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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第2章
42/79

41.神に抗うもの

 神は遥か昔、同じように人の姿をして、人々と共生していた。

 人々は未知なる力を持つ自然と、その創造主たる神を崇めた。神々は人を時に慈しみ、時に厳愛をもって導いた。


 しかし、時代が進み人々が知恵を持つようになると、自然の与える厳しさに疑念を抱き、魔術で制御するようになる。

 やがて、魔術を意のままに操れるようになって来ると、人々は次第に神の存在を忘れるようになっていった。



 人々に忘れ去られ、神々はそれぞれの神の力を結集し、別の次元に神々だけの世界を創造した。

 神々はしばしの安寧を得た。そして、次元の壁を隔て、未来永劫、人との縁は絶たれた筈であった。

 

 しかし、人類が星の上でただならぬ魔術を使い始めた。


 恐るべき破壊力を持つ魔導兵器は、大地を抉るほどの破壊力を見せ、その影響が神々の世界にまで及んだ。



 別の次元へと移り住んだと言えど、星と運命を共にする神々は星なくして生きることはない。

 こうして人々は神々にとって看過できない存在になった。

 神々はとうとう、人を星の地上より排除する決意を固めた。



 それぞれの神が人の次元を超えた力をもって、人々の住む世界を粛清し始めた。火神は盛って世界中の木々を次々と燃やし、風神はサイクロンで地表を削り尽くし、地神は地を揺らして大地を割り、雷神は厚い雲で空を覆い、雷光を地上へと幾度も叩きつけた。



 そんな中、静観を続ける神が居た。

 水神は制裁を加えるどころか、荒れた大地に今一度、恵みの雨を降らして乾いた地面を潤し、森を焼く炎を消し続けた。



 神々は口々に水神に止めるように警告し続けた。

 しかし、自らの意思で育んだ生命を、自らの手で摘むことをこの水神は了承しなかった。そして、地表を離れ、海の底へと逃げ込もうした人々を水神は黙って迎え入れた。



 とうとう他の神々の反感を買った水神は、神の世界より追放された。



 ある日、浜辺に打ち寄せる波が引いた時、水が形を成して、そこに一人の少女が現れた。少女の体はみるみるうちに衣服や装飾品に覆われて行く。



 えんじ色の髪から水が滴っている。

 少女は澄んだ青色の双眸を目の前の大地に向けた。



 瘴気に覆われた暗い空。

 枯れ果てた大地。

 溢れる歪な生物、魔獣たち。



 その中を人家を探して数年間、彷徨った。



 「神堕ち」は人の体を得ることで制限はされるものの、未だ絶大な力を残している。普通の人間ならば数日と生存できない環境でも、彼女の場合は旅をすることができた。



 しかし、その彼女であっても、長きに渡る旅によって疲れ、枯れた景色ばかりを目にした心は凍てつくように冷えていった。



 とうとう地上に人を見つけられなかった少女は最後に、深海に受け入れた人々の元へと向かうため、海を目指した。



 元々、水の生まれ変わりである彼女にとって、水の中での移動は容易なもので、夜空に星が流れるように水の中を移動した。

 やがて、海の真ん中で水中から伸びる塔を見つけると、そこから海底を目指した。



 塔を辿って潜っていくと、海底に暖かな光が広がるのが見えた。

 少女は目を大きく開き、その光景を瞳に収めた。

 自らの手で育んだ人々が、海に戻り、こうして懸命に生き延びている。



 そして、それがこのように美しい光景を生み出している。言葉に尽くせないほどの嬉しさが、胸に込み上げていた。



 少女は街に入ろうとするが、薄い透き通った壁が邪魔で入れない。



 誰か……。

 と中を覗いた時、一人の青年と目が合った。




「それが、あなた」

 アマルティアがこちらを見つめている。



 ローリスは呆然としている。色々と情報量が多すぎて、頭が追いつかない。

「一つ疑問があるわ」

 二人の向こうから、少女が言った。



「どうして、そこまでして地上で人を探したの? あなたの話が事実なら、あなたが人々を海底に受け入れたのだから、初めから海底都市を目指せば良いだけのはずよ」

「私が探しているのは人じゃなくて『種子』だから」



 アマルティアは答える。彼女は全てを語るつもりのようだ。



「……種子?」

 少女が繰り返す。 



「何のこと?」

「私以外の神は、人をこの星から排除したい。それはまだ変わってないの。でも、人々が私の庇護下……海の底に隠れた以上は、普通の方法では人に手を出せない。だから、人に『種子』を植え付ける」



 アマルティアは目を伏せる。




 必要な時を除いて神々が互いに言葉を交わすことは、ほとんどない。

 無限に近い時を生きる神々にとって、よほどの大事でなければ互いに言葉を交わすどころか、行動を起こすことすらない。



 行動を起こすのは、常に必要に迫られた時だ。



「人々はもはや、我らの手から逃れたようですね」

「かくなる上は『創世の種子』によってこの星に新たな世界を創る以外に方法はないだろう」

「俺も依存はない」

「水神……。そなたに最後の機会を与えよう。我らに加わるか?」



 水神はしばらく黙り込んだ。

 そして、長い沈黙を経て、答えた。



「……出来ないわ」



 その日、彼女は地上へと堕とされた。

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