39.海底都市の中心
間が空いてしまいスイマセン…
私生活がなかなか落ち着かないので小説に手がつけられずにいました
何とか週に一回は更新を続けていきたいと思います
「ローリス!」
隣を歩いていたアマルティアが突然呼び止める。
「ど、どうした?」
ローリスは驚いてアマルティアの方を見る。
「こんにちは。あなたはこの子の友達?」
ローリスの方にも、アマルティアが聞いているのと同じ少女の声が聞こえる。
「なんだ!?」
ローリスは驚いてアマルティアを見る。彼女は頷いた。どうやら同じ声が聞こえているらしい。
「どうして一緒に歩いてるってわかったの? どこかから見てる?」
アマルティアの声が俄かに警戒感を示す。
話しながら周囲を見渡したが、街は行き交う人ばかりで怪しい人影はない。
少女は囁くように小さな笑い声を立てる。
「……それは会えたら説明するわ」
「なら、場所を教えて」
アマルティアは聞く。
「中央塔」
少女は言った。
二人は同時に街の中央の巨大な塔を見上げた。
「そこから、その大通りを北へ十分くらい歩けば着くわ」
少女に言われた通り、アマルティアとローリスは通りを北上し始めた。行きながら、アマルティアは眼前の塔を見上げた。中央アクアリウムは都市全体の中枢部ということもあって栄えている。高い建物も多い。
しかし、塔はその建物の群れから突出して、遥かうえまで続いている。塔の壁からは、街へと供給される膨大な魔力エネルギーの光が上から下へと脈打つように流れていく。流れて行った魔力エネルギーは地盤の下を通り、各家庭へと送られる。
各アクアリウムの中央からドーム状の魔力バリアを突き破って伸びる塔は、この中央塔を中心に地上の魔力エネルギーを集約するためのアンテナの役割をしている。
いつも遠くには見えていたが、眼前で見るとまた壮観であった。
塔は直径約六十メートルほどあり、周囲には高さ三メートルほどはありそうな高い柵がぐるりと囲っている。
その柵の中を、魔導ライフルや壮麗な剣や槍など、武器を携えた兵士たちが小隊をいくつか作って歩いている。
塔は常に治安軍中央本部の精鋭が警備している。中央アクアリウムに存在する治安軍の、実に三分の一がここに集中している。中央本部である城郭に入りきらない兵士たちが詰める場所でもある。
警備の厳重さで言うならば、この場所以上のところは海底都市に存在しないだろう。
「それじゃ、塔の中に入って」
アマルティアとローリスが塔の周辺に着くなり、少女の声が飛んでくる。
「はぁ!?」
ローリスは思わず声を上げてしまった。塀の中を歩く兵士たちが数人、不審そうな目を向けたので二人は慌てて塔から離れた。
「そんな簡単に入れるわけないだろ!」
塔周辺の建物の影に隠れると、ローリスが声を絞りつつ怒鳴った。
中央塔は都市全体のエネルギー供給を自律管理している巨大なラピスラズリが安置されている。いわゆる都市の心臓部である。
治安軍の中でも関係者の人間以外は立ち入ることができない。当然、ローリスは関係者ではない。
「心配ないわ。構わず正面から入って」
少女はこともなげに言う。
「あんたを信用できるって保証は?」
ローリスが聞く。流石になんの保証も無しに行くとは言えない。もし、侵入者として捕まれば、良くて免職、最悪、そのまま牢屋行きも有り得る。
少女は一瞬、思考するように沈黙した。
「……なら、今から起きることを私が説明してあげる。もし、それがその通りなら、私を信用してもらうわ。それで良いかしら?」
「……わかった」
ローリスは頷いた。
「まず、塔の緊急警報アラートが二回鳴るわ」
少女が言った。
すると、言い終わってすぐに塔からアラートが二回、甲高く響いた。
「……そして、周囲を警戒している兵士の約半数が、門を出て行く」
やがて、兵士たちは隊列を作って、きびきびと門から駆け足で出て来る。
ローリスたちの隠れている建物の前を通ってどこかへ行ってしまった。
これには二人とも閉口した。
「どう? 信じる気になった?」
少女の平然とした声が響いてくる。
ローリスとアマルティアは顔を合わせて頷いた。
二人は建物の影を出て、塔へとゆっくり近づいていく。向かっていく先に鉄柵の門がある。
両脇に立派な装鎧を装備した兵士が、立派な槍を手に持って立っている。
「ん? なんだお前らは」
いかにも熟練そうな兵士は、明らかに場違いな二人を見て怪訝な顔をする。
「中に入りたいんだ」
ローリスはやむなく兵士に言った。少女からは門番に何を言う、などの指示は受けていない。
「はっ! 馬鹿言え、ガキが入って良い場所じゃない。さっさと失せろ」
と兵士は一笑にして、取り合わない。
ローリスは子供扱いにムッとした。
「子供じゃない。俺は、治安軍の兵士だ」
「はぁ……?」
門番の男は疑念に満ちた目で青年を下から上まで見る。
どう見てもいつも塔に入っていくような厳しい軍人やお偉方とは違う。
「いいから、中に入れてくれ」
ここまで言った以上、ローリスは開き直っている。今度は堂々と言い放った。
門番の男は呆れたようにため息をついた。
「……わかったよ。そこに立て」
男は渋々横に退くと、石作りの門の柱が見えた。そこに拳ほどの大きさのラピスラズリが埋まっている。このラピスラズリで関係者かどうかを照合するらしい。
二人は柱の前に立った。
一瞬、かっと光ったかと思うと鉄柵が奥へと開いた。
兵士は口をぽかんと開いて驚いた顔をしている。「関係者なわけがない」とたかを括っていたらしい。
「し、失礼しました!」
急に敬語になった。
「わかれば良いんだ」
ローリスは得意顔で兵士の脇を通って門を抜けた。
「これも、あの女の子がやったのかな?」
アマルティアは門を通った後、ちらりと背後を見ながらローリスに小声で言った。
「わかんねぇ。けど、なんか怖くなってきた……」
さっきの得意顔はどこへやら、ローリスは顔をこわばらせたまま歩く。塔の壁にある大きな門も自動で開いた。
塔に入ると、つるりとした暗い色の大理石のフロアが広がっていた。大きな空間の一角には指揮所と思しきカウンターに囲われた場所があり、中心には太い柱のようなものがある。恐らく前に見た塔と同じで、そこにエレベーターが通っているのだろう。
中の兵士たちはただならぬ様子で慌ただしく駆け回っていた。入ったローリスたちの脇を通り、隊列をなして外へと出ていく。反対側にも同じように大きな門があり、そちらからも大勢の兵士が出て行く。
物々しい雰囲気が漂っていた。
「ふふっ、問題なく通れたでしょ?」
少女の声が聞こえてくる。
「ああ、でも、一体何が起きてるんだ?」
「説明は後よ。あなたたちはそのまま中央のエレベーターに乗って最上階へ行って」
少女に言われるがままに、ローリスとアマルティアは中央の柱の方へと向かって行く。
柱にある壁の一部が突然スッと両脇スライドして開く。
中に入ると自動で扉が閉まり、丸いフロアの端に薄い光が立つ。魔力シールドが展開したようだ。
何も操作をしていないのに、エレベーターは高速で上昇し始める。壁が物凄い速さで通り過ぎて行く。
アマルティアは静かにローリスの手を握る。不安になったのかもしれない。最も、それはローリスも同じだった。
エレベーターは遥か上、海面に達する最上階へと向かって行く。




