29.呼び声
不可思議な魔術を使うアマルティアの正体は一体?
そして、一連の死霊術事件を仕組んだ人物とは?
第二章スタート
魔法石、ラピスラズリ。
海底火山近くにある鉱山からも採掘が可能なこの石は、大量の魔力を蓄積することができる。
さらに、その魔法石に人が魔術加工を施すことにより、蓄積した魔力を燃料として、あらゆる方式の魔術を発動させることができる。設定しだいで、魔術の発動タイミング、継続時間も自在に変更が可能だ。
そのラピスラズリは海底都市の至る所に使われている。
例えば、都市を覆う巨大な魔力シールドやあらゆる場所から都市を照らしている魔力照明は、各アクアリウムの中央塔最上階にある巨大なラピスラズリが発生させている。
海底都市の主な移動手段の半生体型ビークル、通称「ビークル」の操縦席にもコントロール用のラピスラズリが設置されている。
また、海底都市に住む人々が携行するアクセサリーにもラピスラズリの欠片が埋め込まれ、念話によって遠隔で会話をすることができたり、記録魔法によって持ち主のあらゆる情報が記録できたり、と挙げ始めると終わりがない。
この魔法石を利用する方法を見つけたことは、人類の高度な魔法文明の賜物と言えるだろう。
ローリスは兵装で今日も街中を巡回していた。
キーン、と耳鳴りを少し大きくしたような音が頭の中に直接響いてくる。
これはローリスにしか聞こえていない。ラピスラズリを介した通話の合図だ。
ローリスに通話をしてくる相手は大体限られている。
「はい」
「あ、ローリス、お仕事中にごめんね」
「今さらそんなこと気にすんなって」
頭の中に響いてくるアマルティアの声に、ローリスは返す。
最近は落ち着いているが、アマルティアは街に出て分からないことがあると、ローリスに聞く。「今さら」とローリスが言うのもここ一ヶ月、ほとんど毎日、一日のうちに何回も通話が来ていたからだ。
下手をすると治安軍の業務連絡よりも多いのではないかと思うほどだった。
「それで、どうした?」
「うん、少し休む場所を探してたんだけど、知らない人にお店に連れて来られちゃって……」
困った顔が目に浮かぶような声だ。客引きを断り切れずに連れて行かれたらしい。
「みんなサイコロを振って遊ぶんだって言うんだけど、どうやって遊べば良いのかな」
「ん? サイコロ?」
ローリスは不思議そうに視線を宙に漂わせる。
「おい、それ、賭博じゃないか?」
「とばく……?」
アマルティアは不思議そうに繰り返した。
今日、彼女はパンセリノス区という場所へ行っている。九つあるアクアリウムの中で最も歓楽街が栄えている場所だ。そんな場所だけに、一本裏の路地へと入ると、欲が渦巻くような裏社会が広がっている。
多くは、いつ治安軍に摘発されてもおかしくないような店や組織の事務所ばかりだ。
「ああ、そこは休憩できる場所じゃない。危ない場所だからすぐに出るんだ」
ローリスは言う。
行くと聞いて反対はしなかった。以前にアマルティアが見せたあの力があれば、むしろ襲う側の身が心配なくらいだ。ただ、トラブルは避けるに越したことはない。
トラブルメーカーはエリア一人で間に合っている。
「……」
アマルティアからの返事がない。
「ん? おい、どうした?」
ローリスは聞く。
「……あ、うん。すぐに出るね」
向こう側で何かあったのだろうか。不自然な間が空いてようやくアマルティアの応答がある。
「大丈夫か?」
一瞬心配が心をよぎったので、ローリスは聞いた。
「ううん……大丈夫。もう、帰るね」
何もなかったにしては、歯切れが悪かった。
しかし、通話は終了した。
ローリスもちょうど治安軍の地区本部へと到着した。治安軍の建物の前で、ゼノンが一人、腕組みをしたまま思案顔で立っていた。
「隊長?」
「ぬおっ!? 急に話しかけるな!」
ローリスが声をかけると、よほど思案に耽っていたらしく、ゼノンは大きな体を震わせて驚いた。その迫力に声をかけたローリス自身も驚いてしまった。
「し、失礼しました」
ローリスは、こめかみ辺りにひやりとした汗が流れたのを感じた。
「あの……どうかしたんですか? 何か悩んでたみたいですけど」
ローリスは改めて聞いてみた。
ゼノンは一瞬、沈黙して考え込むが、やがて
「……まぁ、すぐに全体に通達するから構わないか」
とつぶやいた。
「実は、先日の死霊術領域が発生した事件の件、中央本部によると、『ポリテイア』の仕業ということになったらしい」
ポリテイアはかつての政治組織の残骸である。元々、海底都市セレーネを運営していた政治組織だったが、十年ほど前に政争に敗れ、表舞台から消し去られた。
そして、現在は残った有志だけが政界へと返り咲くために活動を続けている。「水神教団が政治に加担しており、本来の共和制を取り戻したい」ということを街頭で度々ポリテイアの組織員たちが声高々に演説している。
しかし、時に行動の過激さが取り沙汰され、現在は準テロ組織扱いになっている。
彼らがやったと言えば、大半の市民は「やっぱりか」と納得するに違いなかった。
「犯人が分かったってことですね。それなら良かったんじゃ?」
しかし、ゼノンの顔は冴えなかった。




