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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第2章
43/79

42.新たな世界

「『創世の種子』は、人の旺盛な生存本能に触れて成長する。種子の力が臨界点に達すると、強大な魔力を放出するの。その魔力の放出で、少なくともこの星の上に居る生命のほとんどが死に絶える。そして、また一から新しい世界が始まる」



 アマルティアの静かな声が沈黙した空間に反響する。



「その『創世の種子』が全てを滅ぼす? この、海底都市も……?」



 少女が呟く。その表情からして信じがたいようだ。

 アマルティアはゆっくり頷いた。



「それで、あなたはそれを止めるつもりなの……?」



 少女は怪訝な顔を作った。人をはるかに凌駕する情報を持った大ラピスラズリであっても、理解しにくい話らしい。ローリスは言わずもがな、終始呆然としている。

 アマルティアはまた一度ゆっくりと頷く。



「……ええ、本来、この星の神々の力をすべて結集して創るはずのものよ。でも、私は加わらなかった。だから、『種子』は完璧じゃない。私の力を使えば止められるはず」



「なら、次の疑問。どうやってそれを探すつもり?」



「『創世の種子』は神々の手を離れたら、成長のために強い生存本能を持つ人に寄生する。そして、その成長過程で強力な魔力を発生させる。それを身に宿す人は、普通の人とは比べ物にならない魔力を使えるはず」



「その条件に当てはまる人物を探そうと言うわけね」



 少女は頷いた。そして、初めて安堵の表情を浮かべた。



「……良かった」

 少女は呟く。

 アマルティアは少女を見つめた。



「え……?」

「もし、あなたが危険な存在だと思ったなら、ここから出すつもりはなかったわ。もちろん、私もタダでは済まないけど」



 それを聞いてローリスは初めてぎょっとした顔をする。



「マジかよ……。危ねぇ〜」

「あら、心外ね。私は都市の人々の暮らしを守るように設計されているの。それが、私の創造主の意思だから」



 少女はこちらに優しい笑顔を向ける。もう敵意はないと言うことだろう。



「最後にもう一つ聞いても良い?」

 少女はアマルティアを見る。



「どうしてそこまでして人を守るの? あなたの話の通りなら、あなたにとっても人は忌避するべき存在のはずでしょう?」



 アマルティアは目を瞑った。



「……水は生命を育むものだから。あ、えっと、他の神々はどうかわからないけど、私にとって人はとても身近な存在なの。それに……」




 ローリスとニコラの食卓での笑顔。

 ちょっとしたことでころころと表情の変わるエリア。

 ゼノンが妹を叱る時の怖い顔。

 顔を輝かせながらアーケロンを操作するコニーとエセル。



 この海底都市で出会った人々の色とりどりの表情が浮かんだ。



「直接触れて、その気持ちがもっと強くなったかも……」

 目を開くと、少女の笑顔が見えた。



「ふふ、あなたとは気が合いそうね。それなら、私も心置きなく協力させてもらうわ」



 アマルティアは少女に微笑んだ後で、ローリスの方を向く。



「ローリスも……」

 アマルティアの握った手が微かに震えている。



「私を信じて、くれる?」



 海底都市に来るまで、神々の怒りが吹き荒れる大陸を一人で旅した。旅が終わる頃には、身体は疲れ果て、心は冷え切り、気持ちも落ち込んでいた。



 しかし、海底都市で出会った青年は、彼女に温かな場所を与えてくれた。

 全てを失った自分に帰る家をくれた。

 何もなかった時と違って、今はその場所を失うことが怖く感じられた。


「……分からねぇ」

 ローリスは視線を逸らす。



「え……?」

「はっきり言って途方もなさ過ぎてサッパリ分からねぇよ」



 だけど、とローリスは言葉を継ぐ。



「俺にとってあんたは、もう家族みたいなもんだ。だから、神様がどうとかはよくわかんねぇけど、その……困ってるなら、俺は助けたい」



 ローリスは顔をアマルティアの方へ戻す。



「……うん」

 ローリスを見つめ返す瞳は潤んでいる。



 二人の間に漂う温かな空気。

 その間に繋がれた手。



「……あなたが、羨ましいわ」

 少女がアマルティアを見ていた。



「あなたは人とそうして触れ合うことができる……。でも、私には、この石を通して人の存在する世界を覗き見ることしかできない」



 向けられていた少女の笑顔が萎んでいく。



「人は、その身体で直接感じて、喜んだり、楽しんだり、悲しんだり、怒ったりできるの。人として生きることができるのは、特別なことよ」



「寂しかったら、また連絡して」



 アマルティアがはにかんだ。

 少女は淑やかな声で笑う。



「うふふ、ええ、そうさせてもらうわ」



 そして、三人の間に穏やかな沈黙が訪れた。

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