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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第2章
39/79

38.声の主

「男ってほんとサイテー!」



 エリアはアマルティアの腕を引っ張りながら騒がしい大通りから離れて小道に入る。

 やがて、賑わいが遠くなった。今日は、地域に住むほとんどの住民があの大通りに集まっているらしい。



 歩いていたエリアの手が急に引き戻される。引っ張られているアマルティアが立ち止まったらしい。



「あの、私はこっちだから……」

「え、あ、ごめん」



 エリアは掴んだままだったアマルティアの腕を離した。



「エリア、大丈夫?」

 アマルティアはエリアの顔を覗き込んだ。



「え……何が?」

 意外なことを聞かれて、エリアは戸惑った顔をする。



「怒ってるから、何か嫌なことがあったのかなって」



「はぁ!? 別にそんなんじゃないわよ。ただ……」

「ただ?」



 アマルティアは興味深そうに小首を傾げる。



「……もう! 私は大丈夫だから、アマルティアは自分の用事を済ませて来て」

 エリアは顔を赤くして言う。



「……?」

 アマルティアは不思議そうな顔をしたが、エリアを置いて街の中に消えた。

 一人残されたエリアは、確かめるように自分の胸に手を置いてみる。



 アマルティアは、箱型のビークル「プランクトス」に乗って海底道路から別のアクアリウムへと移動していた。軍の兵員輸送や貨物運送として使われる他に、公共交通機関として海底都市を巡回している。運航は全てラピスラズリが自律管理しており、操縦席はない。



 プランクトスの内部は、人一人が通れる小さな通路を挟んで、二人で座れる座席が連なっていて、客がまばらに乗車している。



 各座席の側面には、座った目線の高さに丸い小窓がある。

 アマルティアはその小窓から外を覗いてた。遠巻きにゆっくりとアクアリウムから深海の海に漏れ出る街のあかりが一望できる。



 中央にある大きなアクアリウムと周囲に八つあるアクリウムをこの一ヶ月で一通り歩き回った。

 今日はどこへ行くべきかと考えていた時、ラピスラズリの通話を知らせる高音が頭に響く。



「ローリス?」

 アマルティアが応答する。



 しかし、返事はない。

 アマルティアは「ひょっとして」と考える。

 ここ最近、ローリスの会話に混線して聞こえた声かもしれない。



「……教えて。あなたは、誰?」

 アマルティアは聞いてみた。



「……やっとうまく繋がったわね。思ったより難しかったわ」



 頭に響いてきた声からして幼い少女、のようだ。



「私もあなたの正体が知りたいの。明日、中央アクアリウムに来てくれたら教えてあげる」

「え……?」



 意外な返しにアマルティアは驚く。



(私のことを知ってる人……?)



 アマルティアは思い返してみたが、今、話している以外にこの声を聞いた記憶がなかった。色々と疑問が頭をよぎった。



 しかし、聞こうにも先に少女は


「また連絡するわ」


 とだけ言ってすぐに通話を終了してしまった。




 海底都市の夜。

 アクアリウム内を白々と照らす天上の魔力照明は消灯し、道の街灯や通りのネオン、家々からの明かりが海底都市を満たす。


 アクアリウムの端、ローリスたちの家では、夕食が終わった頃だ。



「そう言えば、この間、話してた声の人が連絡をくれたの」 



 食事を終えて、アマルティアが切り出した。



「直接連絡をくれたのか?」



 ローリスは驚いた。ラピスラズリの不調で通話が混線でもしているものだと思っていたが、違ったらしい。声の主はアマルティアに連絡をしようとしていたようだ。



「え、知らない人から急に通話……?」



 傍で話を聞いていたニコラが怖そうに身震いする。普通、記憶されていないラピスラズリ同士での通話はできない。



 アマルティアは頷く。



「うん。それで私に会いたいって」

「それ、大丈夫なの……? 治安軍の人に通報した方がいいんじゃ……」



 ニコラは心配そうな顔をしている。

 ニコラはアマルティアが未知の魔法を使えることを知らない。自分と同じで普通の女の子だと思っている。



「でも、こんな話、信じてくれるかな」



 アマルティアは言った。そもそも、その声の主と話したと言うのはアマルティア一人だ。治安軍が動くには根拠が頼りない。



「なら、お兄ちゃんが行ってあげたら?」



 ニコラは隣のローリスを見上げる。



「え、俺?」



 ローリスは辟易とした顔をする。

 明日は確かに非番だが、今日はローデリアの訪問で一日中、街中を駆けずり回っていた。そのおかげで身体が疲れまくっている。



「お兄ちゃん、治安軍の人でしょ! 女の子が危ない目に遭ってるのに放っておくの?」



 妹の言葉がグサリと胸を刺す。



「……分かった。確かに心配だしな」



 疲れてはいたが、妹の叱咤もあって厄介ごとに巻き込まれている人を放って置けないタチの方が優った。



「ありがとう」

 アマルティアは嬉しそうに笑顔をローリスに向ける。

 街に詳しいローリスと一緒の方が何かと不安もないのだろう。


 次の日、ローリスとアマルティアはプランクトスで中央アクアリウムを目指した。

 海底に打ち付けられた黄色金属の道路の上をプランクトスが進んで行く。道の両脇には点々と照明が設置されており、進行方向を見失うことはない。



 この道路の上は塔の頂点から街全体に供給されている魔力が通っている。ビークルはその魔力をラピスラズリに受けて動力を得ている。 



「ところで、中央アクアリウムのどこに行けば良いんだ?」



 プランクトスでの移動中、ローリスは聞いた。

「実は、そこまで話す前に通話が終わっちゃって……」


 アマルティアは困った顔をした。



「あ、でも、また連絡するって言ってた」

「とにかく、向こうの言う通りに動くしかないか」



 通話をして来た相手が信用できるできない以前に、それしか方法はなかった。





 プランクトスが中央アクアリウムのシールドを突っ切って中へと入る。やがて、街の中央の停止場で止まった。



 二人はプランクトスの開口した後方のハッチから街へと出る。

 通りに降り立ってすぐに、ローリスはアマルティアに「どうだ?」と聞いたが、通信はなかった。



 二人は、しばらく街をあてもなく歩いた。



 中央アクアリウムの街中は相変わらず至る所が市場街と化している。人も物も各アクアリウムから集まってくることでどこもかしこも常に人で賑わっており、細かな異常を見つけるのは難しい。



「……言われた通りに来たわね」



 とアマルティアの頭の中に声が響いた。驚いて身体を震わす。事前に通話を知らせる音もなかった。

 

毎度お読み頂きありがとうございます。

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