31.ニコラの夢
次の日、朝早くにローリスは目を擦りながら起きてくると、ニコラとアマルティアが家の円卓に座っていた。
「遅い〜」
二人は、ばたばたとテーブルを叩いた。
非番のローリスは、昨日話していたニコラの職場へと一緒に行くことにしていた。
が、見事に寝坊した。
「あはは、悪い悪い……」
ごまかし笑いを振り撒きながら、急いで私服に着替えて準備をする。
家の外に駐機してあるマンダに三人は乗り込む。
ビークルが動作音と共に始動する。
ニコラは前方に座り、ラピスラズリの表面に指を滑らせて、行き先を指定した。
ビークルが動き始める。
狭い小道を低速で通って、太い幹線道路へと出る。ビークルが何台も高速で通り過ぎ、瞬間的に空いた合間に三人の乗るビークルが入り込む。ここからは高速移動になる。
海底都市セレーネは、ドーム状のシールドに包まれた街、アクアリウム群によって形成されている。
中央に海面に達するほど高い塔を持つ中央アクアリウムがあり、その周囲を八つのアクアリウムが囲っている。
各アクアリウムは野菜や木材等の栽培を中心に行う農業区だったり、歓楽街が多く点在する歓楽区だったりといった具合に産業別に別れている。
そして、それらの中央に位置する中央アクアリウムは、距離的な利便性から、自然と周囲のアクアリウムで生産された物が多く集まるため、ほぼ全域が商業区となっている。
ニコラの職場は三人が住むアクアリウムに隣接した工業区だ。
乗り込んで二十分ほどで海底を通り過ぎ、工業区のアクアリウムへと到達する。
工業区には大規模な工場が点在しているが、大通りは意外とこじんまりとした工房ばかりが立ち並んでいる。
その一角にニコラの職場がある。
「やあ、ニコラちゃん」
三人がマンダを降りて工房へと入ると、工房の入り口で、メガネをかけた優しそうな中年の男性が声を掛けてきた。
「おはようございます。ダミアンさん」
ニコラが頭を下げる。どうやら彼がこの工房の主人らしい。
「おや、そちらは……? ひょっとして前に話していた兄妹かい?」
メガネの下から覗いた男の目が、ニコラの背後に向けられる。
「はい! 工房の中を少し見せてあげたいんです。いいですか?」
ニコラはダミアンの様子を伺うように言う。昨日今日の話なので、まだ許可は取っていなかったらしい。
「ははは、いつか連れて来たいって言ってたもんなぁ。良いよ、ついて来て」
ダミアンはそれを快諾すると、手招きした。
中に入ると小さな工房の中に作業者が、それぞれの作業台に分かれて、目を閉じて何か作業していた。作業台の中心には、両手に収まるほどのラピスラズリが簡易な台座に乗せられて置いてある。
並べられた作業台の向こう側には、広いスペースがあり、平べったい流線型、マンダのフレームが置いてある。運転席のドアや後部のスクリューは付いていない。本当にただのフレームだ。
「フレームの近くには危ないから寄らないでね。他は自由に見ていいよ」
ダミアンはローリスとアマルティアに言うと、ニコラに目を向けた。
「ニコラちゃん、案内してあげて。終わったら作業してね」
ニコラは顔を輝かせる。
「はい! ありがとうございます」
アマルティアが工房の端に並ぶ棚の合間に入っていく。
棚には箱がいくつも置いてあり、意味はわからないが、外にメモが貼られている。
「ここの箱の中には、加工前のラピスラズリが入ってるんだよ」
いつの間にか隣に来ていたニコラが説明する。
「これをどう加工するの?」
アマルティアは聞いた。
「この中に設計通りの生体運動の記憶を入れるの。ほら、ビークルってみんな生き物みたいに動く場所があるでしょ? あれはラピスラズリに生体運動を記憶してるからできるんだよ。あとで私が作業してるところも見せてあげるね!」
ニコラは熱っぽく言う。アマルティアもしきりに頷きながら、興味津々に目を輝かせている。
(やっぱり連れて来たかっただけか……)
傍のローリスは苦笑いしている。




