて立たせると誘導し、正面から出た。


「人質が出て来たぞ!」


 様子を伺っていたゼノンが周囲の治安軍兵に向かって叫ぶ。

 自分も建物の陰を飛び出して、広場を駆ける。


「人質の保護は任せる」


 人質の周りを固めていた教団兵がゼノンに告げた。

「ああ……。中は、どうなっている?」

 人質を引き継ぐとゼノンは聞いた。

「問題ない」

 教団兵は短く答えると背を向けた。



 一方、教会二階。

 廊下の端、一階へ繋がる階段近くに居て、奇跡的に生き残った組織員の男たち数人は目の前を見渡した。一面、真っ黒な焼死体が転がっている。コの字型になった廊下を突如、業火が吹き抜け、味方を全員消し炭にしてしまった。


 それが窓から吹き出てくれて居なかったら、今ごろ彼らも消し炭になっていたに違いない。

 廊下の向こうの角からゆっくりと歩く音が響いて来る。

「い、一階だ! 一階へ逃げろ!」

 一人の男が叫び、全員階段を駆け降りた。


「人質が……」


 階下へと降りると、男たちは人質がいた筈の場所で呆然と立ち尽くしていた。盾とするはずだった人質は仲間の亡骸だけを残して忽然と消えている。

 階段の上から足音の追ってくる音が聞こえる。


「もう、終わりだ……」


 一人の男が諦めたように武器を地面に落とした。

 続いて周りにいた男たちも同じように全員武装を解除した。

 カークスが剣を手に、静かに階上から姿を現すと男たちは両手を挙げて降参を示していた。


「投降する! 命だけは……っ!?」


 男が言いかけた瞬間には、カークスは身を沈めて剣を振りかぶっていた。

 猛烈な火炎が飛んで来て、わずかに生き残った男たちの身を一瞬にして焦がした。


「ひぃっ!」


 腰を抜かしていた一人の男は火炎が襲う寸前で教会の長椅子の下に転がり込み、たまたま逃れていた。

 椅子の下からさっきまでいた場所を顧みると、床に転がった仲間が真っ黒に焦げて燻っているのが見えた。男は口から漏れそうになる悲鳴を抑えて、連なる長椅子の下を必死に這いつくばって教会の正面入り口へと向かった。

 最後の生き残りだった組織員を傍で見下ろしていたカークス司祭は扉の開く音で、入り口に目を向けた。


「ちっ、一人取りこぼしたか」




「そこを動くな!」


 外に出た男に向かって、偶然入り口近くに居たローリスが叫んだ。

 男は制止を無視して、両手を上げたまま駆け寄る。足がもつれてローリスの足元に転がった。武器も持っていないので、ローリスは槍の構えを解いた。

 男はなんの抵抗もなくローリスの腕に捕まった。ローリスは困惑する。


「え? お、おい……」

「た、助けてくれぇ!」

 腰に縋り付くようにしている男に、ローリスが困惑した表情を浮かべる。

 男の顔はひどく怯えていた。


「良くやった、治安軍の兵士よ」

 教会の入り口の方から声が聞こえた。

「その男の身柄はこちらで預かろう」

 黒い祭服の長身の男が教会の正面扉の前に立って、こちらに手を差し出している。


 ローリスは腰に縋り付く男を見る。

「やめてくれ、頼む! 治安軍で取り調べをしてくれ!」

 男は必死にローリスの目を見て訴えかける。

 男の異様な怯え方に、ローリスは思わずそのまま考え込んでしまった。

「……聞こえなかったか? 治安軍の兵士よ。その男はこちらで預かると言っている」

 顔を上げると男の目元に落ちた影から、赤い眼光がまるで警告をするように睨んでいた。


「ローリス、言う通りにするんだ」


 まるで諭すかのような声がして振り返ると、遠巻きにゼノンがこちらを見ていた。緊迫した表情をしている。


 ゼノンの目が一瞬ローリスの周囲へ動いた。

 気がつくと、周囲に面を被った男たちが四人でローリスを取り囲んでいた。


(なんだ、この状況は……? この男がそんなに重要なのか?)


 ローリスは驚いて周囲を見ていたが、抵抗する必要はなかったので、腰に縋り付く男の腕を取り、引き渡そうとした。


「ひぃぃ! い、いやだぁぁぁ!」


 ポリテイアの男は狂乱したように叫び、ローリスの腕を振り解いて逃げようとしたが、周囲に居た教団兵の一人が地面に引き倒して難なく取り押さえた。


 教団兵は男を絞め落とすと肩に抱えてどこかへ連行して行った。

 ローリスの正面に居た、黒の祭服の男はそれを見届けると、広場の南側へと足を向けた。その後ろ姿をローリスは呆然と見送った。

 突然、その視線がアマルティアの顔で遮られる。


「うわっ!?」

 ローリスは思わず声を上げた。

「驚かすなよ」

「ずっと近くに居たよ?」

 アマルティアは相変わらずの調子で、呑気に首を傾げる。先ほどの出来事ですっかりアマルティアのことを忘れてしまっていた。


「居候の少女……!? どこから入った?」

 ゼノンは近付きながら言った。

「屋根の上から」

「屋根の上……?」


 ゼノンは訝しげに周囲の建物の屋根を見上げる。

 しかし、首を小さく横に振ってため息を吐いた。


「……いや、とにかく怪我がないようなら良いが、すぐにここから離れろ」


 ゼノンはローリスとアマルティア、隊の生き残りを連れて教会の広場を離れた。

 負傷した兵士は治療センターに搬送されるらしく、既に通りのあちこちに人が行き来して搬送を開始していた。


 やがて、一般人が往来する場所まで戻って来た。野次馬たちが群がっているが、中央から来たであろう治安軍たちが厳重に封鎖していた。


「悪いが、治安軍のビークルは一般人を乗せられない」

 人ごみを抜けたところで、ゼノンはアマルティアに言った。

「大丈夫、自分で帰れる」

 アマルティアはローリスの方を向く。


「また後でね」

 彼女は街の中へと消えて行った。

「不思議な少女だな」

 ゼノンはローリスの隣で腕を組んで一緒に見送った。


「さて、俺たちは撤収するぞ」

「え、でも、後処理が……?」

「それは中央本部の連中に任せろ。俺たちは撤収だ」


 気がつくと、最初に現場に居た兵士たちは殆どが中央本部から派遣されてきた兵士に入れ替わっていた。

 その後、ゼノンに言われた通りに負傷していない兵士たちは撤収した。



 家に帰るとニコラが胸に飛びついて来た。涙で顔がぐずぐずになっている。


「心配したんだからぁ……!」

「ね、ちゃんと帰って来るって言ったでしょ?」


 その後ろで、エリアが笑っていた。


 やがて、アマルティアもその後すぐに帰って来て全員で食事にした。

 色々とあって長い一日だったが、ここ数日はずっと戦場のような現場が続いていたので、ローリスは一度仕事のことを忘れてゆっくりと休むことにした。

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