32.ニコラの夢(2)
魔法技術の発展に伴い、便利な道具が増えた。昔は魔術が必要とされていたことも魔術細工を施した道具に置き換わってしまった。現在では仕事で必要な人や学者などのごく少数だけが魔術を扱う。
このラピスラズリの加工は道具や機械で置き換えることのできない、人だけができる作業だ。故にこうした小さな工房でもやっていけるのだろう。
ニコラは作業台に向かって目を閉じている。両手を台座のラピスラズリの上にかざしている。
やがて、ラピスラズリが薄く光を上げ始め、止まっていた表面のまだら模様が活発に動き始めた。
今、ニコラがラピスラズリに加工を施している。
傍でローリスとアマルティアはそれを見守る。
加工中のニコラは、意識を完全にラピスラズリの中に集中しているため、話しかけられない。二人はそのまま待った。
二、三十分ほど経過した時、ニコラが目を開いた。
それと同時にラピスラズリの光は萎むように徐々に暗くなっていった。
「終わった?」
アマルティアが聞く。
「うん、多分……」
ニコラが返事をして、そっと両手でラピスラズリを持ち上げると、マンダのフレームの前まで行く。
ちょうどそこにフレームを見ながら何か思案しているダミアンが居た。
「ダミアンさん、ちょっとテストしてもいいですか?」
ニコラがダミアンを見上げて言う。
「ああ、構わないよ」
ダミアンはニコラからラピスラズリを受け取ると、置いてあるマンダのフレームに潜り込んだ。操縦席に着くと、目の前にある丸いくぼみにそれを設置する。
ラピスラズリの周囲からフレーム全体へと脈打つように光が発せられると、マンダの生体部分、光のヒレが両脇に大きく広がる。
「はい、行くよ」
とダミアンが合図するとヒレが動き始めた。ニコラはそれを真剣な顔で見ている。
やがて、光のヒレが消えて霧散し、操縦席からダミアンが降りてきた。
「どう思う?」
ダミアンが聞いた。
「はい、なんかちょっと動きが変でした」
「そうだね。設計図通りに加工はできてると思うけど、ちょっと動作部分の微調整が必要かな」
ニコラは、ダミアンからラピスラズリを受け取ると、すぐに作業台へと戻ってまた加工を始めた。
「ねぇ、これは加工しないの?」
ニコラが作業している最中に、アマルティアは作業台の端に置いてあるもう一つのラピスラズリを指差す。加工中のラピスラズリに比べて一回り大きい気がする。
「あぁ、それね」
近くに居たダミアンが微笑む。
「それはニコラちゃんの趣味だから」
「趣味?」
ぴくりと反応して、ローリスは聞く。そんなことは聞いたことも無かった。
「あれ? ニコラちゃんから聞いてないかい?」
ダミアンは意外そうな顔をする。
「これはプランクトス用のラピスラズリだよ。ほら、あの業務用のビークルね。で、ニコラちゃんの夢はね、プランクトスの中を改装して海の中で暮らせる家を作ることらしいよ。それで……」
とダミアンは声を落として二人の間に顔を近付ける。
「……お兄ちゃんと一緒に乗りたいんだってさ」
「ちょっと、ダミアンさん! それ、恥ずかしいから内緒にしてって……!」
ニコラは赤くなった顔をこちらに向ける。
「あれっ、聞こえちゃった?」
ダミアンは頭を掻きながらごまかし笑いを浮かべる。
「うぅ……作業、中断しちゃいました」
ニコラが拗ねた顔をする。
「あ〜! ごめんごめんごめん!」
ダミアンは慌てて言う。子供のこういう顔には弱いタチらしい。ローリスは内心、良い職場のようで安心した。
「もう変なこと言わないでくださいね!」
ニコラが作業台に向き直りながら言う。
「言わない、もう何も言わないから! ね、ローリス君!」
「え!? 俺のせいですか!?」
最近、自分の小説を見ていて一回あたりの更新でボリュームが少なすぎて読み応えがないかもしれないと思いました。
更新回数は減りますが、二話連続投稿することにしてみます。




