表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第2章
48/79

47.包囲戦(2)

 教会二階はコの時型になっており、外側にある数多くの大窓から、ライフルで広場を見下ろすような形で、テロ組織「ポリテイア」の魔導式ライフルで武装した組織員百名弱が配置されている。


「馬鹿な! なぜ撃った!?」

 その場を指揮する男が駆け寄って来て言った。


「し、しかし……、共鳴障壁を張られたら一貫の終わりだ」

 窓際のライフルを持った組織員が両手を広げて言う。


 指揮をしている男は窓の外を見た。

 百メートル弱の遠くに兵士と往来の住民が倒れ、騒ぎになっているのが見て取れる。


「もはや、交渉も絶たれたか……」

 男は奥歯を噛み締める。

「やむ負えん、各員戦闘体制を取れ! 治安軍が攻撃を仕掛けて来るぞ!」 

 この合図を機に、一斉に組織員たちが周囲に向かって攻撃を始めた。


⚪︎

 

「早く住民を遠ざけろ! 少々手荒でもかまわん!」


 盾を構えたゼノンの背後で、指揮官の男が兵士たちに檄を飛ばしている。

 ゼノンの手にしている盾は、周囲を取り囲むようにオーラーを放っている。これは、ゼノンの盾に施された加工で、魔導式ライフル、ボウガン、魔術などの攻撃を防ぐことができる。魔力消費が激しいので、魔術を訓練していないゼノンが使えば、短い時間で体力を消耗してしまう。


 が、そうも言っていられない。

 



 兵士が手荒な手段に訴えるまでもなく、住民たちは一斉に広場から遠ざかった。ごく一部の人質の関係者たちには逃げようとしない者も居たが、それも兵士たちによって強制退去させられた。



「障壁は、もう難しいようだな」


 建物の影に入るとゼノンは言った。指揮官の男はその隣で「ぐぬう」と声を漏らす。



「誰か! 手当をしてくれ!」


 ローリスが建物の影にまた一人、兵士を運んできた。

 東西南北の通りでは、最初の奇襲によって負傷した兵士、市民が数多く地面に転がっていた。さらに治癒士が攻撃されて大きな被害が出てしまったため、治療する手も足りない。


「待って! 手が足りないのよ!」


 治癒士隊で奇跡的に無傷だった唯一の生き残りが、必死に狭い路地で負傷者に治癒術を施しているが、その数は増えるばかりであった。


⚪︎


 広場から離れた南側通りの入り口。

 通りを封鎖している兵士の目の前に居た住民たちの塊が、左右に割れて一人の女が現れた。

「通してください」

 女は澄んだ声で兵士に言う。



「ここは立ち入り禁止……」

 言いかけた兵士はその女性を見ると口をつぐんだ。


「ローデリア様!?」

 兵士は仰天している。護衛どころか付き添いの修道女すら伴わず、身一つで現れた。


「し、しかし……、この先は」

「教会の信者たちが心配なのです。お願いします」


 ローデリアは深々と頭を下げる。

 住民たちからどよめきが起きる。

 兵士は止むなく彼女を通した。


⚪︎

「もう路地に入り切らないぞ!」


 一人の兵士がまた負傷者を運んできたが、小さな袋小路に負傷者が溢れかえっていてここには入らない。

 その負傷者を抱える兵士を魔導式ライフルの閃光が襲った。


「うわ!」


 兵士は負傷者を抱えて素早く動けない。

 大きな影が兵士の前に立ちはだかる。

 ゼノンの盾が、攻撃を防いだ。



「広場から離れろ! もうここで治療は無理だ!」

「あ、ありがとうございます!」


 兵士は負傷者を抱えたまま小走りで、広場から遠ざかっていく。

 ゼノンは舌打ちをする。


「このままでは、まずい。被害が拡大するぞ」


 指揮官の男は現状を維持しようとするばかりで使い物にならない。

 盾を構えるゼノンの脇を、戦場に似つかわしくない格好の一人の女がゆうゆうと歩いていく。

 ゼノンは驚愕する。


「!? お、おい、撃たれるぞ!」


 教会の組織員たちがこちらを狙いすましている。攻撃の嵐が女に襲いかかる。

 女は両手を正面に掲げた。

 瞬時に広場の周囲を覆う巨大な光のオーラが出現した。

 発生したオーラは、広場中央から放たれる魔導式ライフルの攻撃を全て遮断した。


「なっ……!?」

 ゼノンは驚きのあまり言葉を失う。


「ここは私が押さえます。負傷者を全員後方へ下げるように指示を」

 ローデリアは少しだけこちらに顔を向けて言う。


「あとは、彼らが」

 正面に顔を戻すと呟いた。


⚪︎


 教会の屋根は、頂上の縦稜線からなだらかに下っている。

 その屋根の稜線に一人の男が腰掛けていた。

 男の風変わりな赤い瞳は、地上で攻撃を防ぐオーラを作っているローデリアを見つける。


(あれほど、出て来るなと言ったにも関わらず……)


 カークスは舌打ちした。


 彼の周囲を、黒いローブに身を包んだ男たちが四人で取り巻いていた。顔は嘴の長い面で覆われている。


「カークス司祭、如何致しますか?」


 周囲を固める男の一人が淡々と言った。ローブの下からは体を保護する黒の革鎧が鈍く光っている。


「一階、人質の救出は任せる。敵は全て排除しろ」

 カークスは腰を上げる。



「俺は二階を片付ける」

「御意」

 男たちは四方に散って行った。


 カークスは屋根の端へと歩いて行く。

 やがて端に着くと、宙に身を投げた。

 身体が地上に向かって落ち始める前に、体を屋根の方へ向け、手を屋根の端に引っ掛けると、その勢いのままに窓を脚で蹴り破り、身を翻して教会二階の床に降り立った。



 予想外のところからの侵入者に、ポリテイアの組織員たちは呆気に取られている。


「何をしている!? さっさと撃たんか!」


 一人がこちらを指差して叫んだので、全員がこちらにライフルを向けた。


「……神意に逆らう愚か者よ。灰燼へと帰すがいい」


 カークスは腰にさげた剣の柄に手をかける。


 ポリテイアの組織員たちが魔導式ライフルを撃つ。

 寸前、カークスの剣が口火を切る。開いた鞘口周囲の空気が強烈な熱気に歪む。

 鞘から抜き放つと同時に剣を一振り。


 放った剣閃から膨大な炎が、轟とうなりを上げて駆け巡る。

 炎は魔導式ライフルの放った閃光もろとも敵を飲み込んでいく。


 中に居る組織員たちの金切り声の断末魔と共に、教会二階の窓という窓から炎が勢いよく噴き出す。その火炎の勢いたるや、広場の端から見ている兵士たちでさえ、一瞬目がくらむほどだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ