44.戦争
中央アクアリウムで死霊術領域が発生したという情報が誤報と分かったのは翌日のこと。情報の発生源は結局わからずじまい。悪質な悪戯ということで、その後も治安軍の方で調査が進められることになった。
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水神教団本部、大聖堂会議室。
豪華絢爛な大聖堂の一室には、中央に長テーブルが置かれ、教団を取り纏める九人の司祭たちが向かい合って座していた。そして、長テーブルの一番奥には、教団の全てを取りまとめる教皇の姿がある。
部屋は壁面に点々と設置された装飾灯の明かりが照らしているが、漂う厳粛な空気が妙に薄暗く感じさせる。
「……すると、カークス司祭、此度の件も彼らが?」
教皇が口を開いた。その身は如何にも荘厳な衣装に包まれている。
「ええ、恐らくは。死霊術を扱えるものは限られております。一連の事件と同一と考えてよろしいかと」
テーブルの端に座っているカークスは答えた。
「明白なのであればこれ以上、手をこまねいているわけには行きません」
カークスの隣、末席から澄んだ声が聞こえる。
「ええ、全く同感です、ローデリア様」
教皇は笑みを湛えてその声の方を見る。司祭たちも一同、次々に首肯する。
「カークス司祭。ことが始まれば、鎮圧の任に当たってくださいますかな?」
「御意のままに」
カークスは胸に拳を置き、会釈する。
教皇は満足したように微笑みを浮かべる。
「では、解散と致しましょう。皆、水神様のご加護がありますように」
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次の日、テロ組織「ポリテイア」の組織員の捕縛が海底都市全域の治安軍に伝達された。海底都市が始まって以来、最も大規模な摘発であっただろう。
ポリテイアは各アクアリウムの街並みに隠すようにアジトを設置していた。
その多くは治安軍によって摘発され、組織員たちが捕縛された。中には武力によって抵抗を見せる所もあった。
アジトのある地域の街中は戦場同然となり、魔導式ライフル、ボウガンの射撃音、剣や槍などの武器がぶつかる金属音が数日間、絶え間なく街中にけたたましく響き渡っていた。
治安軍は総動員して連日、各アクアリウム中のポリテイアの拠点を叩きに叩いた。
ローリスも例外なく、幾度も戦闘に参加した。
戦闘区域以外は生産活動を止めるわけにもいかず、妹のニコラもこのような状況下でも仕事に行っていた。
にも関わらず、ニコラは毎日遅くまでローリスが帰って来るのを心配そうに待っていた。
「お兄ちゃん、もう、戦いにいかないで……」
大怪我ではないにしろ、毎日生傷をつけて帰って来るローリスを見て、ニコラは涙ながらに言った。
「そういう訳には行かないんだ。俺はこういう時のために兵士になったんだからな」
ローリスは頑として言った。
二人の両親は、暴漢によって殺された。幼いローリスとニコラは、両親と共に生きるという、普通の人生を失った。しかし、世の中にはそのような人が他にも多く居るという。
彼は幼ながらにその理不尽さを理解していた。だから、働ける年になって、給料も決して高くないとしても治安軍に入ることを決めた。ただ、それがあるがために妹には色々と負担がかかっていることも重々理解していた。
「街にはたくさんの家族が住んでるだろ? その人たちが、俺たちみたいに理不尽に家族を失って欲しくないんだ」
ローリスは毎日ベッドの中で頭を撫でながら妹に言った。
「それに、お前を守るのだって俺たちの役割だ」
ローリスは力強く笑う。
実際、治安軍が戦闘区域の住民を避難させ、区域外に戦闘が及ばないようにしているおかげで、アクアリウムの生活は戦場の隣でぎりぎり正常を保っている。
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アマルティアはというと、こんな時にも関わらず。街中に出て行くのを止めなかった。ローリスも事情が分かっているだけに止められなかった。それに時間に関係なく戦闘が始まれば動員されてしまう生活の中では、そこまで気を回す余裕もない。
驚いたのはエリアが毎日家に来てくれたことだった。家に居る間のニコラは、いつもローリスが無事に帰って来るかどうかと不安に苛まれていた。
エリアは夜以外は殆ど家に居て、ニコラの不安を和らげてくれていた。
そんな生活の中で、大規模な招集がかかった。ポリテイアの生き残りが、最後の拠点に集結し、大規模な戦闘が起きる恐れがあるという。
家で身支度を整えて階下に降りていくと、ニコラの頬は既に涙で濡れていた。
「やだ、行かないで!」
すがりつくようにするニコラを後ろからエリアが抱くようにして引き離す。
「ニコラちゃん、そんなに泣いてたらローリスが困っちゃうわよ?」
エリアは気丈に笑っている。こういう時になると彼女は存外腹が据わっているらしい。さすがゼノン隊長の妹らしかった。
「毎日、悪いな」
ローリスは照れくさそうに言った。
「今さら何言ってんのよ」
泣濡れているニコラを抱いたまま、エリアは冗談を言った。
「ニコラちゃんのことは任せて。行ってらっしゃい」
幼馴染の笑顔が目に沁みた。




